更新日:2025年11月12日
東京ディズニーリゾートを運営する、株式会社オリエンタルランド。同社の準社員(アルバイト)およびテーマパークオペレーション(以下TO社員)対象のキャリア支援施設である「OLCキャリア・カレッジ」が2025年春にリニューアルされ、5月22日にはオープニング・セレモニーも挙行された。
新しくなった「OLCキャリア・カレッジ」の持つ意味と役割、展望についてお話を伺った。
「OLCキャリア・カレッジのリニューアルに際して、私たちが改めて考えたのは、働く従業員一人ひとりがキャリアの自立を目指せる、そんな人材を支援していきたいという点でした」
そう語るのは、人事本部キャスティング部キャスト教育グループ、チーフリーディングスタッフの鈴木恵氏だ。
そもそも、「キャリア自立」とは何か。同社では、「自分の働き方・生き方を『自分で決めて選択』することができる」状態と定義づけている。そこで重要なのが、「自己理解」「仕事理解」「自己肯定感」「自己効力感」という4つの要素だという。
ベースとなるのは、まずは「自己理解」。自分自身の強みはどこにあるのか。何が好きで、何が得意なのか。一方で、自分はどんな働き方をしていきたいのか、どんな仕事に、自分はどう貢献をしていきたいのかを考えると、「仕事理解」も欠かせない。さらにそれらを支えるものとして、「自己肯定感」「自己効力感」が必要となる。自分はこれができて、こう高めていける――それを信じることができて、初めて自分のやりたいことに向かって進んでいける。
「しかし現在、メンバーたちに接していると、自分に自信がなかったり、自分は何がしたいか・何ができるかの認識に不安要素を抱えていたりする人が多いように感じます。まずはこの、不足しがちな『自己肯定感』や『自己効力感』を高めていかないと、自分のやりたい道に進んでいくことも難しいのではないか。そのうえで自己理解や仕事理解を高めていくことが、キャリア自立のベースになると考えています。それを後押ししていくことが、私たちの目指す姿です」(鈴木氏)
一般に、「キャリア」と言えば、社内外での仕事を通じて培うものというイメージだろう。これは正確に言えば「ワークキャリア(=働き方)」ということになる。しかし単に仕事だけでなく、それ以外の活動――趣味やボランティアなどもまた、広い意味でのキャリアに含まれる。「ライフキャリア(=生き方)」という考え方だ。
2018年10月にオープンした「OLCキャリア・カレッジ」は当初、社会人として必要なスキルを磨くことに重点を置いていたという。つまり「ワークキャリア」を高める支援を行うところ、という位置付けだった。もちろんそうした機能、例えばビジネススキルの研修は現在でも行っているが、それらは一部に留め、まずは「働き方も生き方も、自ら選び、行動する」力の獲得を支援する方向にシフトしているという。つまり、新しい「OLCキャリア・カレッジ」は、「ワークキャリア」の枠を超えて「ライフキャリア」にもコミットしながら、「Well-Beingな生き方」そのものを探る行程を支援していくもの、と言える。
「OLCキャリア・カレッジ」がリニューアルされるきっかけは2つあった。同じくチーフリーディングスタッフの海老原博美氏は、次のように語る。
「1つめは、キャリア・カレッジができてさほど経たないうちに、コロナ禍に襲われたこと。運営している施設でも休業が続きました。もう1つは、準社員(アルバイト従業員)から、テーマパークの業務に特化した社員であるTO社員への登用制度が始まったこと。
こうして、改めて自分の働き方・生き方を見直す必要性や、変化に適応する力がより強く求められるようになってきた一方で、それについてなかなか学ぶ機会がない。大きな変化の中で、どうしても自信を失いがちになってしまう。そんな点からも、自分の中の変化への適応力を知るとともに、それをどう身につけていったらいいかをもっと具体的に考える必要性が、ますます大きくなったと思っています」
新たな「OLCキャリア・カレッジ」の主な機能として、最初にあげられるのが「キャリア相談」。1対1の予約制が基本だが、もっと気軽に、少し立ち寄った機会の“おしゃべり”半分にというスタイルの「ちょこっと相談」も、対応できる職員・時間ともに拡充したいという。
