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[新Vol.8] 高知工科大学

「人が育つ」教育改革を支える、小回りが利く大学規模と私学経営の源流

2017/07/25  タグ:  

高知工科大学基礎DATA

本部所在地 高知県香美市
設置形態 公立
学部 システム工学群/環境理工学群/情報学群/経済・マネジメント学群
学生数 2159名(2016年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、開学から20年の新しさと、学生数約2000人の規模の小ささを利点と捉えて独自の試みを続ける高知工科大学で、磯部雅彦学長にお話をうかがった。

1. 世界一流を目指す理念「日本にない大学」

S_KUT_Isobe高知工科大学が1997年度の開学以来現在まで一貫して掲げる理念は「日本にない大学」。大学のあるべき姿を教育・研究・社会貢献のいずれにおいても常に追求し、世界一流の大学を目指す、という意味だ。2015年度に就任した磯部雅彦学長は、特に教育について、「一言で言えば、とにかく力のある大学生を社会に相応の待遇で送り出したいということ」と語る。就職実績は就職率99%〜100%と好調で、あえて課題を挙げるなら2割程度にとどまる県内就職率だ。県外からの学生は、出身県に帰るより、東京や大阪に行くケースが多いという。

2.基礎力をつけるため授業を厳選

「人を育てるのではなくて、人が育つ大学にしたい、という教育理念があります」と言う磯部学長が、他大学とは異なる施策として挙げるのは「授業時間集中化」「教育講師制度」の2つだ。
2017年度に始まった「授業時間集中化」は、科目数を大幅に減らし、授業を原則として3時限目までに集中させるというもの。基礎的な力をつけるために授業科目を厳選したという。「基礎的とは易しいという意味ではなく、学生が一生を通して使えるきちんとした学力・能力という意味です。あれもこれもと教えても学生は消化しきれませんし、3年や5年は使えても10年後にはもう古いという類の知識もあります。それよりも、工学でいえば力学であったり材料学であったり、それぞれの分野に固有の基本的な力が得られる授業にしましょうと」。
同時に、4時限・5時限に当たる空き時間が「人が育つ」時間となることも期待されている。学生主体の自主学習や、英語学習に特化したアクティブ・ラーニングスペース「E-square」(ネイティブスピーカー中心の英語教員が交代で常駐し、学習サポートを受けることができる)の活用、理論と現実を結びつける経験となるフィールドでの課外活動などを想定している。

3.高校・社会との連動性を目的とした「教育講師制度」

もう1つの特徴的な制度は教育講師だ。主に企業での実務経験の豊富な人材を、初年次教育からキャリア系科目、就職支援まで4年間継続して学生の指導・支援に当たる教員とするもので、正規教員の職制としては全国初という。現在、12人の教育講師が各学群に2 〜3 人ずつ配置されている。「企業で相当な地位までいって退職した方、高校の校長経験者などを、学位や研究実績にはこだわらずに教育講師として採用することで、高校との連続性、社会との連続性をつける狙いです」。
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高校からの接続について、教育講師が導入科目「スタディスキルズ」を担当。大学の講義を聴くために必要な基本的な技術、スキルを身につけ、高校とは異なる勉強の仕方に慣れていきながら、大学という新しい環境でのカルチャーショックをやわらげる意図もある初年次教育だ。「1クラス15人ぐらいですので、学生の顔と名前どころか、性格までわかってしまうぐらいの親密な関係でやっている」と、相当きめこまかな体制だ。社会への接続でも、「キャリアプラン(基礎、1、2)」科目を主に教育講師が担当する。

キャリア形成支援の一環としてはインターンシップも盛んで、学生の約8割が履修する。海外インターンシップも、初期こそ学生が尻込みする気配があったものの、今は募集の3倍ほど希望者が出るといい、毎年8〜13名がタイ、ベトナム、インドなどに行っている。

