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[新Vol.26] 高千穂大学

学修成果の可視化に取り組み、学生の成長実感を実現

2020/07/22  タグ:  

高千穂大学基礎DATA

本部所在地 東京都杉並区
設置形態 私立
学部 商学部/経営学部/人間科学部
学生数 2351名(2019年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、伝統の「人格教育」と現代性の高い「実学教育」との融合を図る高千穂大学の取組について、寺内一学長にお話をうかがった。

1.高千穂商科大学から高千穂大学へ

高千穂学園の起源は、1903年開校の高千穂小学校だ。創立者の川田鐵彌氏が、人格教育を重んじる発想で、小学校から作り上げていった経緯がある。高千穂大学も、高等教育機関として商学、経営学、人間科学といった実学を通じて社会に貢献する人材の育成を掲げつつ、より根本には、人を育てる人格教育という創立以来の教育理念があると、2019年度に就任した寺内一学長は説明する。
「この教育理念のもとに、『常に半歩先立つ進歩性』という学風の指針があります。さらに、指針を具現化するのが学風の目標で、『偏らない自由人』『気概ある常識人』『平和的国際人』の3つです」。
戦後の学制改革による新制大学としては、商学部商学科の単科大学「高千穂商科大学」としてスタートし、現在は3学部の「高千穂大学」になっている。
少人数教育も開学以来の伝統で、学年定員は3学部合計で550人。その規模を活かした一例が全学部必修の初年次教育「ゼミI」で、10~15人の小クラスで学び方の基本やコミュニケーション能力を身につける。
「大学に入学したばかりの1年生にとってゼミIの担当教員は、頼りになる存在です。担当教員がかなり密接な形で学生と関わるのが、本学のゼミナール教育の大きな特徴といえます」(寺内学長)。

2.目的意識の醸成をサポートするアドバイザー制度

高千穂大学で近年の課題認識とされてきたのは、学生の目的意識の希薄さだと寺内学長は言う。
「商科大学時代は、税理士になりたいなど入学時から目標のはっきりしている学生が比較的多かった。でも、経営学部、人間科学部と拡大するのと時を同じくして、そういった明確な目標を持っていない学生が、商学部も含めて、多くなってきたことが、入学時やゼミIでの調査からわかっています」。
そこで2002年度入学生からスタートしたのが「アドバイザー制度」で、入学から卒業まで、学生全員に専任教員がアドバイザーとしてつくものだ。目標が明確な学生にはその達成に向けてのフォロー、明確な目標を持たない学生に対しては、自分の夢を見つけ、将来像を描けるよう、個人の特性を見据えながらのサポートを実施している。
1年生はゼミIの担当教員、2年生以上は所属する専門ゼミの教員がアドバイザーを務める。専門ゼミに入らない学生には、教務委員会の担当教員がアドバイザーとなり、大学4年間での切れ目のない支援を目指している。アドバイザーは、随時学生の相談に乗るだけでなく、春学期、秋学期に1回ずつの年2回、担当する学生全員を面接して、様子を確認していく。
「目標が特定できていない学生がすごく伸びていくこともあります。いかにその学生が自分に自信をつけていくかを考え、そこに手間暇をかけていろいろやることは非常に大きなポイントだと思います」(寺内学長)。

3.学生が自身の目標をプランニングする「高千穂マスタープラン」

続く取組が、経営学部を開設した2001年度頃に検討を始め、2005年度からスタートした「高千穂マスタープラン」。各学年各学期の行動指針と、「授業」「ゼミ」「学友会・課外活動」「キャリア(就職)」の4グループに分かれた学内行事が「マスタープラン」として一覧になっており、それを参考に学生自身が個人の目標を設定し、大学生活4年間をどのように過ごすかの具体的な行動を、「目標管理シート」を使ってプランニングするものだ。
この取組が重要かつ有効だということは間違いない。ただ、実施上の課題も多かった。寺内学長は、一教員だった当時をこう振り返る。「スタートして数年のうちに、教員たちは『なかなか手間暇がかかって大変だ』と。マスタープランに沿って個人のプランを出すこと自体は簡単なのですが、それに対して学生自身がどこまでできたかをチェックするのが難しいのも課題でした」。

