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東京大学の「秋入学」には「賛成」が圧倒的。その理由は?
みなさんのご意見から

2012/04/09  タグ:  

各大学の就業力育成支援(キャリア教育)にも大きな影響が予測される、東京大学の「秋入学へ全面移行」。あなたはこの動きに賛成ですか、反対ですか。――とみなさんのご意見を伺った。

「国際競争力強化」よりも大きな期待


みなさんのご意見はグラフのとおり、3:1の割合で「賛成」が多数を占めた。
東京大学は秋入学への全面移行の目的を、国際的な大学間の競争に対応し、学生の海外留学を促したり優秀な留学生を集めたりすることだとしているが、「反対」への投票理由には、秋入学への移行でその目的が達成できるのかが疑問だというものが多かった。
「秋入学で国際化を進めても、国際競争力は伸びない」
「諸外国の動きに合わせるにしても、東京大学のみの移行は混乱を生じる」

一方、「賛成」の中で目についたのは、直接的な目的達成より、大学変革の「きっかけ」という効果に期待する声だった。
「他大学でも、テーマが国際化では無いとしても、様々なテーマを持って大改革をしないといけないという意識に変わっていき、大学の自主的な変革を促進する動きにつながるのでは……」
「新卒採用市場をより活性化するためには、需要サイドである企業の姿勢・行動がより柔軟になるだけでなく、供給サイドである大学の姿勢・行動もより柔軟になったほうがいいと思いますが、その先鞭をつけるという意味で、今回の入学スケジュールの変更は相応のインパクトを及ぼすものとなるでしょう」

春入学を廃止しての秋入学への一本化は、「きっかけ」というには大きすぎる変化かもしれない。賛成派のみなさんもそのように考えているのか、賛成理由から書き出しつつ「ただし、……」と続けた方が複数いた。
「ただし、足かせとなっている企業側の年功賃金システムや雇用慣行(新卒一括採用)が変わっていく事も必要」
「ただし、市場がより流動的になる流れの中で、社会に不安や混乱を与えるリスク要因、例えば、高校から大学、大学から社会への移行期間(ギャップイヤー)の取り扱い、社会的な弱者に対する一定のセーフティネットなどを政策的な観点から検討する必要もあると思います」

これは裏返せば、それほどに大きな出来事がなければ大学は変革できない、あるいは、それほどに大きな変革が大学には必要だ、という現場の意識の表れではないかとも思える。

それぞれの理由

賛否双方の投票について「その理由」の代表的なものを一つずつ紹介しておこう。

東京大学の秋入学全面移行に「賛成」の代表的な意見
「新しい事(行動)を起こせば、新しい出来事が起こり、新しい文化が芽生える。そもそも物事のやり方に絶対的な正解はないはず。慣習とかにとらわれないやり方が必要なのかも知れない。ただ周辺の慣習とかグローバルスタンダードに合わせるだけということではなく、国際対応した日本の新たな教育、就業環境の成長に期待したいので賛成。」(石川雅嗣さん/Office Rism代表、キャリアコンシェルジュ)

東京大学の秋入学全面移行に「反対」の代表的な意見
「秋入学で国際化を進めても、国際競争力は伸びない。優秀な留学生は、普通は米国の有名大学に行く。日本の大学が、ハーバードやMITに比べると見劣りしてしまうからだ。
東大は、秋入学で世間を惑わせている暇があったら、まず自分自身の研究力を高めるべきだ。国際化に力を入れてばかりで研究力が付いてこないようでは、留学生の目にも日本人学生の目にも、魅力的な大学には映らない。」(名護樹太さん/学生)

「国際競争力強化にならない」と反対派が言い、「いろいろな(国際競争力強化以外の)効果が期待できる」と賛成派が言う。これでは議論がかみ合っていない。もちろん、実際に論を戦わせたわけではなくそれぞれが投票しただけなので、かみ合わないことはありうる。とくに「就業力の広場」に集ったみなさんは、学生の就業力や大学の就業力育成プログラムへの影響という独自の視点で見たために、論点が「国際競争力」に収束しなかったという要素もあるだろう。
しかし、それにしても論点がずれている。これは、この問題が影響する範囲が非常に広範で多様であり、まだ誰もその全容を捉えてはいないということを示しているのではないだろうか。
「秋入学にすれば留学生は増えるのか」さえ意見が割れる中、各大学はもちろん、高校、企業、官庁など、社会全体のどこにどのような影響が及んでもおかしくない。東京大学が移行時期の目途を5年後としているのは、5年間かけてこれらの問題を議論し解決していくという意図なのだろう。しかし、議論で時間を費やすことなく一刻も早い変革を進める知恵のほうが必要ではないか。大事なのは速やかでスムースな移行・変革であり、そのためには、春から秋への全面変更ではなく、秋も含めた選択肢の拡大が解決策となるだろう。4月-3月の1年サイクルとしている現行システムを半期(半年)のシステムに変更し、4月、10月入学を共存。あるいはクオーターシステムにし、4月に加え7月、10月、1月入学も容認する。大学を軸に、社会全体の柔軟で多様な仕組みづくりが急がれる。 

角方正幸(リアセックキャリア総合研究所所長/「就業力の広場」責任者)

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