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[新Vol.2] 会津大学

グローバルな教育環境で、IT業界で通用する人材育成

2016/08/10  タグ:  

会津大学基礎DATA

本部所在地 福島県会津若松市
設置形態 公立
学部 コンピュータ理工学部
学生数 1031名(2016年5月1日現在)

大学は、最終学歴となる「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、様々な取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、「コンピュータ理工学部」の1学部1学科という独特の組織からなる会津大学で、岡嶐一学長にお話をうかがった。

1. 会津大学の特色

「会津大学のユニークさは統計量で見たほうが分かりやすいと思うのです」と岡嶐一学長は語り始めた。
「まず1つは、理系では外国人の教員が多い。現在、先生の40%が外国人の方です。言ってみれば、国際性が日本の中において確保されていると。
もう1つは、学生数で見て情報工学科として定員が240名。IT専門の学科として日本一大きいです。学科ですよ、学部や大学ではなくて。それから、学生や卒業生が立ち上げるベンチャーの数が多い。1000人以上の規模の大学で、在籍の定員に対する割合でいうと日本で一番大きい(2014年1月時点)」

教育上の特徴としては「英語力」「数学」「プログラミング」の重視がある。英語教育では、例えば学部生の卒論、大学院生の修士論文共に、全て英語で作成・発表することとなっている。数学の重視はアルゴリズム重視につながるものという。プログラミングに関しては、集中的に効率よく学べる体制を整えるとともに、学外のコンペやコンテストへの参加を奨励している。

2. ITから見た「学ぶと働くをつなぐ」

「ACM-ICPC国際大学対抗プログラミングコンテストには毎年参加していますが、今年は予選を勝ち抜いて世界大会に進みました。ほかに日本から世界大会に出たのは、東大、阪大、京大の3校。それに比べて会津大学は小さい大学です。それでもそこまで上れるのです」
「息を吸うようにプログラミングをこなす学生が結構いる」と岡学長は言う。そういう優秀な学生を入試の段階で見つける仕組みがあるのかと問うと、岡学長は「いや、見つけてはいないのですよ」と即答した。
「会津大学の入試偏差値はそれほど高くない。受験の価値観にもまれてなくて、入ってみたらいろいろな機会があって伸びるという子どもさんが多いですね」
初めから「息を吸うようにプログラミングする」ができるわけではない。「小さな成功経験」をすることで伸びていく。となると、大事なのは機会提供だ。大事ではあるが「非常に簡単なこと」と岡学長は言う。
「例えばプログラミングで、タスクがあって、それをゼロから作って、動かして、面白い結果を出すと。自分で全部ワンセット作ると、充実感がわくのですよ。他人から見ると本当につまらないことでも、当人にとっては大事な巨大な意味を持つような、小さな成功ですね」
いろいろな大学が「グローバル人材育成」を目標に掲げるが、学生にしてみれば遠すぎて、近場の目標が欲しくなる。ところがそのような目標が設定されていないことが少なくない。「どれだけやっても届かないところに目標があるように思うと、やる気がなくなるのですよ。だから低い小さな目標でもやってもらうといいですね」。

S_199_aizu
http://www.u-aizu.ac.jp/curriculum/characteristic/

ITに特化した大学から「働くと学ぶをつなぐ」というテーマを眺めると、何が見えてくるのだろうか。
「ITでは、アマチュアとプロの世界というのは結構違うのです。例えばベンチャーが立ち上げるIT企業は、全部とはいいませんが、ほとんどがアマチュア的な発想が多い。私などには、本当のプロの戦いではないように見えます。時代を革新するような技術、具体的に言うとアルゴリズムを新しく作り出したり、needを発見して、それが世界を席巻するところまでいかないと、本当の意味でプロ向きの働く高度さは獲得できないのではないか。われわれとしては学生さんに、そういう、時代を画する技術を身につけてほしい」
プロの本質は、技術としてのアルゴリズムと、デザイン。そしてもう1つ、ビジネスモデルとしてのマネタリングのシステムの確保だと言う。

