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[新Vol.10] 女子栄養大学

150件もの産学官連携を通じて、食と健康を支える人材を育成

2017/11/17  タグ:  

女子栄養大学基礎DATA

本部所在地 東京都豊島区
設置形態 私立
学部 栄養学部
学生数 2098名(2017年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、栄養学部のみという独自性をもつ女子栄養大学で、食の現場で求められる「働く」につながる「学び」への取り組みについて、香川明夫学長、染谷忠彦常務理事にお話をうかがった。

1. 食を通じてQOLを支える人材を育成

女子栄養大学の栄養学部は3つの学科からなる。実践栄養学科は管理栄養士、栄養教諭養成、保健栄養学科は栄養士、臨床検査技師、養護教諭の養成、食文化栄養学科は公的資格にこだわらず食の文化に携わる、と目指すところは異なるが、共通して重視するのが「創立者の精神」だ。
医師・研究者の香川昇三・香川綾が女子栄養大学の前身となる「家庭食養研究会」を発足させたのは1933年。「ビタミンB1を含む米の胚芽を食べる」という、脚気(かっけ)の予防法を広めることが主な目的だった。
創立者夫妻の孫にあたる香川明夫学長は「栄養士という概念も、食生活を整えるという考え方も全くなかった時代に、予防医学を元に、食を通じて人の健康の維持向上を図ることを目指した建学の精神を、学生に理解してもらいたい」と言う。そのために、入学前学習のひとつとして『香川綾の歩んだ道』という本の読書課題がある。「提出された読書レポートから、『香川綾さんはすごい人だ』と認識する学生が多いことが分かります。『そういう学校に入学した以上、頑張って勉強しよう』と、入学前に意識する。退学率を低くするなどの効果もあると思います」(香川学長)。
時代の変化に応じて「食」の直面する課題も変化してみえるが、女子栄養大学のミッションは変わらないと香川学長は考えている。「体を動かしてお仕事されている方、家庭にいらっしゃる方、高齢者、子ども、外国人、食べない人はいない。全ての人を対象に、個々人の生活の質(QOL: Quality of Life)の低下、日本の元気がなくなっていくことを食い止めたい、そのために人々のQOLを支えることができる人材を育てる学校、ということです」。

2. 調理実習を重視したカリキュラム

創刊80年を超える「栄養と料理」(女子栄養大学出版部)という月刊誌がある。この誌名は「栄養も大事だけれど、料理も大事」という創立者の考えを端的に示していると香川学長は言う。「栄養料理はまずくても仕方ないというのが昔からある説ですが、どんなに完璧な栄養のある料理でも、食べなかったら意味がない。サプリメントを飲めばいいというのは大きな間違いだと科学的に証明されているし、おいしいものを食べて楽しい気分になるのは、人生の潤いとしてとても大事です」。
料理(調理)重視は、「働く」現場のニーズでもある。栄養士や管理栄養士は通常、献立を立て、調理のスタッフに指示書を出すのが業務で、食材を切る、煮る、味つけするなどの調理には直接携わらない。しかし「世の中はそうは思っていない」と産学官連携推進を担当する染谷忠彦常務理事は言う。「栄養士・管理栄養士に、調理ができることは求められている。単純に、現場からしてみたら、そんなこともできないの、と」。
実践栄養学科のカリキュラムには、管理栄養士養成課程で必須の科目に、調理関連科目が別枠でプラスされている。国家試験に合格するだけでは現場で使える人材にはならないという考えからだ。養成課程・国家試験の「学ぶ」には調理が含まれていないが、現場の「働く」には当然のように調理が含まれている。その学ぶと働くを「つなぐ」ために「調理」が必要ということだろう。


また、1年次の全学科共通科目「実践栄養学」では、日常の食事や自分の立てた献立で、重さを測って評価・改善するという課題が出る。
「今はわざわざ計量しなくても、パソコンのソフトで基礎的な栄養計算はできる。でも味の感覚などは、自分で調理ができないとわかりません。例えば塩分に配慮を要するからといって、塩味を抜いたら多分まずくて食べられない。その味を想像して、酸味とか胡椒のアクセントをつけたレシピを書く。調理ができることに基づくそういった能力が、栄養士だろうと教員だろうと食文化だろうと必要だと。だから実践栄養学は、学科・専攻を問わず全学生が学ぶ卒業必修科目にしているのです」(香川学長)。

