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[新Vol.9] 兵庫県立大学

キャンパスを活かした地域連携で、「ひとづくり」「ものづくり」推進

2017/09/12  タグ:  

兵庫県立大学基礎DATA

本部所在地 兵庫県神戸市
設置形態 公立
学部 経済学部/経営学部/工学部/理学部/環境人間学部/看護学部
学生数 5449名(2016年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、2013年度採択のCOC事業に対する事業評価で、2016年度にS評価を獲得した兵庫県立大学で、太田勲学長、髙坂誠副学長にお話をうかがった。

1. 3大学が統合、9キャンパスに6学部14研究科を擁する

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兵庫県立大学は、神戸商科大学、姫路工業大学、兵庫県立看護大学の3大学が2004年度に統合した総合大学だ。統合の経緯から、6学部14研究科が9キャンパスに分散しており、県内のどの地域でも地元の大学としての存在感を持ちながら地域貢献ができるという。
2017年度に就任した太田勲学長は、こうした兵庫県立大学の特徴が、「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」には非常に合っていたと言う。「それぞれの拠点に先生がおられて、学生を引き連れてそれぞれの地域に入って活動している。学生自身が地域の人に直接触れ、大学で勉強したことが地域・社会でどう活かされるのかを実体験できる。地域住民や地域の役所、商店やものづくりの人などを相手にインターンシップをしているようなものです」。

2. 旧5国にちなんだ地域志向型「五国豊穣」プログラム

兵庫県立大学が2013年度から取り組むCOC事業は「ひょうご・地(知)の五国豊穣イニシアティブ」という。明治の廃藩置県の過程で、旧国名の但馬、丹波、播磨、摂津、淡路の5つが統合された兵庫県の成り立ちにちなみ「五穀豊穣」の穀物を国に代えて「五国」としたものだ。兵庫県の課題を網羅するため、「五国」に「全県」を加えた6 つのフィールドが設定された。播磨は姫路を中心に産学公連携系、県北部の但馬や中山間地の丹波は多自然地域再生系や地域資源マネジメント系、淡路はあわじ環境未来島構想系、摂津は尼崎市を中心にソーシャルビジネス系、県内全域を対象に阪神・淡路大震災の教訓をベースとする地域防災・減災系だ。
カリキュラムは、地域志向型副専攻として整備し、2015年度から開講している。地域入門科目「COC概論」、地域実践科目「COCフィールドワーク基礎演習」に始まり、所定の20単位以上を履修すれば、「ひょうご学志」に認定する。

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このプログラムにはどの学部の学生も参加でき、2017年度の履修人数は、「COC概論」が全学で約340人。「COCフィールドワーク基礎演習」は、定員30人程度で、希望者多数の場合は選考を行う。

3.「ひとづくり」の東キャンパス、「ものづくり」の西キャンパス

COCに先行する人材育成の特別プログラムに、看護学部、経営学部、環境人間学部の3学部を中心に取り組んできたコミュニティプランナー(CP)プログラムがある。宮城大学(県立)との共同で、文部科学省2012年度大学間連携共同教育推進事業に採択、事業期間終了後も協定を結んで継続しているもので、その目標は、1995年1月17日の阪神・淡路大震災と2011年3月11日の東日本大震災をそれぞれに経験した兵庫県と宮城県の公立大学が手を携えての復興人材育成だ。「遠隔の授業だけでなく、学生が宮城へ行ったり、宮城の学生がこちらへ来たりもしています」(髙坂誠副学長)。「CP概論」「CPフィールドワーク演習」を基礎にしたカリキュラムフォーマットは、COC 「五国豊穣」と共通だ。
大学本部のある東キャンパスは元の神戸商科大学キャンパスなので、「ひとづくり」に取り組む。もともと姫路工大だった西キャンパスには、教員OB、大企業の研究開発部門出身者、県立工業技術センターの元職員等特任教授やコーディネーター等15名が在籍する産学連携・研究推進機構が置かれ、「ものづくり」に強い。2つのキャンパスにはそんなカラーの違いがある。

