中堅社員の「行動変容」を促進するキャリア自律支援とは?
更新日:2025年8月19日
入社して10年目ほどの中堅社員は、組織において中核的な役割を担いながらも、キャリアの迷いや停滞を感じやすい層です。現場の中では一定の信頼を得ていても、「この先どうありたいか」「自分はどんな強みを持っているのか」が見えにくくなる時期でもあります。
こうした“見えにくさ”は、決して本人の能力や意欲の問題ではありません。むしろ、ある程度経験を積んだからこそ、様々なことが見え、迷いや停滞感を感じやすくなるのです。
その解決策として以下の記事で、中堅社員のキャリア自律を企業が支援する意義と簡単な支援方法について紹介しました。
本コラムでは、中堅社員のキャリア自律に向けた具体的なプロセスと、それを踏まえた支援方法についてご紹介します。
また、キャリア自律は考えるだけでなく、実際に行動化していくことが重要です。ここではどのように「行動変容」を促していくかについてもご紹介します。
人材育成の現場で「キャリア自律」が語られる場面が増える中で、実際にどのようにしてキャリア自律度を高め、行動変容への動機付けを行っていけばよいのでしょうか。その第一歩となるのが「自己理解」です。
厚生労働省は、キャリアを形成するステップとして「自己理解」「しごと理解」「啓発的経験」「意思決定」「方策の実行」「新たな環境への適応」という「キャリア形成の 6 つのステップ」を発表しており、まずはじめに自身の興味・関心・価値観・能力・適性等の理解を深める「自己理解」を置いています。
キャリア形成の6つのステップ
出所:厚生労働省 リアセックにて編集
自身の強みや課題、興味関心、価値観などを深く理解することで、従業員は自身のキャリアパスをより明確に描き、どのようなスキルを身につけるべきか、何を目指して学ぶべきかを主体的に考えられるようになります。
たとえば、「この分野は自分の強みだから、さらに伸ばして専門性を高めたい」「この分野は苦手意識があるが、習得できればもっと仕事の幅が広がる」といった期待感が、具体的な学びの動機付けになります。また、「自己理解」「しごと理解」と進めていき、キャリアに対する「意思決定」や「方策の実行」を具体的に検討していくステップになると、やりたいことと自身の能力のギャップに気がつくケースがあり、ここでも学びの動機は発生します。
自身の現状を客観的に把握し、課題と可能性を認識することで、学びへの強い動機づけと具体的な方向性が定まり、学習意欲が飛躍的に向上します。自身の現状を把握することで、学ぶべき方向性が定まり、学習意欲が向上するのです。
このような社員の自己理解を促進する手法として、アセスメントの活用があります。
アセスメント(assessment)とは、対象となる人や物事を評価・分析し、現状をありのままに把握することです。アセスメントツールは人材マネジメントの領域でも用いられており、個人の能力や適性を測定し、適切な配置や育成等に活用されています。
自己理解を促すアセスメントツールは多岐にわたりますが、ここではその目的と測定対象によって、以下の3つのタイプに分類してご紹介します。
(1)パーソナリティ・性格傾向を可視化するアセスメント
個人の行動パターンや思考の癖、対人関係における特性などを測定します。代表的な理論としては、「ビッグファイブ理論」や「MBTI(16パーソナリティ)」などが有名です。
測定内容の例: 協調性、外向性、神経症傾向、誠実性、開放性など
活用シーンの例: チームビルディング、リーダーシップ開発、コミュニケーション研修
(2)仕事における価値観・興味を可視化するアセスメント
仕事に対するモチベーションの源泉や、どのような環境で力を発揮しやすいかといった個人の内面的な志向性を測定します。カードソートなどの簡易ツールで自身の志向性を言語化するといった手法もあります。
測定内容の例: 貢献欲求、安定志向、挑戦意欲、報酬への関心、キャリアアンカーなど
活用シーンの例: キャリア面談、エンゲージメントサーベイ、評価制度の見直し
(3)能力やスキルを可視化するアセスメント
業務遂行に必要となる特定の能力や、潜在的なスキルを測定します。近年注目されている「ポータブルスキル(業種や職種を超えて活用できる汎用性の高いスキル)」の可視化も含まれます。