養護教諭の養成課程である保健栄養学科の保健養護専攻では、キャリア教育として、2年次に10週間の長期学校体験実習がある。学校で日々起こる問題に直面することで、3年次4年次の学びのモチベーションを高める狙いだ。実習を経験して進路を変更したくなった場合も、教育実習前にできるのが2年次での実習のメリットだ。
香川学長は埼玉県の公立小学校の教員だった経験からこう話す。「子どもの健康の問題には、朝ごはんを食べないなど、日頃の食生活の残念な感じが絡むことが多い。現場の感覚として、日常の食生活は子ども達が接しているリスクとしてとても大きいのです。食を理解した養護教員というのは私たちの強みだと思っています」。

3. 150件に及ぶ産学官連携を実現

女子栄養大学の産学官連携はこれまで、企業・団体、自治体、教育機関・団体、高等学校を合わせて150件近くに及ぶ。その始まりは2006年の埼玉りそな銀行との包括連携協定だった。取引先企業を主な対象に、栄養、健康増進、商品開発などのテーマの講演から始めて、商品開発やメニュー開発に広がっていったという。
講演や勉強会で終わりという産学官連携も少なくない中、件数が増え、内容も学生の教育も含めた商品開発などへと発展していった理由を、染谷常務理事は「企業がちょうど求めてきた時代だったのでは」と言う。「当初は、食関係の部門があっても栄養士や管理栄養士を採用していない企業がほとんどでした。それだけ栄養士などに対する認識がなかった。栄養大学というのがあると認識されて、自社やその商品が健康増進や栄養とどう関わるかを考えていただけた」。

産学官連携の取り組みは、まず学生達のモチベーションに好影響を与えた。
「例えば食文化栄養学科は、学生が実習やインターンシップでお店や会社に行って、自分の考えたものが商品化されていく過程を学びます。そこにすごく効果がある。自分がどういう勉強をしていったらいいか理解するようになり、日本だけではダメだと考えて英語やフランス語を学びに外部のスクールに通ったり。アルバイトの選び方などにも影響があるようです」(香川学長)。
また、教員の視野が広がったことも見逃せない。以前は病院や学校にほぼ限られていた栄養学を生かす場が、企業にも広がり、食の世界や健康産業で広く活躍できると分かったことが大きい。「就活支援もそういう視野でできるようになったし、連携もいっそうお手伝いするようになった」(染谷常務理事)。

4. 偏差値よりも教育力・就職力

産学官連携は、大学の知名度を上げ、就活にもつながる大きなプラスになっていると染谷常務理事は言う。「教育力がちゃんとあるから、連携によっていい商品ができ、商品の知名度が上がる。すると、企業の名前と同時に女子栄養大学の名前も広まる。市場認知、社会認知の両方につながっていくのです。インターンシップや就活の中で認められて、多くの会社から求人が来ています。本学のような小さい大学の生き残りは、偏差値ではなく、しっかりとした教育力、就職力だと思います」。
教育力の高さは、卒業生の評価を高めるうえでも重要だ。「養護教員でも管理栄養士でも、女子栄養大の卒業生は訓練のされ方が違うと一目置かれることが増えている。そういう評価が、何よりのアピールになっています」(染谷常務理事)。

今後の方向性について香川学長は「今の教育を進めることが大事。定員増や、看護学部・医学部などの新設といった展開は全然考えていません」と言う。
例えば医療現場では今、多職種が連携して患者の栄養管理にあたる栄養サポートチーム(NST: Nutrition Support Team)という形態が広まってきている。そこに入って、医師、看護師、薬剤師などと対等にコミュニケーションできる人材を、栄養学部として育成していきたいのだという。
「変化は必要ないということではなく、社会のニーズに合わせて変わるところは変わる。産学官連携などを通じて社会から情報をいただき、そのニーズに対してどういう人材を育成するかをリフレッシュし、機敏に動いていく。
ただ、『食は生命(いのち)なり』のモットーや、食と健康の問題を解決できる人材を育てていくことは、全くブレないということです」(香川学長)。

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