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[新Vol.20] 東北芸術工科大学

社会課題をアート・デザインで解決する「超・美大」目指す

2019/07/03  タグ:  

東北芸術工科大学基礎DATA

本部所在地 山形県山形市
設置形態 私立
学部 芸術学部/デザイン工学部
学生数 2315名(2018年度)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、「絵がうまい子が入る大学ではない」「社会の問題を解決するのが美大です」「就職内定率は90%以上」等、美大の常識を次々と覆す東北芸術工科大学で、中山ダイスケ学長にお話をうかがった。

1.地元密着でクリエイティブセンスを生かす

(Photo:志鎌康平)

東北芸術工科大学(芸工大)が公設民営方式で山形市に開学したのは1992年。それから15年を経た2007 年、アーティスト・アートディレクターでもある中山ダイスケ学長がデザイン工学部教授として赴任したとき、チャンスを感じたのは、地元との密着度だった。「この街には、電通・博報堂も、ソニーやサントリーも、有名デザイン事務所もない。だからデザインやアートを勉強した人が、街場の事業所に入っていき、高度なデザイン技術やクリエイティブセンスが街に生かされていくのです」。
西日本出身で、東京やNYを拠点に活動し、東北には縁のなかった中山学長は、「東北の人って東北が大好き。ここで働きたいって人が本当に多い」と発見する。「東北から出ない人達がこの街場に着地して面白いことをするために、この芸術大学があると、街の人から信頼され期待されている。これは珍しいシーンで、新しいスタイルの美術大学になると思いました」。

中山学長が就任した2018年に自ら手がけた大学案内は『超・美大』というコンセプトブック。「美大を超えていこう」というそのコンセプトは、「美大教育のフォーマット」から抜け出すことを意味している。「絵がうまい子が入るのが美大だという概念すらありません。『社会の問題をアート・デザインを通じて解決する』、それが美大だと考えています」。
その一方で旧来の美大教育を評価している部分もある。「一般大学と違って、授業の大部分がフィールドワークで、それを補足するように座学がある。これは、今一番新しい学び方である『探求型学習』そのものです」。

2.美大ではない一般大学が併願校に

東北芸術工科大学のホームページには、「『想像力』と『創造力』を育み、確かな『就業力』へ」というページタイトルがついている。「就業力」をうたうのもまた、美大を超えている。「美大の教員というのは、言葉は悪いですが、芸術家やクリエイター崩れの人達。社会進出の方法を教えられる大人ではない」。企業経験のない一般大学の教員にもある程度当てはまりそうだが、就職希望者の少なさを誇らしげに語るような「浮世離れした美学」が、かつての芸工大を含む美大の特徴だと中山学長は言う。
「それが、僕のようにリアルな社会経験のあるデザイナー等が教員として入ってき始めて、もっとリアルなこと、社会が求めていることをしようと言い出した」。
「学ぶと働くをつなぐ」方向へとまず意識が変わってきたというより、社会とつながる教員の増加が、大学全体の行動を変え意識を変えてきたのだ。そうなれば、教員はもはや「芸術家崩れ」ではいられず、「入口・中身・出口」の3つの任務が課せられる。入口は高校生に対するプロモーション、中身は専門の教育、出口は学生を着実に社会に出すこと。教員採用の時点から「3つのうち何かしかできない人ではなく、野球でいえば内野ならどこでも守れる人」と基準は明確だ。


美大では珍しい「出口」への取組が始まる背景には、「入口」でのこんな出来事もあった。オープンキャンパスに来場した高校生に自由回答形式で志望先を尋ねたところ、他の美大ではなく、東北学院大、山形大、東北福祉大などがあがってきたのだ。「一般の大学がライバルだとわかったときに、美術部ばかりでなくいろんな学生が来てくれる、マーケットは大きいと感じました。それなら一般の大学を謙虚に見て、就職率も一般大学並みにしようと」。