測定内容の例: ロジカルシンキング能力、課題発見能力、対人関係能力、学習能力など
活用シーンの例: 異動・抜擢候補者の選定、研修効果測定、人材ポートフォリオの作成
主観評価だけでなくこれらのアセスメントを組み合わせて多面的に自分を見つめる機会を提供することで、社員の自己理解を深め、より精度の高いキャリア支援を実現できます。
さらに、測定だけで終わらせずに「成長のための行動変容を促す」という観点では、以下のポイントを網羅したアセスメントを選定することを推奨します。
自己理解+行動変容を促すアセスメントの条件
(1)実践行動や経験によって「可変する能力」を測定できる
キャリア自律に向けた自己理解を深める目的は、現状を把握し次のキャリア自律のステップにつなげることです。そのため、診断結果が固定的な「性格」「資質」だけではなく、自身の歩みたいキャリアに向けて、研修や業務など自身の行動によって伸ばしていくことができる「可変的な能力」を測定できるツールを選定することが良いでしょう。これにより、社員は「今の自分はどんな力が強みで、キャリア形成のためにどんな力を伸ばすべきか」という具体的な目標設定ができます。
(2)専門知識・スキルだけでなく、社会人の土台となる汎用的な「社会人基礎力」を測定できる
特定の職種スキルではなく、変化の激しい時代でも通用するポータブルスキル(業種・職種を超えて活用できるスキル)を測定できるかが重要です。具体的には、課題発見力、傾聴力、チームで協働する力など、どんな仕事にも活かせる土台となる力を可視化することで、社員は自身の汎用的な強みを理解し、より広い視野でキャリアを考えるきっかけを得られます。
(3)能力開発のための「フィードバックや対話」に活用できる
アセスメントは測定して終わりではありません。診断結果をもとに、上司やキャリアコンサルタントと対話(フィードバック)を行うことで、自己理解はさらに深まります。フィードバックのヒントが豊富に記載されている、あるいは対話を支援するツールが提供されているアセスメントは、社員が内省を深め、行動変容につなげるために非常に有効です。
アセスメントを活かすには、一時的な結果で終わらせず、支援を継続的なサイクルにする仕組みが求められます。具体的には、次の3つの観点が有効です。
(1)面談やフィードバックの定着
アセスメント結果を活用したキャリア面談の実施は、自己理解を深めるうえで欠かせません。支援者が「どのような場面でその特性を活かしたいか?」など、問いかけを工夫することで、本人の中に自発的な行動イメージが芽生えます。
(2)小さな行動目標の設定
たとえば、リーダーシップの課題が見えた中堅社員であれば、「週に1回、メンバーとの1on1で必ず傾聴の時間を設ける」「担当案件の進捗会議で、自部署の意見だけでなく、他部署への影響を考慮した発言をする」など、すぐに試せる小さな行動目標を設定し実行していくのが効果的です。これにより、アセスメントで得た気づきが机上の空論で終わらず、確かな成長実感へとつながっていきます。
(3)変化の観察とフィードバックの習慣化
一定期間後に上司や同僚から簡単なフィードバックを得ることで、自分では気づきにくい変化にも目が向きます。こうした定期的なフィードバックもまた、行動継続の後押しとなります。
このように、アセスメントを起点にした支援は、“診断で終わらない”育成の土台となり得ます。
ここまでご説明してきた自己理解・行動変容を後押しするアセスメントの条件を押さえ、キャリア支援の仕組みづくりを実現するアセスメントの一例として、「PROG@Work」についてご紹介します。
PROG@Workとは Progress Report On Generic skills
どの仕事にも共通する成果をあげるために活用している”基礎力”を測定できるアセスメントツールです。
この基礎力は、性格傾向などの変化しづらい特性とは異なり、意識や行動変容によって可変するスキルで、リテラシーとコンピテンシーに区分しています。PROG@Workでは基礎力を科学的根拠に基づいた手法で客観的に測定することで、部下の基礎力の現状を把握することができ、今後の能力開発・キャリア開発に向けた支援材料として活用することができます。
