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[Vol.5]長浜バイオ大学における就業力育成の取り組み

キャリア科目は地域との学外連携で

2012/05/09  タグ:  

長浜バイオ大学基礎DATA

本部所在地 滋賀県長浜市
設置形態 私立
学部 バイオサイエンス学部
学生数 1163名(2011年5月1日現在)
就職率 82.9%(2010年度)

長浜バイオ大学の取り組みのあらましについてはこちら

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、取り組み事例を紹介していく。

第5回目は、地域との強い連携をもつ大学の事例として、長浜バイオ大学を取り上げる。産業振興に寄与する人材育成を目的の1つとする長浜バイオ大学にとって就業力育成は、就職率向上のような「出口」の問題ではなく、「入口」もしくは「学内そのもの」の問題として取り組むものだったようだ。三輪正直学長と松島三兒教授(就職・キャリア部長)にお話をうかがった。

長浜バイオ大学の就業力の現状:課題認識

新設大学の第1期生には、既存の枠にはまらない元気な学生が集まるということはよく聞かれる。2003年開学の長浜バイオ大学も例外ではなかった。
「開学当時からいらっしゃる先生方には、『1期生は元気だったよね!』という印象が強くて、最近は違ってきた、小さくまとまってきた、という感覚があるようです」(松島教授)。課題認識の根底にはこの感覚があったようだ。
三輪学長は「社会の風潮としても最近の学生は、友だちが少ないとか、面と向かってのコミュニケーション能力が高くないとか、学力も低下傾向だとか、いろいろな変化があります。私どもが大学の中で学生を育てて、産業界で役立つ人材にするためには、付け焼刃ではなく、もともとの人間力からやらないと駄目だという認識がだんだん深まりました」と話す。

さらに、2回生を対象にR-CAP(リクルートが開発した自己分析・適職発見プログラム)を実施して、学生の特性を把握。そのデータを踏まえて、社会人基礎力(経産省)の12の要素を参考に、「柔軟力」「自律力」「論理的思考力」の強化がキャリア教育のゴールとして設定された。

1.系統的、段階的に力をつけるカリキュラム

長浜バイオ大学「地元経済界との連携による実践的就業力育成」キャリア科目概要
http://shugyoryoku.nagahama-i-bio.ac.jp/htm01/program021.htm

入学から卒業までを見通したキャリア教育プログラムの冒頭には、2009年度から選択科目だった「ライフデザイン」が配置された(2011年度から必修)。続く1年次後期の「長浜バイオ大学魅力発見発信プロジェクト」は、学生がチームごとに大学のPRビデオやPRパネルを作り、発表会までするというもの。
2年次前期の「キャリア開発Ⅰ」は論理的思考力を養う講義で、2012年度から必修化された。「論理的思考力開発」は夏季休暇中の集中講義で、長浜の企業から講師を招き、製品開発やマーケティングなどの課題で演習を行う。2年次後期の「長浜まちづくり魅力発見発信プロジェクト」は長浜のまちをより魅力的にするための新しい提案や取り組みをする実践型授業。最後の発表会は学外の会場で行い、商工会議所の会頭にも意見をいただくなど、地域とのつながりを意識した科目だ。
3年次前期の「キャリア開発Ⅱ」は進路選択・職業選択について考える科目。これがインターンシップ実習につながって、キャリア教育科目はひととおりとなる。
「最初にかなり重点を置きつつ、系統的に段階的に、学生が漸次力をつけていくように配慮してカリキュラムをつくりました」(三輪学長)

2.高い成長実感度、課題は参加促進

2つの実践型授業「長浜バイオ大学魅力発見発信プロジェクト」「長浜まちづくり魅力発見発信プロジェクト」に参加した学生の満足度・成長実感度は極めて高い。2011年度の「長浜バイオ大学魅力発見発信プロジェクト」に履修登録した43人のうち、途中脱落者はわずか4人という数字からも満足度の高さはわかる。自己評価による就業力要素も全般的に向上し、特に人とかかわるスキルが向上した実感をもった学生が多かったという。