4.学修成果を可視化する「高千穂Can-doリスト」

そこで、「高千穂マスタープラン」の進化版として「現代的高千穂教育」と「ハイブリッド型サポートシステム」が2019年6月から検討され始めた。大きく変えたのは、「到達度の確認」を重視した点だ。

「学生が自分で自分の目標について、何が今できていて、何ができていないかを確認して成長実感を得られるようにしていきます。
また、教員が『君はここまできているよ』と成長を共に振り返り、本人の実感をもう一度、意味付けすることで、いっそうの成長実感につなげます」。

学修成果を可視化するツールとして「高千穂Can-doリスト」を作成する。文字通り「高千穂大学でできるようになること」の具体的なリストで、大学が学生に提供する教育の到達目標を示すものだ。現在は1年生の全学部必修科目「ゼミI 」「英語I /II 」「基礎コンピュータI/II」、商学部と経営学部の必修科目「簿記I/II」といった基本的な科目から作成に着手している。
例えば、英語のCan-doリストは、リスニング、リーディングなど5つの項目について、初学者のA1から熟練者のC2まで6つのレベルで評価するルーブリック表だ。レベル区分はEUで作成され日本を含む各国で使われているCEFR(セファール)に合わせている。
「基礎コンピュータ」科目のCan-doリストも、インターネット利用、文書作成などの項目について、CEFRと同じくA1からC2までの6レベルで評価する形に揃えた。科目ごとのCan-doリストをこの形で作成していけば、英語とそのほかの科目のレベル感が同じように見られることになる。
学生の自己評価と教員の評価との関係、科目ごとの達成目標との連携、教員の負担の大きさなど、難しい問題は多い。しかし、学修成果を学生一人ひとりに対して可視化する仕組み作りは、大学として大きな目標と寺内学長は考えている。

5.ハイブリッド型で進める「現代的高千穂教育」

推進に当たる学内の体制は「ハイブリッド型サポートシステム」という名前のとおりだと寺内学長は言う。「主に教員と職員のハイブリッドという意味です。理事会、同窓会、父母の会などを含む全学をあげて学生をサポートすることは前提ですが、特に今回は『教員だけで物事は動かない』と強調しました」。
教員に対しては3学部の専任・任期付教員全員が集まる連合教授会、職員に対しても同様の形で、趣旨や実施内容を全員に周知しながら、協力体制を作っている段階という。
「Can-doリストのほかにも、ディプロマサプリメントなど、複数の事業を予定しています。それを一度に全部動かすのではなく、時期をずらしながら準備し、小さな組織で実験をしてから次のステップというように、実践に動かしていきます」。

「現代的高千穂教育」は、2020年度に本格的に開始する予定だったが、新型コロナウイルスの影響で、実施は遅れている。今後の実施に当たって、学長が最も困難を予測しているのは、目標を持っていない学生への対応だ。
「税理士や公認会計士になるといった目標を持つ学生に対してのサポートは、本学の設立以来、大きな変化はなく、それほど難しくはないと思います。一方、自分の目標や特性を見極めることができていない学生が多く存在していて、その把握と指導にはかなり手間暇がかかります。
ただ、面倒見の良さというのは、本学の長所の一つとして守りたい。このポストコロナで対面ができない状況であってもです」。
学内では、一人ひとり面倒見よく手間暇かけた教育をしていく意思統一はできているといい、それは高千穂大学の強みといえるだろう。

6.3年後の創立120周年を見据えたプロジェクト

この「現代的高千穂教育」は、完成まで約3 年を見込んでいる。3 年後(2023年)の学園創立120周年を見据えているからだ。「今年度中に大きな基礎的な柱を固めて、走らせるものは走らせていく」と寺内学長は言う。
高千穂大学自体の将来像については、建学の精神である人格教育を根本に考えるという。「人を育てるというのは、4年間で終わるものではない。卒業後も高千穂のファミリーとして育っていき、自分の世界を築いていく、その時この4年間が良い影響を及ぼすような、そういう学園であればと思っています」。

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