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「受け手視点」でのOJT

 

新人の本音から逆算する育成設計のポイント

 


更新日:2025年6月24日

 

 

 

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新入社員や若手社員に対するOJT(On-the-Job Training)に多くの企業が取り組まれていますが、OJTを受ける側の新人・若手から、

「上司や先輩によって言うことが違うんです」
「やることは任されるのに、教え方はバラバラで…」
「目的もゴールもわからないまま、とにかく“やって覚えて”の連続で不安です」

といった声を耳にする機会が増えていませんか?

 

これは、OJT担当者のやる気や姿勢が不足しているからではなく、属人化、非計画性、情報の未整備など、OJTの“仕組み”に根本的な見直しが求められているサインかもしれません。

今回は、「OJTを受ける側」の声に着目し、育成設計の再考が求められる理由と、そのために必要な視点を整理します。

 

 

目次


 

 

 

①「OJTを受ける側」のモヤモヤとは?

 

実際に若手社員からヒアリングすると、OJTに対して次のような課題意識が浮かび上がります。

 

【ケース1】人によって教えること・言うことが違う

同じチーム内でも、Aさんは「スピード重視」、Bさんは「品質最優先」など、価値観の違いが混在
・どちらに従えばいいのか戸惑い、「空気を読む」ことが学習の中心になってしまう

 

【ケース2】背景や意味がわからず、作業だけをこなす日々

・「これ、やっておいて」と業務を渡されても、その目的や前後の文脈が共有されないため、自分の仕事の意味を見出せず、やりがいも生まれにくい

 

【ケース3】ツールやルールが整備されていない

・業務マニュアルがなく、周囲に質問しないと前に進めない
・質問しやすさや先輩の余裕に左右され、成長スピードが属人的になりやすい

 

【ケース4】育成のゴールが見えず、自己評価もしづらい

・何ができるようになれば「一人前」なのか、到達イメージが共有されていないため、日々の成長を実感しづらく、評価の基準にも疑問を持つことがある

 

これらはすべて、OJTにおける「設計の曖昧さ」が原因です。

多くの企業がOJTを導入しているにも関わらず、こうした課題が生まれるのはなぜでしょうか? 背後には、以下のような構造的な要因があります。

 

● 指導が属人化している
OJTが「トレーナー任せ」になっており、個々の価値観やスキルに大きく依存していることが考えられます。柔軟であるともいえますが、“場当たり的”とも捉えられます。

 

● 業務情報が体系化されていない
業務マニュアル、FAQ、業務ツール、教育資料などの整備が遅れており、「習うより慣れろ」「やって覚えろ」が常態化している現場も多いのではないでしょうか。

 

● 業務習得が目的に
新人を育てる側が「とりあえず早く戦力に」という認識でOJTを実施してしまうと、業務習得が目的になりがちで、人材育成としての計画性に欠けるケースがあります。

 

● 内省とフィードバックの機会が不足
日々の業務に追われ振り返りの機会が不足することで、「できた」「できなかった」の判断が新人自身の尺度に依存してしまったり、新人が課題を解決できないまま抱え込んでしまうケースも見受けられます。

 

 

②新人・若手の傾向とOJTのリスク

 

近年の新人・若手は、かつての世代と比べて「仕事に意味や成長を求める」「将来のキャリアに不安や焦りを感じる」といった傾向が強まっているといわれています。

 

内海正人氏の著書「上司のやってはいけない!ダメな上司にならないための112項目」(日本実業出版社、2014年)の中で、上司がやってはいけないこととして「背中で教える上司に憧れてしまう」という点が挙げられています。

最近の傾向として、新人・若手は「納得しないと行動しない」傾向が強まっています。背景や目的を伝えずに「とにかく見て学べ」といったアプローチをしても、新人・若手は「何のためにこの仕事をするのか」という疑問を感じ、業務に対するモチベーションやパフォーマンスが低下してしまいます。

また、現在の上司・先輩世代は、さらに上の世代から「とにかく見て真似る」といった形で業務を学び、成功体験を積んできましたが、近年はテレワークやジョブ型雇用の普及などによりそのようなモデリングの機会も減少し、現代の新人・若手に対して従来通りの「背中を見せる」育成は難しくなってきています。

 

加えて、現代の新人若手は将来への漠然とした不安や、自分のキャリアに対する焦燥感を抱えているケースも少なくありません。終身雇用が前提とされない時代に育った彼らにとって、「この会社でこの仕事をしていて、自分はちゃんと成長できるのか?」という問いは、日常的な関心事になっています。

 

そのような背景から、新人・若手の業務に対するモチベーションやエンゲージメントを高めるには、日々の仕事を通じて「成長できそう」「将来につながっていそう」という“成長予感”を持ってもらうことが不可欠です。つまり、仕事を通して「社会で通用するスキルや知見を身につけられそうだ」という予感を新人が持てるかどうかが重要になります。ただ業務を引き継ぐだけ、作業をこなしてもらうだけのOJTでは、彼らを動機づけることが難しくなっています。

 