自己理解と行動変容を促進するPROG@Workの特徴
(1)仕事における行動や能力に直結した指標を測定できる
PROG@Workは、弊社の長年のコンピテンシー研究と国内外のスキル研究に基づき設計されています(OECD、各国のスキルスタンダード、社会人基礎力など)。これらは性格傾向やタイプ診断とは異なり、職場での具体的な行動や業務遂行能力と直結しており、本人が「今の自分の働き方」にリアリティを持って向き合える構成となっています。
(2) 成長の方向性やアクションのヒントが得られる
測定結果のスコアだけでなく、成長支援ハンドブックにて各能力に対する具体的なレベル定義や能力が高い方の行動特徴、能力アップのための行動例などが記載されており、「どの能力をどう伸ばせばよいのか」が具体的に把握できます。また、世の中の社会人データとの比較で、自身の客観的な立ち位置を把握することも可能です。
(3)継続的に測定し、成長をトラッキングできる
1年後、3年後など、任意のタイミングで再受験することで、スコアの変化(能力成長)を客観的に追跡できます。また、組織としてデータを蓄積すれば、年度ごとの社員全体の傾向把握や研修効果の検証にも活用できるため、戦略的な人材育成ツールとしても優れています。
(4)本人にとって“納得感”や“信頼感”がある
PROG@Workは、信頼性・妥当性が認められた客観測定を採用しており、科学的根拠に基づいた設計となっています。また、強み・課題の両面を把握することができ、成長のための自己理解を深めることが可能です。
PROG@Workの活用方法
(1)受験結果から、「強み」「課題」を把握
PROG@Workは、リテラシー(思考力)とコンピテンシー(行動特性)を測定することで、社員一人ひとりの特性を可視化します。診断結果を通じて、自分が「どのような場面で力を発揮しやすいか」「どのような状況でつまずきやすいか」といった傾向を客観的に理解できます。また、社会人全体の平均値と比較することで、自分の現在地を冷静に見つめ直す材料にもなります。
(2)業務とのつながりを振り返り、意味づけを深める
自己特性を業務の経験と照らし合わせることで、「なぜ特定の仕事にやりがいを感じるのか」「どのような場面で負担感を覚えるのか」といった内的要因を言語化することができます。強みが活かされている実感を得ることで自己効力感が高まり、日々の役割に対する納得感や意義の再発見にもつながります。
(3)今後伸ばしたい力を定め、業務内での実践計画を立てる
診断結果は、“これからどんな力を高めたいか”を考えるきっかけにもなります。たとえば「他者とより良い関係を築きたい」という意識があれば、日常の中で「会議で相手の意見にひと言リアクションを添える」「1on1で相手の考えを深掘りしてみる」といった具体的な行動目標が設定できます。こうした小さな実践が、自律的な成長の一歩となります。
(4)継続的な対話とフィードバックを通じて振り返る
実践した行動について、定期的に振り返る機会を設けることがキャリア自律の定着には欠かせません。上司との1on1や面談の場で、計画の実践状況を共有し、フィードバックを受けることで、次のアクションへの気づきが得られます。また、一定期間後に再度アセスメントを実施することで、自身の変化を定量的に捉えることも可能です。これにより、内省と行動を繰り返す自律的な成長サイクルが生まれます。
キャリアの中間点に立つ中堅社員にとって、自分の思考・行動の傾向を理解し直し、それを言語化して業務に活かすことは、キャリアの再出発を支える大切なプロセスです。
アセスメントは、単に強みや傾向を示すものではなく、それを仕事の中でどう使っていくかを考える“きっかけ”として活用することで、現場での実践力へとつながります。
PROG@Workのようなツールは、その「きっかけ」を効果的に設計する手段の一つです。自律的に働く人材の育成と、キャリア支援の仕組みづくりを進める上で、こうしたツールの活用は今後ますます重要になっていくと考えられます。
人材開発の現場で、「支援が必要なときに届く」設計を検討されている皆様にとって、参考になれば幸いです。