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[新Vol.6] 昭和音楽大学

幅広い視点で音楽を捉え、多方面で活躍できる人材を育成

2017/03/13  タグ:  

昭和音楽大学基礎DATA

本部所在地 神奈川県川崎市
設置形態 私立
学部 音楽学部
学生数 1151名(2016年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、昭和音楽大学で、簗瀬進学長と、GP・APなどを含むキャリア支援に携わってきた酒巻和子教授(短期大学部 音楽科長)、武濤京子教授(キャリアセンター長/音楽学部 音楽芸術運営学科)、香月菜麻氏(学務部キャリア支援室室長代理)にお話をうかがった。

1.音大教育の可能性をキャリアの視点で拡大

S_DSC029702016 年度に就任した簗瀬進学長は、「昭和音楽大学の歴史は、音大もしくは音楽そのものが置かれた社会的環境の変化に対応していくため、日々の改革を続けている」と語る。
今大きな社会環境の変化といえば、1つは女性の社会進出だという。女性の就業が当たり前になった結果、卒業後のキャリアをどう保証していくかということを、音大もメインの課題として取り組まざるをえなくなった。この背景の下、かなり意識的にキャリア支援の取組を進めてきたという。

音大生のキャリアといえばまず浮かぶのは、舞台に立ってスポットライトを浴びる音楽家・演奏家だ。しかし簗瀬学長は、舞台を企画する人、広報・宣伝をする人、照明や音響スタッフなどがいて初めて成り立つトータルなものとして「音楽」を捉えたいという。この捉え方をすると、音大の教育の可能性を、キャリアの視点で積極的に拡大することができる。例えば音楽芸術運営学科アートマネジメントコースの学生は、公立文化施設などの企画や運営職などで「音楽」を創る仕事、舞台スタッフコースの学生は、照明や音響などのスタッフが主な進路となる。
つまり、昭和音楽大学のキャリア支援の取組には、キャリア科目などと同時に、コースの拡大(学科再編)があるといえる。コースの数は2017年度に5つ新設されて21となる。

昭和音楽大学の建学の精神は「礼・節・技の人間教育」。簗瀬学長は「礼・節・技というのは音楽の本質であると同時にキャリアの本質でもあるのではないか」と言う。
「例えば、『礼』はもちろん礼儀の礼ですが、音楽でいうと基本的なルールが分かっていないと全く音楽を作れないことです。『節』というのはアンサンブルですね。節度をわきまえずに自分のことばかり主張するのは絶対ダメだと。アンサンブルをしっかりと学んだ学生は、社会に出ても非常に協調性がある。それから、『技』を磨かないとみんなについていけないから、相当自分を追い込んで練習しないとダメだと。だからそういう意味で、克己心も相当強くなる。
キャリアの観点で礼・節・技を見直していくと、音楽を究める者は、どの社会に行っても十分に通用するということに、見事につながる。これが、キャリアと本学の基本的な考え方の総括だと思います」(簗瀬学長)。

2.文部科学省事業採択を活用

昭和音楽大学の進路支援などが質・量ともに拡充されたきっかけは、2009年度文部科学省「大学教育・学生支援推進事業(テーマB:学生支援推進プログラム)」への「音楽大学の特性を生かしたキャリア支援体制の強化と充実」の採択だった。「教職協働のキャリア支援体制を構築した」と香月菜麻キャリア支援室長代理は言う。
次に、2010年度「大学生の就業力育成支援事業」に「キャリアマネジメント力を備えた音楽人育成」が採択された。この事業で始まったキャリア関連科目「音楽人基礎①②」について武濤京子教授(音楽学部音楽芸術運営学科)は、「1年生、2年生…と、それぞれの段階で身につけてほしいことがあります」と言う。1年生では、自分自身を振り返り、その価値を知る。2年生では、音楽に関連するどんな仕事があるのかなど、少し広く社会を知る。3年生になるとインターンシップも取り入れた授業。そういった段階的なキャリア教育カリキュラムになっている。
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2012年度には「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」に、関東山梨地域大学グループとして採択された。
実はこの「産業界ニーズ〜」では、昭和音楽大学と、昭和音楽大学短期大学部が、14大学のうちの2大学という形で参加した。短期大学部(音楽科長)の酒巻和子教授は、「短大と大学、国立・私立、理系もあれば福祉系もありとさまざまでしたが、どんな職業に就いても社会で活躍するために何が必要か、グループ全体の共通課題として考えることができました」と語る。

