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学ぶと働くをつなぐ授業拝見[Clip Number 005] 広島修道大学

広島修道大学2年次履修必修科目『大学生活とキャリア形成』

2017/08/23  タグ: ,  

生き抜く力を意識して設計された授業『大学生活とキャリア形成』

初年次からキャリア教育を実施している大学は多い。しかし、広島修道大学のキャリア教育担当教員である山本和史先生は、「その多くが、就職を成功させることを目的とする仕事理解や自己理解などのワークキャリアに偏っているのではないか」との問題意識を持っていたという。
そこで、この『大学生活とキャリア形成』では、就職活動に伴う職業観や勤労観の醸成は言うまでもなく、変化の激しい、かつ正解のない時代のキャリア形成を想定し、ライフキャリアにも焦点を当てた授業設計を行っている。

山本先生はこれからのキャリア教育について、「組織が個人のキャリアを開発してくれる時代は終焉に向かいつつある」「自分がなにを大切にし、どう生きていくのかという展望(方向、感覚)のなかに、自らが働くことを位置づけることが求められており、そうしたことができる個人の形成をめざし、そのための準備に資する幅広い教育であるべきである」(児美川、2015)という問題提起を紹介する。
すなわち、自分のキャリアをどう扱っていけば良いのか、それはますます学生自身の責任となってきている。だから山本先生は、PBLやアクティブ・ラーニングを経験しながら、ときには失敗や挫折をも次の目標へと転換できるようなしたたかな夢の追い方が身につくキャリア教育を目指している。

3つのポイント、1) 2年次実施 2) 大学生活の重要性 3) ビジネスシーン

『大学生活とキャリア形成』はアクティブ・ラーニング形式を取り入れた授業であり、2年次に行われる履修必修科目である。多くの大学がキャリア教育やアクティブ・ラーニングを初年次で行うが、広島修道大学では、大学生活の重要性を再確認するために、この授業を2年次に実施している。
『大学生活とキャリア形成』は、学科ごとに展開されている。学科により学生数に幅はあるが、常に教員2~3名、学生アドバイザー2~4名が各授業を担当し、職員は主に授業の打ち合わせと事前準備を支援している。それぞれが、学生グループにさまざまに介入して、授業は展開されていく。

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また、「就職活動や仕事観、人生観を醸成していく土台は、まさに大学生活である」というメッセージを、繰り返し発信しているという。就職活動はもちろん、その後の社会人になってからのライフキャリアに、大学生活は大きく影響を与えるからだ。
さらに、主体的に自ら考え、行動をして生き抜いていくことが要求される社会を理解してもらうために、実際の「ビジネスシーン」を想定した課題を5~7名のグループ内で解決していくことを、何度も求められる構成となっている。
そして、ビジネスシーンを体験するだけでなく、より確実に効率よく学生の理解を促進させるために、社会で生き抜いていくのに必要な「社会人基礎力」「ジェネリックスキル」という言葉・概念が何度も紹介され、学生の意識も相当高まっているようだった。

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よりアクティブに学習できるよう、ホームワークも用意されている。それは、「新聞記事」による情報共有である。新聞記事のピックアップを10週にわたって行い、すべての記事に対して感想・気づきを書いたシートを添付し、グループ内で共有する。
これを行うことで、「読解力」の向上はもちろん、「情報分析力」「情報編集力」、そして「習慣力」の醸成にも大いに寄与するとのことだ。

大学と社会をつなぐ、キャリア(人生)を意識した授業構成

いよいよ実際に授業を拝見するために教室に向かった。訪れた先は、法学部国際政治学科約90名の学生が出席している授業「大学生活とキャリア形成」の第10回目である。10回目のテーマは、「ジェネリックスキルを高める」であった。

まず、前週の新聞記事の情報共有から始まった。各々選んできた気になる新聞記事を発表し合う。記事の概要の説明だけでなく、それに対する自分の意見・主張もしっかりと添えていた。10回目の授業とあって、学生も手慣れたものだ。時折笑い声も聞かれ、まさにウォーミングアップとしては良い状態であったと思う。
次に、第2回の授業で行った「キャリア理論」の講義について再確認する時間が取られていた。シュロスバーグのトランジション、クランボルツのプランド・ハプンスタンス(計画された偶発性)、スーパーのライフキャリアレインボーやシャインのキャリアアンカーなど、どれも押さえておかねばならないものばかりだ。単に理論としての学習にとどまらず、人生を歩んでいく際にぶつかるであろう問題を解決していくためにも、これらの理論は重要だという。また、この授業のフィールドワークである社会人インタビューの際にも、学生がこれらの理論を知っていればより突っ込んだ話を展開できるという意図もあるとのことだった。

そして、重要な「キャリア理論」に続いて、本日のメインテーマへと移っていった。「社会人インタビューを通して、社会に役立つ、あるいは必要な知識やスキルを聞き出し、各グループでパワーポイントにまとめてプレゼンテーションをする」というのが、この授業の最終ゴール。そのプレゼンテーションのために、すでにインタビューした内容を、どのようにパワーポイントにまとめて表現し、聴衆に伝えていくのか、その作業の工程はどうするか、などを決定するとともに、パワーポイントを実際に作成して、そのファイルを提出する、というところまでが求められる。ちなみに提出期限は第11回の授業内と設定され、期限を過ぎたものは、一切受け付けない。社会であれば、それが当たり前だから、という理由であった。ここでも「ビジネスシーン」が想定されているわけだ。

実は、冒頭の新聞記事共有ではすべてのグループが比較的スムーズに進んでいたが、いざ、本題になると、インタビューをしっかりとしてこなかったのか、話が始まらないグループもいくつかあった。一方で、一人がパソコンを開き、その周りにみんな集まって熱く討論しているグループもあった。話が弾まない幾つかのグループには、間もなく、教員・学生アドバイザーが散らばって介入していった。
その後は、驚きや笑いの声が教室に響き、楽しそうに、しかし真剣に取り組む様子がずっと続いた。

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学生たちの劇的な変容

一般的に、5~7名のグループでのアクティブ・ラーニングでは、必ずと言っていいほど、コミュニケーションの取れないグループが出てくるものである。
一つの対応策は、上記のような、教員・学生アシスタントの介入である。しかし、それだけではないという。
各グループには、同じ条件で課題が与えられている。つまり、課題達成日が等しく設定されている。一定の期間が経過すると、他グループとの進捗状況の差を目の当たりにして、危機感を持ち始める。そこで突然、グループに変化が生じるそうだ。
そして、議論が始まる。議論が始まると、意見の対立や取り組むスタンスの違いなどのコンフリクトが生まれる。その中で試行錯誤しながら、それぞれのカラーがはっきりと出てきて、なかなか進まなかったグループも、時間内に目標が達成されるという。
ときに学生にとっては過酷な要求をやり遂げたという実体験が、自己効力感を高めていくのだろうと、再確認するのであった。
改めて、プロジェクトベースのアクティブ・ラーニングの効用は偉大であり、将来の糧になるものであろうと痛感した。

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