しかし実際のOJT現場では、指導者が「仕事のやり方を覚えさせること」を優先し、新人・若手の能力開発や成長実感に目が向いていないケースも見られます。こうしたギャップは、やがて新人のエンゲージメント低下や早期離職のリスクにもつながります。特に最近の新人・若手は「自分らしさ」や「個の尊重」を重視する傾向が強いといわれているため、画一的な指導ではなく個別の特性や学習ペースに配慮した、受け手視点のOJT設計が必要不可欠です。

 

 

③「受け手視点」のOJT再設計

 

こうした課題に対して、必要なのはOJTの“やり方”を変えることではなく、OJTをどのような「育成体験」として設計するかを見直すことです。
OJTの受け手の成長実感を高めるためには、以下の3つの視点が欠かせません。

 

(1)可視化:育成プロセスの明確化

目的:受け手が“何ができるようになったか”を実感し、先の見通しを持てるようにする

・成長の段階をステップとして明示し、到達点を具体化
・育成の「進捗状況」が視覚的にわかるツールを整備
・習得すべきスキルや期待される行動をあらかじめ共有し、不安を軽減

 

<具体例>
・OJTチェックリスト:業務ごとの「習得済/習得中/未着手」などのステータスを一覧化
・OJT進捗シート:月単位での成長目標(例:「3か月目までに顧客対応を一人でこなす」)を設定し、達成度を記録
・キャリアマップ風の育成フロー:「1か月=社内業務理解、3か月=基本業務の自立実施、6か月=主体的な改善提案」など、到達イメージを図解

 

▼チェックリスト・育成フローの一例

 

 

 

 

(2)整備:情報と業務の標準化

目的:誰に教わっても同じ水準の育成を受けられるようにし、安心感と効率を担保する

・業務・教育の属人化を防ぎ、指導の質とスピードを一定に保つ
・指導者にとっても“教えやすい状態”を整えることで、育成のブレを減らす
・情報にアクセスしやすくし、新人が「調べて学ぶ」姿勢を育てる

 

<具体例>
・業務マニュアル・ナレッジ集:操作手順や注意点をテンプレート化(例:経費精算マニュアル、名刺管理フロー)
・FAQ集:新人からよくある質問と回答を事前に集約(例:「チャットの宛先で迷ったら?」「報連相のベストタイミングは?」)
・トレーナー向け指導ガイド:指導観・育成方針、指摘の伝え方、よくある詰まりポイントなど
・OJT設計書(育成カリキュラム):配属後に何をどの順で習得させるかを時系列で定義し、チームで共有

 

(3)対話:内省を促す振り返りの場

目的:成長の意味づけを言語化し、自信や主体性を引き出す/育成者も“教える経験”を学びに変える

・行動の結果だけでなく、感じたこと・考えたことを定期的に整理する
・受け手にとっては「気づき→学び→行動」サイクルを回す習慣となる
・育成者にとっても、自身の教え方を振り返る契機となる

 

<具体例>
・週次・隔週の1on1ミーティング:感情面(例:「何が楽しかったか/難しかったか」)にも触れる
・振り返りシート:毎週「できたこと」「工夫したこと」「次回チャレンジしたいこと」などを簡潔に記入
・成長ログ(本人記録):SlackやNotionで「#成長メモ」として日々の小さな前進を記録
・トレーナーとのダブル振り返り:本人と指導者がそれぞれ記録し、違いを共有することで対話の質が上がる
・トレーナー向けフィードバック共有会:指導者同士で成功・失敗例を共有(例:「こんな言い回しが効果的だった」など)

 

 

一方で、人事としてこれらの体制を整えたり、トレーナーへの指導準備・実施の時間を確保することが難しい現状もあるかもしれません。また、トレーナーも自身の業務を抱えながら新人育成に取り組むため、負荷を上げられないという課題もあります。

 

そこで、トレーナーにそのまま使ってもらえるOJT支援ツールをご用意いたしましたので、段階的なOJT体制の見直しの第一歩としてぜひご活用ください。

 

 

 

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【そのまま使える!OJT支援ツールの内容】

①トレーナー向けガイドラインサンプル
②フィードバック観点リスト
③育成計画テンプレート
④OJTチェックリスト
⑤1on1振り返りシート

 

④まとめ

 

多くの企業が当たり前のように実施しているOJTですが、今あらためて求められているのは、OJTの「あり方」の見直しです。属人的・非計画的なOJTは、現代の新人・若手の成長意欲やキャリア不安に応えることができません。

 

「なぜこの仕事をするのか?」「自分は成長できているのか?」――こうした問いにしっかり応えるためには、“受け手視点”に立った育成設計が不可欠です。成長プロセスの可視化、情報の整備、内省を促す対話。この3つの視点をもとに、OJTを単なる「仕事を教える場」から「人を育てる場」へと進化させることが、若手の早期戦力化とエンゲージメント向上の鍵となるでしょう。

 

OJTを見直すことは、単に新人教育の改善にとどまらず、組織の人材育成力そのものを高めるチャンスでもあります。現場に根づく育成の仕組みを、一歩ずつ見直していきましょう。