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学ぶと働くをつなぐ授業拝見[Clip Number 006]明星大学

明星大学デザイン学部3年次必修科目「企画表現演習5」

2019/05/13  タグ: ,  

「企画表現演習」科目群は、明星大学デザイン学部のカリキュラムにおいてコアともいえるものである。中でも3年次前期の必修科目である「演習5」は、それまでに身につけた技術や知識を結集させてPBL(Project-Based Learning)形態で取り組むもので、学びの1つの集大成といえる。
この科目の授業内容設計や運営に2014年度から携わる池谷聡准教授に、2018年度の授業の様子や成果について伺った。

「仕事の厳しさ」の具体的な基準をリアルなところにおく

「企画表現演習5」は、コース横断型のグループワークによって、クライアント(地元自治体である日野市)からの依頼に基づき、半期(4月~7月)をかけて具体的なデザイン企画を立て、学外に向けて発表する授業科目だ。2018年度の履修者は110名で、5人程度の20のグループが編成された。

池谷准教授は、学外から課題提供を受けるPBL型の授業が「社会に触れる経験をさせれば、何かしらの能力が育成されるだろう」と漠然と行われることを警戒する。「学生が社会に出たときにどんな力がないと困るか。この授業でどの力を身につけさせるのか。きちんと考えることが重要です」。まさに「学ぶと働くをつなぐ」観点だ。授業であると同時に受注した「仕事」として取り組む、という「企画表現演習5」の特色は、その観点で大きな意味をもつ。
クライアントからの依頼は、実際の問題に対する具体的なデザイン企画で、コンセプトにとどまらず、実現する直前の試作まで行う。「それも一般的なイメージの“学生の手作りサンプル”よりも格段に高い完成度を要求します」と池谷准教授は言う。そして、問題の解決に役立つと判断された企画のみが実現するのも、現実の「仕事」と同じだ。2018年度に採用され実現したのは、20プランのうち4案だった。


採用されたプランの1つ、日野市産ワインのパッケージ・ラベルデザイン

最終発表会の会場の様子

成果物の評価だけでなく、プロセスにおいても「仕事」のリアリティを持たせている。スタート時にマイルストーンなどプロジェクトの進め方が示された後は、教員の介入やアドバイスは原則としてない。「現実の厳しさ、とひとことで言うのではなく、厳しさの具体的な基準をリアルなところにおくことが必要だと考えています」。それは例えば、納期は「絶対に」動かない、協調性のないメンバーがいても入れ替えは「不可」、といった基準だ。
授業で活用したスライドの一部

「企画表現演習5」シラバス

「追い込まれる」状況を作り出し、コンピテンシーを伸長させる

池谷准教授は、学生のコンピテンシー伸長のポイントを、「追い込まれる」という言葉で表現する。
学科内プレゼンのスライドやシナリオ、デザイン試作品に、教員から多くの注文がつき、最終のクライアントプレゼン(公開発表会)に向けて完成度を上げきることが要求される。それまでは注文がつく具体物がないために「すべてを自主的に進める」という形で潜んでいた厳しさが、学科内プレゼン後は「目前の納期と容赦ないダメ出し」として分かりやすく表出してくる。
「そうなれば、『仲良しとだけいっしょにやりたい』『この作業は苦手だ』などと言ってはいられない。結果として、『やるしかない』ところに『追い込まれる』のです」
教員に「追い込む」意図はない。しかし一方で、仕事としての厳しさを一貫させることで、学生が「追い込まれる」状況を意図的に作り出しているといえる。

その状況で初めてコミュニケーション力がつくし、個人のストレス耐性も上がる。
「学生は、コミュニケーションという言葉を、誰とでもすぐに仲良くなる、というような意味で捉えることが多い。しかし社会人にとってコミュニケーションとは、仕事相手と『仲良く』なることではなく、たとえ苦手な相手であっても、必要なやりとりをしながら仕事を進められることなのです。納期があって『間に合わないかも』と追い込まれた状況でこそ、表面的な『みんな仲良し』とは異なるコミュニケーションが立ち現れ、その力が身に付いていくのです」

対人・対自己基礎力に予想以上の伸長成果

企画表現演習5は、デザイン学部のディプロマポリシーのうち、主に統合力、コミュニケーション力を育成する科目と位置づけられる。学生への授業アンケートからは、特にコミュニケーション力育成への好影響が見て取れた。例えば、「ギリギリにミスを発見するハプニングもありましたが、チームで協力することで無事やり遂げることができました。コミュニケーションの大切さを学びました」など、コミュニケーション力の向上に関連したフリーコメントが50%以上の学生にみられた。


コンピテンシーの観点では、授業の前後に実施したPROGテストにより、コミュニケーション力に対応する対人基礎力、そして対自己基礎力の大幅な伸長が確認できた。
2つに比べて対課題基礎力の伸びは小さかった。それについて池谷准教授は「計画立案力の伸びの小ささは、マイルストーンを学生自身が設定しないことが、影響しているかもしれません」と分析する。ただし、対課題基礎力も伸長予想を上回っており、100人規模のPBLで必修科目という条件のもとでは、十分に大きな成果といえそうだ。

この授業は、改訂を加えて2019年度も開講されている。引き続き学生に、社会に出た際に役立つスキル・経験を与えてくれることだろう。

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