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“地方創生”に大学は貢献できるのか?

「COCプラス」申請締め切りにあたって

2015/07/06  タグ:  

角方正幸(リアセックキャリア総合研究所所長/「就業力の広場」責任者)

「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」(COCプラス)への申請が7月1日に締め切られた。「どのような形で地域貢献できるか」、「学生の地元就職率を上げるためには……」、「大学の研究で地域に役立つものは……」等々、多くの大学が頭を悩ましたのではないか。
今回はCOCプラスを推進していくうえで関係が深い“地方創生”について考えてみたい。というのも最近目にする調査レポートや政策提言には、この地方創生という言葉が数多く出てくるからである。

“地方創生”というキーワードが注目される背景には、アベノミクスの第3の矢(成長戦略)がある。つまり、株価の上昇に続く実体経済の成長に向けた戦略として、とりわけ少子高齢化社会において、日本経済全体の浮上には地方経済の再生が不可欠という認識が強くなってきた。そして、地方創生担当大臣がおかれ、政府の各種政策は“地方創生”を合言葉に統合化されてきた。
ここに、文部科学省においても「大学COC事業(地(知)の拠点整備事業)」が「COCプラス事業」と名称を変え、よりいっそう“地方創生”を実現するための大学改革へと性格を変えてきた訳がある(予算獲得の方策でもあるが)。地元就職率や地方移住などの課題が加わったのも、このような理由からである。

「実際に活動し成果を上げている事例」に学ぶ

これらの動きに相まって、政府機関や民間シンクタンクなどから多くの意見や調査レポートが発表されてきた。そこで、このひと月間で気になった3つのレポート(記事)を紹介したい。

最初に紹介するのは、中小企業庁がまとめた「地域課題を解決する中小企業・NPO100の取組」(2015年6月)である。
これは、実際に全国各地の地域課題を解決してきた事例をわかり易くまとめたものである。私が気になって調べたのは、100の取組事例の中で大学と関わる取組がどの程度あるかという点である。残念ながら大学との関わりがあるのは3、4件しかない(大学病院が関係する事例が多い)。
この報告書に注目したいのは、企画案や提案書ではなく、実際に活動し成果を上げている事例だということ。地域課題の解決に向けての企画や提案は、ともすると総花的で見た目ばかりカッコイイものとなりがちである。実現している100の活動事例を理解したうえで、それぞれの地域での取組み方法や運営方法などを考える参考にしてほしい。
なお、100の事例は、①少子・高齢化、②健康・医療、介護・福祉、④雇用・人材育成、⑤省エネ・リサイクル、⑥地域産業、⑦その他、複合的な課題、の7分野に整理されている。この分類は地域課題を洗い出す点で参考になるだろう。

地方創生(再生)を「COCプラス事業」と重ね合わせて考える

次に、民間シンクタンクの農林中金総合研究所がまとめた「地方創生の検討課題」(2015年6月)を紹介する。
このレポートでは、「地方創生」の特徴を、①政策の総合性、②地方移住、③地域の自主性、④政策評価プロセスの重視、⑤広域行政圏施策の継承、の5つについてコメントしている。COCプラス事業を進めていく大学において、ぜひ念頭に置いてもらいたい注意点といえる。

そして最後に、もっとも紹介したいのが玄田有史氏の日経新聞朝刊連載記事「希望の役割」(全10回)の「(9)地方再生は自らの手で」(2015年5月29日掲載)である。
この中で玄田氏は、過去の調査を通じて地方再生の3つのポイントを明らかにしている。第1に「ローカル・アイデンティティー(地域らしさ)」を磨き続けること。第2に地域の内外を越えて多様なネットワークを築くこと。そして第3に、様々なニーズや力を持つ住民の間で対話を積み重ねること。そしてこの対話を通じて「希望の共有」をはかることが重要だと指摘している。
私はこの3つの要素を、COCプラス事業と重ね合わせて考えてみた。

大学はセンター・オブ・コミュニティになれるのか?

COC(Center of Community)構想は2012年6月に文部科学省が発表した「大学改革実行プラン~社会の変革のエンジンとなる大学づくり~」に端を発する。構想の根底にあったのは、今後も国家の緊縮財政が続く中で、地方国立大学をどのように位置づけ、再編・改革するのかということであろう。
具体的には、地域の中核として今まで以上に地域に根差す大学として、①地域人材の育成・雇用機会の創出、②地域活性化・地域支援の取組み、③産学連携・地場産業の振興、が期待された。これは、まさに地方創生のコンセプトに合致するものである。COC構想は名称こそ違え、一足早く登場した文部省版“地方創生”政策といえる。
さらに、私が注目したいのは副題の「社会の変革のエンジンとなる大学づくり」である。「社会」を「地域」に置き換えれば、まさにCOC構想が目指す究極の姿ではないか。COC構想は、「大学改革実行プラン」の「8つの基本的な方向性」のうちの1つにすぎないが、副題の趣旨にもっとも合致するものであると私には思える。

実はこの実行プランが発表されたとき、一部マスコミからは「未だかつて大学が社会の改革の中心だったことがあるのか……」という皮肉な批判の声があった。確かに、大学が変革のエンジンとなるためには多大な努力が必要であり、しかもそれは大学が最も不得意としてきた部分での努力であるように思える。しかしながら、今こそ大学にその変革が求められている。

では、それは具体的にどのような事柄なのか。私はその答えが玄田氏のいう3つの要素にあると考える。つまり、①ローカル・アイデンティティーを強く抱く学生・教員・職員を育てる。②学内、学外(国内・海外)の多種多様な組織、人材とのネットワークを拡げる。③大学のキャンパスで絶え間ない会話、討論、イベントなどが溢れ、夢や希望が生まれる土壌にする。――このことが実現できたとき、大学は地方創生のセンター・オブ・コミュニティになれるのだろう。

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