3.就職率・進路決定率という数字で可視化

2009年頃から、社会とのつながりを就職率・進路決定率という数字で可視化する取組が始まった。
具体的にはまず、月1回だった学科会議を週1回にして、学生一人ひとりの進路活動状況をチェックしていく場にした。代表教授会も月1回から月2回に増やし、時間の大半を進路指導とキャリアサポート設計に当てた。「何々学科は20人中3人しか先週の就活イベントに出席させていないが、ほかにどんな指導をしているのか」といった、具体的なやりとりで、「しないのが当たり前」だった進路指導を、「するのが当たり前」にしていった。
「最初は特に芸術学部で、彫刻や絵画などの作家でもある教員の抵抗感が大きかった。『美大で就職率とか言いだしたら終わりだ』『また就活とか言うのか。美大でしょ、ここ』とか。
そういう先生達を、『あなた自身、大学教員という職を得て定期的な収入があるから、個展を年に2回開けるのでしょう。そのように、何かをしながら芸術を続ける方法を学生に教えてください』と説得して、だんだん意識が変わっていきました」。
1学年600人という規模だからこそのきめ細かさもある。「教員1人あたり学生3~4人、その一人ひとりの詳しい就職データが教員の手元にある。さらにそれを、LINEで学生本人と共有して、デザイン面接前にはデザインチェックしたり、『そこを受けるなら、日経のこの記事は読んでおいた方がいいよ』とかメッセージを送ったりします」。

成果が出るのに時間はかからなかった。「建築・環境デザイン学科、グラフィックデザイン学科、プロダクトデザイン学科あたりから、大手メーカーに毎年、デザイナー職で採用される。そういう成功事例を作って見せながらやっていきました。」
2013年には就職内定率(内定者数÷就職希望者数)が87.2%となり、目標をほぼ達成した。美大としては驚異的な数字だ。2019 年度は全学で97.1%。就職率(就職者数÷(卒業者数-大学院等進学者数))でみても、多くの美大が60~70%前後のところ、芸工大は88.3%(2016年度)と群を抜いている。

4.約7割が“クライアント”のいる授業に

しかし中山学長は、「出口」から改革が進んできたとは思っていないという。そして「自分が改革に貢献したとすれば、産学連携を積極的にやったこと」と続ける。つまり「中身」の改革だ。
「産学連携の依頼が年間約100本ある。それを活用して100%の授業にクライアントがいる状態にしようとしています。『こんなコンサートがあったとする。ポスターをイメージして作れ』という机上の空論ではなく、現実のコンサートを開く企業から依頼を受けて作る。今、7割くらいがそういう『ゴールのある授業』になっています」。
社会とのつながりの観点では、東日本大震災の現場体験も大きかったという。「被災地に支援に行った学生が活用したのは、若さだけではなく、アイデアでした。仮設住宅がみんな同じような家だからと、家族にインタビューして、家ごとに個性のある表札を作ったのとか、小さなことですけど、すごく喜ばれました」。学んできたクリエイティブが被災した人に喜ばれる経験をして、学生は大きく成長した。
「不謹慎かもしれないけれど、震災の時にものすごく、僕ら大学と現実の社会が接続できたと感じています」。

5.現実に動く事業を地域の大学間連携で進める

今後のビジョンについて中山学長は「現実に動く事業を作らないと継続しないと言う。その1つが街づくりへのより積極的な参画だ。「山形駅近くのある一帯の空き物件を一括で借りとって、リノベーションして学生寮にするプロジェクトです。数百人の学生が住む学生街をクリエイトして、その賑わいに憧れてここの大学に来る人を増やそう、と」。
もう1つはインキュベーションセンターの設立だ。「せっかく勉強したクリエイティブを活かせる仕事がここにないので、東京や仙台に嫌々行く卒業生がいるんです。『水がまずい』とか『ゴキブリがいる』とか、泣きのメールが毎月のように届く。そんな若者を山形で起業させたい。公的な資金も入れた基盤作りを考えています」。

「ここにしかない価値」を作り出そうとしているのですね、と中山学長に問うと、「かっこよく言うとそうですが、大学だけ、うちの法人だけが何かするのはやめました」と返ってきた。実際、上記の2事業も山形大との共同だ。「本学は、連携を提案しやすい大学だと思います。山形大とも、東北学院大とも、鶴岡の公益文科大とも組む。みんなで盛り上げないと、街自体が死んでしまう。そういうことを一所懸命取り組んでいるところです」。

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