姫路工大時代には工学部長も務めた太田学長は、西キャンパスの産学連携・研究推進機構の取り組み事例として、「地域連携卒業研究授業」を挙げた。
「新しい技術を開発したい、技術課題を抱えている、しかし中小企業では自社での取り組みが難しい。県内企業のそういった課題を卒業研究のテーマとして大学に提案してもらうのです」(太田学長)。卒業研究としてふさわしいものが毎年6~7件採用され、適した教員が担当して卒業研究として学生を指導する。
「学生が実際に、ものづくりの現場の技術者や研究者と議論しながら研究していくので、社会人としての対応や企業の中でどういう形で技術開発が進んでいくか等が自然に勉強でき、非常に大きな教育効果があります」(太田学長)。
大学・学生側の教育成果だけでなく、企業側の「技術開発」「課題解決」に成果も出ている。パンの自動認識レジ「Bakery Scan」はその好例だ。「お客さんがトレイにのせた品を上からパッと撮影するだけで、40も50も種類がある菓子パンを0.5秒の画像認識で判別、計算してレジでレシートが出てくるというシステムを、情報系の卒業研究で開発したのです。製品化されて、今100台以上が稼働しているそうです」(太田学長)。

4. COC事業を通じて兵庫県が好きな学生増加に手応え

COC事業はまだ卒業生を出しておらず、成果を数字で問える時期ではない。ただ、学生アンケート等から手応えは得られている。
「兵庫県内で育ちそのまま本学に入学してきた学生が、本当に地域のことを好きか、知っているかと言うと、そうでない場合も多いのです。学生の回答の中には、『兵庫県のことが好きになった』『兵庫県に拠点を置いたビジネスアイデアを探そうと思う』といった気づきの表現は結構ありますね」(髙坂副学長)。
太田学長は、COCを進めるにあたり「本学の場合、核になる人材が沢山おられた。地域連携に前向きな先生がおられたので、わりとスムーズにいったと思います」と、大きな困難は指摘しなかった。
しかしもちろん、学部などによる温度差は存在した。髙坂副学長は「例えば、工学部や理学部の理系学部と他の文系学部の間では、地域連携について大きな考え方の違いがあった。そのため、教授会のFD活動を通じて、議論を重ねてきた」と振り返る。

一方、神戸大学を申請校に2015 年に採択されたCOC+事業は、県内就職率の8%アップを目標に掲げている。しかしそもそも、県内に本社を置く企業に入社する率を追うことに無理もあるという。
「仮に地元に就職しても、本学の場合、3年で2割程度が離職する。他方、東京の大手へ行って失敗して5年後に地元に帰ってくることだってある」と髙坂副学長。そのような卒業生に対しても、地元の企業に目を向けさせることを含め、支援の手を差しのべる努力を始めているという。

5. 特色のある先導的な公立大学を目指すためにも研究を強化

髙坂副学長は、COC事業の「これからの1 つの大きな課題」として、「PDCAサイクルを回し続ける仕組みづくり」をあげる。
「COCフィールドワーク基礎演習で一度地域に入るだけでは『お客さん』で終わりです。PDCAでいう、PDまで。CからAへ行くことを、われわれはもちろん、当然地元の人も期待している。だからサイクルをAまで回し、次のサイクルへと進む制度なりカリキュラムなりをきちんと作ることが、本当の地域人材を育てるためには必要だと考えています」。

太田学長は、より大きな方向性として「特色のある、先導的な公立大学を目指していきたい」と言う。その背景にあるのは、世界レベルの先導的な研究がなければ、地域の大学としての生き残りも覚束ないという強烈な危機感だ。
国立大学は文科省の方針で「世界」「特色」「地域」という機能分化が指導され、86国立大学のうち55大学が「地域」の大学に手を挙げる結果となった。この状況は、兵庫県立大学のような公立大学からしてみれば、「地域貢献する大学」の競争の激化と見ることもできる。だから太田学長は、「先端的な研究をせずに、地域だけをやりますと言ったら、そこである意味もう終わってしまう可能性がある」と言い、「バックに高度な研究教育がないと、結果として、公立大学としてのミッションである地域貢献も、たいしたことができなくなると思う」と続ける。

時代のニーズにかなって、10年先20年先を見据えた教育研究ができる組織を作り、特色を前面に出す取り組みにはすでに着手している。幸い兵庫県には、放射光実験施設SPring-8、X 線自由電子レーザーSACLA、スーパーコンピュータ「京」など、世界の最先端の研究機関がある。それらと連携して教育研究を進めてきた実績は、今後も兵庫県立大学の大きな強みとなるはずだ。
「経済学、経営学分野でも、第4次産業革命等による社会構造・産業構造の激変に適応できる人材の育成が非常に重要になってくる。そのための組織改革を、髙坂副学長が率いて計画を練っているところです」(太田学長)。

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