中堅社員のキャリア自律支援を企業で支援する意義と支援方法
更新日:2025年8月21日
若手への初期教育や、管理職候補の選抜・育成に力を入れてきた企業が多い中で、いま改めて関心が高まっているのが「中堅社員」のキャリア支援です。キャリア10年目前後の中堅層は、現場の中核として組織を支える一方で、業務内容が固定化しやすく、成長実感や今後のキャリアに対する不安を抱えがちです。
こうした中堅社員のキャリアの節目における「自律支援」は、個人のモチベーションを維持するだけでなく、将来的なリーダー層の育成や、組織全体の活性化にもつながります。
今回のコラムでは、企業の人事・人材開発担当者の皆様に向けて、中堅社員へのキャリア自律支援をいかに設計すべきか、その実践的な視点とアプローチをお伝えします。
中堅社員がキャリアの方向性に迷いを感じやすいのには、いくつか背景があります。
まず、業務に一定の習熟を得る時期であることが挙げられます。中堅層になると、日々の業務はルーティン化し、業務遂行そのものに大きな困難を感じることは少なくなります。その一方で、「学びの実感」や「挑戦の機会」が目に見えて減少し、これまでのように“成長”を感じにくくなる傾向があります。
これにより、「特定の業務や自社特有の業務に詳しいが、他のスキルが身についていない」「異動や転職を考えたときに、自分の市場価値が低いのではないか」という漠然とした不安が生まれやすくなります。
また、結婚や子育てといったワークライフバランスの変化により、これまでと同じように仕事ができなくなったり、同期や後輩の昇進・活躍をみて自分と比べてしまい不安になってしまうというケースもあるようです。この場合、自身にこのような変化が起こっていなくても周りの人の変化を目の当たりにし「自分はこのままでいいのだろうか」という焦燥感に近いものを感じる方もいます。
とはいえ、このような漠然とした不安や焦燥感を抱える中堅社員が自身の仕事を立ち止まって振り返る機会があるかというと、実はあまり多くないことも見逃せません。この漠然とした不安や焦燥感を解消するために、転職活動を始めるという方も多いようで、転職することを前提で行動を起こしているため、今いる会社と条件が変わらなかったり、悪くなっても転職をしてしまうというケースもあります。転職先を聞いた時に「なぜ、そこに転職したのだろう」と疑問に感じる場合はこのケースが考えられます。
このような課題に対しては、組織としてキャリアの節目に「立ち止まる機会」を設けることが効果的です。
キャリアの節目に立ち止まる機会を設けるにあたっては、キャリア研修が有効です。
キャリア研修を導入している企業もあれば、まだ取り組めていないという企業もあるでしょう。また、キャリア研修は行っているものの、若手向けの研修や、50代向けの研修で、30代~40代向けのキャリア研修を設けていない企業もあるようです。その理由として、中堅社員層がリーダー研修や管理職研修などの対象者で、加えてかなり多忙であるという状況があるようです。
結果として、これまでの経験を棚卸しし、自身の強みや価値観を再確認する時間が取れず、前述したような不安感や焦燥感を抱えたまま業務をし続けることになっていきます。
このような状態とならないように、リーダー研修や管理職研修とは目的の違うものとして中堅社員にもキャリア研修を実施すると良いでしょう。
また、キャリア研修では、自分自身の仕事を客観的にとらえるワークを取り入れることがおすすめです。
たとえば、自身のこれまでの仕事について「経験 → 行動 → 強み」の順で言語化し、他者と共有することで、自身のこれまでの仕事が自らのスキルや強みとなっていったかを考えるきっかけを得ることができます。これにより、自社での仕事が、自らを成長させて来たことに改めて気づくこともできるでしょう。
これまでキャリア支援の風土がなかった企業において、このような機運を高めていくことは難しく感じるかもしれません。
例えば、「1on1でキャリアについて話そう」というメッセージを発信したり、希望制で自己理解を促すようなワークショップなどを試してみるところから始めてみてはいかがでしょうか。徐々に社員一人ひとりが自身のキャリアを”自分ごと”として考える重要性に気がついてもらえるようになると企業の施策として動きだせるようになるかもしれません。
そのためには、まずは社員自身が「腹落ちする体験」を届けることが、支援施策の成果に直結します。
自身のキャリアを見直していく際には、自己理解から始めていくことが重要です。中堅社員層は仕事では中心的役割を担っていることから仕事についても、自身についても理解していると感じていることが多いようです。
キャリア用語の一つとして「セルフ・アウェアネス(自己認識力)」という単語があります。自分自身の感情、思考、行動、価値観などを深く理解し、それらが自分や周囲にどのような影響を与えるかを認識する能力を指しますが、客観的に自分を見てもらうことで気が付かない自分に気づいてもらう必要があります。その一つの手法として、簡易アセスメントなどを組み合わせて自分を客観視してもらうという方法があります。このような新たな気づきを得てもらうことで納得感や腹落ち感を演出することができます。
▼アセスメントの活用についてはこちらで解説しています!
このことをきっかけとして上司やキャリア支援担当者と話し合うような1on1やキャリア面談という仕掛けを設計をしておくことで、「キャリアを考える時間」が、単なるイベントではなく継続的な体験へと昇華されます。
このように中堅社員のキャリア自律支援では、本人任せにするのではなく、組織が伴走する姿勢を持つことで新しい展開を期待することができます。
中堅社員は、組織の中で知見と行動力の両方を持つ重要な層です。この層のキャリア自律を支援することは、単にエンゲージメントを高める施策ではなく、キャリアについて考えることが当たり前になる風土をつくる土台になります。
特に変化の激しい時代においては、社員一人ひとりが自ら考え、学び、動けることが、組織全体の対応力・持続性を支える鍵となります。そのためにも社員がキャリア自律していくことを支援することは企業にとっても重要な取り組みとなっていくことでしょう。