4.私学の効率性と公立大学の自由度が両立する風土

ただし磯部学長は、「教育が大事なミッションだという思想は、教育講師に限らず全学に行き届いている」と言い、これが授業時間の集中化をはじめとする改革が進むうえで大きな要素ではないかと指摘する。
例えば学生による授業評価、授業風景のビデオ公開など、「正直、面白くないと感じている人もいるでしょう」と磯部学長は大学教員の心理を読み解く。「でもだからといって拒絶することはなく、制度として実施できているのは、学生が大事なら当たり前、という意識があるからだと思います」。
教員評価も、学生の授業評価を含む教育成果、研究成果、社会貢献、大学運営に対する貢献という4項目からなり、全ての項目が、最終的には年俸や昇格にもつながるシステムだ。論文数など研究成果に偏りがちな一般的な大学とは異なる。「なかなか普通の大学では難しいことだと思いますが、スムーズにできているのは、たぶん開学以来の文化というか、積み重ねでしょう」。
さらなる積み重ねのために磯部学長が心がけるのは「よく考えて、同じことを言い続けること」と言う。またそこには、「Face to Faceで全学が接することができる規模」を活かす意識がある。「私はマンモス大学にいたこともありますが、学長がいて学部があって学科があって各先生と、間接的に伝わっていくと、変なふうに伝わることも多いのです。しかし、この規模だと直接対話ができる。私は先生の顔と名前が全て分かるし、一人ひとりと話せば理解してもらえる土壌があります。ただその前提には、Face to Faceで質問されたときにこちらがきちんと答えられる準備が必要です。それをよく考えるということが大事だと思います」。

高知工科大学は、2009年度に公設民営大学から公立大学法人に転じたことでも注目を集めている。公立化は大学の文化や風土に、どのような影響をもたらしたのだろうか。
磯部学長はまず、私学の効率性が定着していることを指摘する。「公設民営という私立大学の範疇で発足したので、例えば意思決定は初めから、教授全員の教授会ではなく、いわゆる代議員制です。4学群の学群長プラス学長、副学長、特別補佐など10数人の『教育研究審議会』ですので、非常に早く、思い切った意思決定ができます」。
一方で公立化には、財務経営の自由度が高まるメリットがあったと言う。「公立大学法人は、経営的にある程度安定し、設置者からもある程度独立していますから、新しくやれることが増えたと思います」。

5.高知にある公立大学が目指す国際化

今後の施策としては、「世界一流の人材の輩出」という基本の方向性に基づく大学院の強化が挙げられる。修士への進学率は約30%(工学系)だが、この数字を上げるとともに、大学院教育の内容も充実させていきたいと言う。
「先生一人ひとりの研究力が大事ですから、そこは並行してやっていきたいと思っていて、学長裁量経費という科目で研究のサポート体制を作っています」。
もう一つの大きなテーマは国際化だ。「例えば、日本国内の製造業に就職したとしても、ベトナムに造った工場に来月から行ってくださいというようなことを言われる可能性が常にある。工学にせよ、経営・マネジメントにせよ、今後どうしても国際化は避けられない状況です」。
こうした想定のもと、国際性を培うプログラムや、短期海外研修や留学時の旅費の助成といった支援策を充実させていくと言う。一例を挙げれば、夏休みの約10日間、連携協定を結ぶ海外大学から招いた学生10数名と一緒に活動する、「国際サマースクール」がある。教室での勉強に加えて、この時期に開かれる高知の「よさこい祭」も一緒に経験し、国際交流とともに改めて日本の文化への理解も深める。

さらに磯部学長は「高知県は製造業がやや弱い。それを強くしていくのも工学系の大学として一つのミッションだと思います」と言う。高知県での起業を増やそうと、大学院に起業マネジメントコースを設置。当面は社会人向けだが、将来は学生起業家も育てていきたいと言う。
IT産業、特にソフトウエアなら地域によるハンディキャップはほとんどない。磯部学長はそこに可能性を見出しつつ、「その代わり中国やインドと戦わなければいけない」とも指摘する。経済にも技術にも国境がない時代、「日本にない大学」という理念が改めて大きな意味を持つと言えそうだ。

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