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CISは、マーシア(1966)によって提唱された「自我同一性地位(アイデンティティ・ステータス)」の理論を参考にして作成されています。
マーシアは、アイデンティティの形成過程を見る基準として、
1)危機(Crisis):自分の生き方・働き方について選択・決定する際に、可能性について迷い苦悩した時期
2)傾倒(Commitment):「これこそ自分」という信念を持ち、それに基づいて行動していること
の2つを取り上げ、その組み合わせから4つの職業的アイデンティティの状態を定義しました。CISはそれらの判断基準を参考にし、次の4つのキャリア・アイデンティティの状態を定義しました。
1)Achieved:確立状態(自己投入<傾倒>の程度は高く、過去に苦悩した経験あり)
2)Straight:早期完了状態(自己投入<傾倒>の程度は高く、過去に苦悩した経験なし)
3)Seeking:積極探求状態(自己投入<傾倒>の程度は高く、将来像の探求に積極的)
4)Open:開放/拡散状態(自己投入<傾倒>の程度は低く、将来像の探求に消極的)
終身的な雇用慣行が崩れ、企業を取り巻く環境も急激に変化している現在、個人が自分のキャリアを自律的にデザインしていくことが非常に重要です。ただし、想定していた環境が変化することを前提に考えれば、アイデンティティを確立すること、すなわち「本当の自分は何か」「自分は何に興味があり、自分が本当にやりたいことは何か」という解をただ一つと考え、その探求にこだわりすぎるのは得策ではないように感じられます。ハーバード大学における永年の研究から、人生において上手なキャリアチェンジを行ってゆくためには、「アイデンティティは修正されていくもの」と考え、「本当の自己像を求めるのではなく、数多くの自己像に向けてまずは行動してみることが大切」(イバーラ:2003)と説くキャリア開発論も登場しています。
エゴ・アイデンティティを提唱したエリクソンも、「アイデンティティ形成は、その大半が生涯にわたって続く無意識的な発達過程である」(1959)と述べています。また、マーシアのその後の調査(大学生について行った6年後の追跡調査:1976)でも、アイデンティティの確立状態にあった者の5割以上が、他の状態に変化していたと報告されています。すなわち、アイデンティティの状態は常に変化する可能性を有しており、一時期に確立したアイデンティティも時間とともに変化・修正されていくものと考えるほうが妥当のようです。
変化・修正されてゆくアイデンティティを前提に考えた場合、キャリア自律において重要なのは、「職業人の役割を果たす自分をどう見るか、働く自分を人にどう伝えるか」(イバーラによるキャリア・アイデンティティの定義:2003)、周囲の状況が変化する都度、そのことを考え、納得の程度を自覚してゆく姿勢であると考えられます。 |
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