3. 会社ではなく、業界で活躍する人材の育成

就職の傾向にも、会津大学らしさは表れている。
「基本的にIT系では、あまり大企業に対する魅力を感じないというところがありますね。われわれの世代では初めて聞くようなところが、それなりに給料が高かったり、仕事が面白かったりということで人気が高い」
開学以来の平均就職率は97%と高水準だが、IT系は、転職の活発な業界だ。「だから、モビリティが確保されているかどうかのほうが大きいんです。そうした中で、会津大学の卒業生が『IT会社で』ではなく『IT業界で』生き残っていくのが、われわれとして目指すところです」。

モビリティが高い業界でキャリアを積み上げていくには、「会社で」ではなく「業界で」通用する技術力に加えて、何らかの心構えが重要だろう。
「基本的には自分を訓練するというルーティンを持っているかどうか。過去にやったことで飯を食うのではなくて、現在のアクティビティで、飯を食ったり勉強をしたり、それが大事です。状態で食べず、行動で食べる。飯を食う仕事と同時に、次のステップのためのポテンシャルを高めることを日常的にやらなければいけない。技術革新や社会の変化に対応した自己研鑽が必要なのです」
自覚的にポテンシャルを上げる努力の必要性とその方法、飯の食い方の厳しさ等を、在学中にどう伝えていけるかも、大学におけるキャリア開発支援の一環と言えるだろう。これは組織的に行うことの難しい、属人的な領域だと岡学長は言う。そこで大きな役割を果たすのが、卒業生だ。
「例えば設計・スペックといった上流と、コーディングする下流と、両方必要だということ。スペックを決めるほうは、下流のコーディングを知らないとできないし、下のほうは上を見ないと駄目だと。そんな話を、花見に来たときなんかに卒業生がしてくれるのです」

「あと、卒論のときではなくて1年生から、研究室に入れと言っているのですよ。なぜかというと、1年生から4年生へ大きく成長する。上から見るとそんなに差が見えないですけど、1年生から見ると差がある。この差に早めに気づいてほしいのです。研究室に入って、部屋の片隅に机をもらってパソコンをもらって。上の先輩を見たり、耳学問したりしますよね。そうすると、効率的に最先端に行けるのですよ。基礎が大事なことがよく分かるようになりますね。
ただ、そういうことに対して当人が持っているある種の感受性がないとなかなかですね。これは大学に来る前の生育歴ですよ。頭がいいとか悪いとか、そういう世界ではないですね」

4. 今後の課題:研究の厚みが産業の展開を生む

今後の展望について、1つの目標として岡学長があげたのは、学部留学生の受け入れ拡大だ。そのためにベトナム、中国等と協定を結んでいる。
また、会津大学(学部)から大学院への進学率は30%。この数字を上げることがもう1つの目標と言える。
「国際会議や学会に行ってみますと、発表の7〜8割は、ドクターコースあるいはポスドクの学生です。そういう意味でも大学院、さらにはドクターコースに進む日本人学生も増やしたいですね。
残念なことに、有名な国際会議で日本人の名前はちらほらあるかないかの世界です。多いのは中国系ですね。あとはベトナムとかインドとかですね。
情報系でも、トラックで言うと2〜3周遅れています。これで日本がITだのAIだの言っても、勝てると私はとても思えない。それほど、大学以降の研究や勉強の厚みが圧倒的に少ない。博士後期課程での教育・研究も日本は甘いですね。
もちろん学会の発表は即産業とは結びつきませんけれども、産業の基盤になるポテンシャルを示している。情報は応用も基礎もないのですよ。基礎が即応用になるのです。研究の厚みを深めない限り、産業の展開は苦しい」

「基礎が即応用」は、「学ぶと働くが直結している」と言い換えることもできるだろうか。プロとアマチュアの違いが大きいというITの世界で、「学ぶ」においても「働く」においてもプロになれる人材をいかに輩出していくか。それが岡学長の示した課題と受け止めた。

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