こうした成果が上がっている中での課題は、学生参加の促進と参加学生の目的意識の明確化だという。松島教授は、「いくら『これいいよ』と言ってもそれだけではなかなか受けてくれませんので、外堀から攻めるような仕掛けも考えていきます」と言う。
例えば、この4月から長浜の中心市街地に町屋を借りて、学生が自由に使える活動の拠点とする計画だ。キャンパスから見て、長浜の市街地は一駅北にあるため、通学時に長浜の市内を通らない学生が圧倒的に多い。まずは長浜の町に行こうと思わせるために、そういう拠点づくりが有効と考えたわけだ。
「長浜の町に関心をもって、町の人たちとかかわり、ボランティアやまちづくりへの参加などに入っていきやすくする。そういうことによって、キャリア科目への参加率も高めたいところです」(松島教授)

3.事業期間終了後の方向性

「文部科学省の就業力育成支援事業に採択されたのが2010年度ですが、それに先立つ2009年度に、大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラムに『バイオ学習ワンダーランド』が採択されていました。学生全員に持たせたiPodを通じて1人ひとりの学習状況を把握し、個別指導を行うものです。
これは2つのGPとして採択されましたが、本来は一体として考えるべきものですし、文科省の採択事業期間が終われば統合を考えなければなりません。学習力と就業力とを一体として進める組織が必要になるのです」(三輪学長)
こうした背景で2011年10月に「学習・就業力支援機構」が立ち上げられ、2012年度から本格運用が始まっている。機構には、教務、就職・キャリア、学生の3つの部署から教員・職員が集まっており、1年次が中心の学習力支援の個別指導を担当する教員もいれば、キャリア科目担当の教員もいる。
就業力育成に取り組むにあたって、このように複数の部署を1つに束ねて組織化する例は、実は稀だ。学長直下の組織ではあるが諮問機関ではなく、各部署からの職員も同じ組織に属して、事務機能をもつ組織になっているのも特徴的だ。新しい試みとして注目したい。

両事業期間が終了した2012年度以降の方向性としては、大学間の連携も模索していきたいという。専門科目ではすでに滋賀医科大学との連携があるが、キャリア科目については今後の構想となる。
「滋賀県に限らず、京都や奈良などの近隣の大学もそれぞれに特徴のあるキャリア科目を実施していますので、将来的な選択肢のひとつとして各大学が連携していく形がとれれば、キャリア教育の質も上がり、学生にもいい刺激になると思うんですね。
それから、複数の大学が連携を組むことで、地元経済界との連携を広域化できるのではないかという可能性についても考えています」(松島教授)

4. 地域との連携強化を目指す

就業力育成の今後の方向性について、三輪学長は「1つだけの科目では無理」と言う。
「3年ぐらい前から取り組んでいるのが、大学の授業のやり方そのものの改善です。キャリア科目の実践型授業はまさにその典型ですが、実験実習など他の授業に関しても、従来の一方向から双方向性への転換を図っています」(三輪学長)
この授業改善によって、就業力の中でも汎用スキルは通常の教育科目の中で身につけるものとしたいという。

一方、キャリア系の科目では、学内では触れにくいさまざまな年齢層やさまざまな価値観の人と協働する経験を積めるような授業のつくり方によって柔軟力・自律力を育てていく方針だ。そのためにも地域との連携を強めていくという。
「個別の企業というよりは地元の経済界全体に広く連携をお願いしたいということで、2009年に長浜商工会議所と協定を結びました。例えばキャリア科目に企業から送っていただく講師の選定は、商工会議所にお任せしています」(松島教授)
地域の経済界に学生の教育に関与してもらい、それを通じて学生がもっと町を親しく感じるようになれば、さまざまないい効果が生まれるだろうという考えだ。
長浜の人たちは「学生も町衆になってほしい」という言い方で学生への期待を語るという。地元で働く若い人が少しでも増えてほしいし、地域のイベントにも企画段階から入ってほしいという声がある。大学側もその声に応え、実践型授業などを通じた草の根的な連携を強めていくことを、地域に根ざす大学として産学連携の次のステップと位置づけているそうだ。

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