3.音楽大学ならではの悩みと強み

「産業界ニーズ事業で他大学を訪れて一番感じたのは、他の一般大学といわれるところは、卒業したら就職するものだと、多くの学生達が考えているということでした」と酒巻教授は続ける。
簗瀬学長は「音楽大学に入学する学生は、自分の音楽で高みを目指したいのですよ。みんな舞台の上に行きたい」と指摘する。早期からキャリアを考えさせようと、1年生や2年生で「プロはとても無理だからバックアップする側に行きなさい」「一般企業への就職を目指しなさい」などと頭ごなしに言えば、かなり精神的ショックを受ける学生もいることは想像に難くない。
器楽・声楽などの実技系の学生は、時間が許す限り自分の演奏技術の研鑽に努めたいと考える。その結果、卒業間際になっても将来の方向性が固まらず、支援が必要になる場合もある。武濤教授は「多様なニーズに対応して、学生自身が気づいたときに、手を伸ばせば支援なり情報なりがあるというふうにしたいと思っています」と言う。大学・短大あわせて1学年400名弱という小規模な大学だからできる面もありそうだが、2人の教授は「学生一人ひとりが浮き出て見える」「そこに対応するという意味では、一般大学とはちょっと違う」と異口同音に言う。

一方でここ数年、自立したい、自立は必要だという意識が学生の間にも広がっている。「音楽だけで生計を立てるのは難しいが、アルバイトなど拘束されない仕事に就いて、演奏活動を継続していきたい」という志向の学生が、実技系を中心に多いが、「社会的経済的に自立し、その中でできる範囲で好きなこと(音楽)を精一杯やる」というキャリア観を持つ学生が少しずつ増えてきたという。
演奏家やアーティストの夢を追ってキャリア構築のスタートが遅れがちなのは音大生の弱みかもしれないが、強みもある。簗瀬学長は、音大生の強みを「まず豊かな感性と表現力です。また、個人レッスンを通じて礼儀を身に付けていますし、“できるまでコツコツやる”という努力も“できたときの喜び”も知っています」と言う。
さらに、「一般大学の学生と比べても、社会に出た際の競争力は相当高いレベルだと思うのです。高い協調性、自己アピール力、自己管理能力。目的意識も高いものを持っている」と簗瀬学長は言い、学生本人がそれに気づいていないために強みを生かせていないともいう。

4.音楽教養コース新設と基礎ゼミの導入

2017年度、大学に4つ、短大に1つのコースが新設される。そのうち特に「学ぶと働くをつなぐ」に関連するのが、今まで短大にだけあった「音楽教養コース」の大学への新設だ。
音楽が大好きで、将来は演奏家以外の形で音楽に関わりたい学生が、実技も学びながら興味があるものに触れ、進路を模索することのできる、選択肢がとても広いコースだという。「ここを出たら、汎用的能力も高く、音楽の知識も豊富で、音大卒としてどこへ出しても恥ずかしくないコースということを夢見ていて、カリキュラムもそれなりに複雑ですけれども、楽しみなコースです」と酒巻教授は期待する。

「就業力育成支援事業」で始まった「音楽人基礎①」のリニューアルも行われる。科目名が「基礎ゼミ」と変わり、大学・短大ともに1年生の全学必修になる。「音楽人基礎①」の内容に、汎用的能力を身につける「総合教養」科目の内容、さらに新入生オリエンテーションも加えて、「初年次教育として本学で学ぶ意味から、自分を見つめるということ、そしてキャリアにつなげるところまで。かなり欲張った科目になっています」(酒巻教授)。
簗瀬学長は「社会のさまざまな分野で活躍している卒業生情報の収集と活用度アップが、今後の課題と考えています。本学の資産といえるものを見える化し、有効活用できる取組ができたら、新しいキャリア支援の形につながっていくと思います」と話す。

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