R-CAP for Business
R-CAPシリーズのご紹介
よくある質問(FAQ)お問い合わせプライバシーポリシーサイトマップ
総合キャリア診断 R-CAP TOP > キャリアを考える書籍情報
お申し込み方法
「キャリアを考えるブックインフォメーション」
自分らしい「質」にこだわるキャリアのすすめ
スローキャリア 上昇志向が強くない人のための生き方論
著者:高橋俊介
評者:網野千文
[ 略 歴 ]
立教大学卒業後、出版社勤務を経て、1976年(株)日本リクルートセンター(現株式会社リクルート)に入社。その後、「リクルートブック」を始めとする新卒就職情報誌の編集長を務め、
大卒採用、制作クリエイター採用の担当、また採用後の教育研修担当など人事、教育関連業務も兼任。
1998年からはメディア制作局首都圏センター長としてリクルート制作全体の組織
マネージメントを担当。リクルートグループ制作関連の会社創設に携わる。

現在、特定非営利活動法人 キャリアカウンセリング協会  トレーナー
米国CCE.Inc認定 
GCDFキャリアカウンセラー
ビジネスパーソンにとって机の大きさには特別な意味があるようだ。確かに偉い人の机は大きいし、椅子に肘あてが付いていたようにも思う。もっと偉くなると革張りの椅子となり、机はマホガニーに。豪華な机は上昇志向の強いビジネスパーソンの勝ち組である証。会社が計算したご褒美なのだ。この本を読む前は机と椅子など気にも留めていなかったが、確かに昇格と同時に机と椅子が変わったように記憶する。椅子に肘あてがついた時は、何だか偉くなったような気にもなったものだ。が、それもつかの間、忙しくなると肘あてはすぐに邪魔になった。いかんせん動きづらいのだ。今にして思えば、偉くなればなるほど動かなくなる御仁が多いのでこのような肘あてがあるのだろうと推察する。普通に考えれば、滅法忙しいヒラ社員の机が大きいのが良いに決まっているが、企業の考え方は違う。たかが、机や椅子。されど、机や椅子。ビジネスパーソンの上昇志向を煽って鼓舞させるツールは随所にばら撒かれていると、著者は指摘する。著者である高橋俊介氏は旧国鉄(現JR)を経て、コンサル、社長、大学教授とエリート街道をまっしぐらの輝かしい経歴を持つ。そんな著者が「スローキャリア 上昇志向の強くない人のための生き方論」で、上昇志向を持っていなくても企業の中で生きていく術を教えてくれるという本のタイトルに、「そんなこと可能なのか」と半信半疑で本を手にした。
「スローキャリア」は「スローフード」という考え方に影響を受けたと言う。経済効率優先型ファーストフードの対極に位置する「スローフード」は、徹底的に食べ物の質とプロセスにこだわる究極のグルメであり、同じように質にこだわる働き方やキャリアがあってもいいじゃないか、という点が「スローキャリア」の出発点である。近年、スローブームであるから、フードもキャリアも揃うとライフも幸せになるのではとその秘伝を読み始めた。
冒頭、「あなたはキャリアについて勘違いしていないか」――キャリアをどう考えているのか改めて考えさせる問いかけから始まる。人生には勝ち負けなどない、キャリアアップもダウンもない、強いて言えばその人自身が判断する幸せなキャリア、不幸なキャリアというのがあるだけ。要するに何を大切だと思い、何に重きをおくのかは個人が自由に選択できることであり、同じようにキャリアも選択できるものであって、他人から評価されて受容するものではないと納得させられる。しかし、実際に企業が欲しているのは利潤追求するために都合の良い上昇志向の強い人材ではないのだろうか。
ビジネスパーソン予備軍である学生の調査分析によると、キャリアの捉え方はおおまかに4タイプに分けられる。1=「焦り症候群・・勝ち組になりたいとキャリアを焦っている」タイプ、2=「逃避症候群・・どうせ勝ち組にはなれないと諦めている」タイプ、3=「思い込み症候群・・自分の進むべき道はこれと決めて職業選択をしようとする思い込みが強い」タイプ、4=「考えすぎ症候群・・やりたいことも分からない自分を駄目だと自己嫌悪に陥る」と考えるタイプ。これは社会人にも当てはまると著者は言う。まず個人の達成したい希望、目的があって逆算してキャリアを作っていく、合目的的キャリア論では解決しない問題があまりに多い。偏差値、学歴重視社会の崩壊が進んでいるとはいえ、幼い頃より上昇志向を植えつけられている彼らには多かれ少なかれ「上昇志向の呪縛」が見え隠れする。上昇志向という動機付けによって力を発揮する人はいる。しかし、著者は上昇志向でない動機、つまり人と仲良くしたい、人を理解してあげたい、人から感謝されたい、そして自分で決めたい、細部まで徹底してこだわりたい・・を生かしたキャリア形成を推奨する。あらかじめ達成すべき数字や目標があるのではなく、自分のポリシーや価値観に従って、対人関係を含めた仕事のプロセスにのめり込みながら、自分で自分の人生をマネージメントしながら日々生きていき、振り返ったとき結果として後ろにキャリアができている。これを「スローキャリア」と称すのだ。