「マンスリー・プログラム」は定期的に催されるイベント的なプログラム。よくある研修のように一方通行で何かを教えるのではなく、テーマを設定し、参加者同士が語り合い、考えるもので、各回、「みんなで○○(○○部分はその都度異なる)」というタイトルが付くため、「『みんなで』シリーズ」とも呼ばれる。
それらとともに、従来型の研修プログラムも行われる。その筆頭と言える「自己表現ワークショップ」は、自分の思いの表現法や、人間関係をより良くするためのコミュニケーションなどを学ぶプログラムである。自分の能力を把握し、自己理解に役立てるための社会人基礎力診断(PROG)受験の制度も、以前から引き継がれているものだ。
これらソフトウェアのメニュー以外の大きな変化もある。
「最もわかりやすく変わったのが、スペースの広さだと思います。現在のカレッジの広さは移転前の約1.5倍。広がった面積の大部分を、フリースペースの拡大に充てています。フリースペースには、図書館のような個別のスペースや、丸テーブルと椅子を並べて仲間で集まることができるスペースがあります」(鈴木氏)
個別スペースは主にPCや資料を広げて個人の勉強をする人向けで、午前中には早々とそちらから埋まっていく傾向にあるとか。後者の丸テーブルは、まさに“フリー”そのものという感じで、仕事終わりやちょっと空いた時間に職場の仲間と語らったり、飲食もできる。自由に学べるよう、対話や自己理解を促進するボードゲームやカードゲームなども用意されている。
「現在は、仕事上がりの時間帯で利用される方が多いですね。休日には『勉強しに来ました』という方も」(鈴木氏)。
なかには、ランチの時間だけ外出して、あとは一日中籠って勉強する人もいるという。
取材当日にフリースペースを利用していた若手の男性従業員に、個人としての利用状況、感想等を伺ってみた。オリエンタルランドで働いてトータル3年、現在は運営業務を担っているという。
「こちらに来るのは、月に4、5回程度でしょうか。今日はたまたま休みの日に来ていますが、普段は出勤前に来ることが多いですね。
特に、自分のキャリアにちょっと不安を感じるときとか――。あるいは、職場で一人の先輩にはこう言われたのに、他の先輩には別のことを言われて悩んだとか、そんな理由でリフレッシュしたいと感じたときなどに来て、相談に乗ってもらったりします。社内公募を受けようと思ったときに、自己分析の方法やチャレンジに対する姿勢についてのアドバイスもいただきました。
従業員専用のアプリに『OLCキャリア・カレッジ』の紹介があり、キャリアのことなど相談に乗りますとあったので、申し込んでみたのが、利用するようになったきっかけです。ここには運営を担当する従業員だけでなく、飲食業務を担当する従業員とか、自分とは別の仕事をしている方も多く来るので、横のつながりが増えるのも魅力です。居心地いいですね」
リニューアルから数カ月の現在は、まずは対象となる準社員・TO社員にこの施設を知ってもらい、利用者を増やすことに注力中。実際に、一度利用した人が「心地いい」と考えてまた訪れる、あるいは新しい人を連れてくるという形で、利用者数は順調に伸びているという。
今後「OLCキャリア・カレッジ」が目指す姿としては、従業員、会社、社会の「三方良し」に貢献できるものを、との戦略を据えている。
テーマパークを中心としたオリエンタルランドの経営のなかで、人の能力、パフォーマンスは何よりも大切なものだが、そんな人的資本経営の土台に貢献するのが、この「OLCキャリア・カレッジ」の根本的な役割というわけだ。
「目指したいのは、やはり『Well-Beingな生き方』の支援です。ここで働いたことによって、自分の人生にとっての大切な1ページを得ることができたと、そんな実感を得てもらえることが、私たちが望んでいることです。
たとえ“卒業”して――他社に転職していったとしても、当社が運営する施設のファンになり続けてくれて、一方では、ここで働いたことが他社での活躍につながっていくなら、この会社で働いた実績が残っていくということでもあります。それこそ、従業員にとっても会社にとっても、社会にとってもいい、まさに『三方良し』になることだと思っています」(鈴木氏)