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[新Vol.21] 東京医療保健大学

医療現場のニーズに応える多様な専門職を養成

2019/09/09  タグ:  

東京医療保健大学基礎DATA

本部所在地 東京都品川区
設置形態 私立
学部 医療保健学部/東が丘・立川看護学部/千葉看護学部/和歌山看護学部
学生数 2358名(2019年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、東京、千葉、和歌山で連携病院に隣接するマルチキャンパスを展開し、看護学科の学生数(入学定員)で日本最大の東京医療保健大学で、医療現場のニーズに応える多様な専門職教育について、木村哲学長、各学科の教員にお話をうかがった。

1. 日本最大の定員を持つ看護学科

2005年設立の東京医療保健大学は、現在4学部を擁し、看護学科の入学定員合計490名は看護学科の学生数として日本最大だ。設立時には1学部(医療保健学部)3学科(看護、医療栄養、医療情報)だったが、2010年に東が丘看護学部を新設、2014年には東が丘・立川看護学部に名称変更し定員増、2018年には千葉看護学部と和歌山看護学部を新設と発展してきた。

木村哲学長は「すべての学部が地域の中核的な医療機関と連携して設立され、成長してきました」と説明する。大学の下に病院が付属する一般的な関係性とは異なり、地域を代表する既存の総合病院とフラットに連携しているのが特徴だ。「医療は、病院だけでなく、ケアも含めた地域保健の一環として見ていく時代ですので、地域との密接な連携は、地域と医療職養成機関、双方にメリットがあると思います」(木村学長)。
東が丘・立川看護学部は、2020年度から「東が丘看護学部」「立川看護学部」の2学部となることが決まっており、東京医療保健大学はそれぞれに特色のある5つの看護学部・学科を持つことになる。

2. チーム医療を実践する「医療コラボレーション科目」

木村学長は、時代の要請である「チーム医療」をすべての学部・学科で重視しているという。「講義で学ぶだけでなく、違ったジャンルの知識や専門性を持つ人達と具体的に交流する場を体験する必要があります」。その実践を建学時から一貫して充実させているのが、医療保健学部だ。
学部共通科目には、チーム医療を実践できる力を身につける「医療コラボレーション教育」科目群がある。3学科の目指す人材像は専門性に応じて異なるが、「チーム医療に貢献できる人材」という共通性が表れているカリキュラムだ。

医療栄養学科の北島幸枝准教授は、栄養の専門職のチーム医療への関わりについてこう話す。「栄養士・管理栄養士は、献立作成をして栄養管理をするのが業務の主体ですが、医療の現場で働く場合、患者さんの前に出ることが増えています。一般的には患者さんとの対応は主に看護師が担いますので、そこで専門性を生かして何ができるのか、どう仲間づくりができるのかということを、重要視しています」。
医療情報学科で育成する人材像は、医療専門職ではなく、医療を理解できる情報の専門家という。瀬戸僚馬准教授はその背景について「ここ十数年で、看護師も管理栄養士も情報共有をするようになり、基盤となるシステム作りと、それを担う情報の専門家の重要度が増してきました」と話す。情報化社会では、医療保健を含む多くの仕事が、IT技術者の作る業務基盤の中で動いている。裏を返せば、もし情報の専門家が不適切なシステムを提供すれば、業務自体が不適切なものになりかねない。「医療という業務への理解と、情報という専門性とが、うまくつながったらいいなと思っています」(瀬戸准教授)。

3. 積極的にリーダーシップを取れる看護師を養成

コラボレーション科目群は必修で18単位あり、1年生から4年生まで3学科が同じカリキュラムで学ぶ。文字通り同じ教室で一緒に学ぶ時間としては、1年生前期の「キャリア教育I」の一部と4年生の「協働実践演習」が設定されている。
4年生の夏に行う「協働実践演習」は、3学科の混成チームで、チーム医療の現場をシミュレーションし、グループワークと成果発表を行う演習だ。看護と栄養が各5名、情報が2名というのが標準の編成で、1グループは12~13名になる。カリキュラム上では1単位だけなので小さく見えるが、授業15回分を5日間で集中して行う濃密な科目だ。
2018年の例では、「糖尿病を持つ生活者の支援」をテーマに、グループごとに掘り下げた。「3学科それぞれの専門知識を生かして意見を述べあい、1人の患者さんにどういう対応をしたらいいか、どういう検査計画がいいか、具体的に話し合う。生活の場を想定し、会社で糖尿病の社員をどうフォローしていくか、といった掘り下げ方もあります」(木村学長)。

医療保健学部看護学科の佐々木美奈子教授は、この演習には東京医療保健大学ならではの特徴があると語る。
「医学部のある大学では、医師がリーダーとして治療を行う際の協働をチーム医療の前提とすることが多いと思います。一方本学は、集まったメンバーで、対象者の健康・生活を考えながら、最良のケア展開を考える演習としています。異なる学問領域を学んできた学生たちが、フラットな関係で連携をとりながら、互いの力を引き出しあっていくのが特徴だと思っています」。
木村学長は医師の立場から、「チーム医療は、医者が中心ではダメなのです」と言う。「まずは患者さん、そして、患者さんとの接触の時間が一番長い看護職が中心になり、平等に議論できなければならない」。それを受けて佐々木教授も「積極的にリーダーシップを取っていける看護師の育成を意識しています」とし、「リーダーになる機会があること、他者と一緒に自分が考えなければと思えることは、協働実践演習の大きな強みの1つだと思っています」と言う。

4. 異なる考えと触れる機会が仕事に生きる

協働実践演習の実施上の困難としては、まず、時間割の設定があげられる。当初は4年生の4月に実施していたが、就職活動の時期だったり、同じ日に専門科目の授業があったりするために、学生が集中を欠くことがあり、夏休みを少し削って8月に「月曜から金曜まで、終日この演習のみ」という現在の形に落ち着いた。
また、実施を重ねて共通認識ができてくるまでは、教員の協働がスムーズでない面もあったという。

コラボレーション教育、なかでも協働実践演習の成果については、卒業生からさまざまな感想が聞かれている。医療栄養学科から病院に就職した卒業生は、「他職種と一緒に同じ現場で働くのがスムーズ、違和感なくできる」、医療情報学科の卒業生は「医療の仕事に対する理解を深められたとともに、コミュニケーションの大切さを学んだことが現在の仕事に生きている」といったものだ。
「協働とは何か、チームアプローチとは何かは、分かってはいても、現場でどうまとまるのか、つながるのか、実践してみて初めて分かることも多いでしょう。
途中で必ず学生たちはぶつかり合うので、そのなかで、自分とは異なる考え方に触れる貴重さ、違う分野・領域の人と協働する難しさといった言葉が出てくると思います」(木村学長)。
こうした学びは、病院以外に、企業や学校、行政などで専門職として働く際にも役立つものだろう。

5. ビジョンの実現に向けたレベルアップを目指す

今後の方向性について木村学長は、「建学の精神にも『寛容と温かみのある人間性と生命に対する畏敬の念を尊重する精神』とあります。世の中が多様化してきて、患者さんあるいはご家族の考え方もいろいろなので、それを寛容に受け止めて、温かい人間性で対応できる人材を育成していくことを大切にしていきます」と語る。
また、最初に開設した医療保健学部だけが「基幹学部」として伸びていくのではなく、他の学部・キャンパスもそれぞれの特徴を生かしつつ等しくレベルアップしていくよう、努力しているという。
2017年12月には、6つの柱からなる「東京医療保健大学ビジョン」を発表した。
「今、少子高齢化で、どちらかというと先が暗い展望を持つ人が多いと思いますが、そうではなく、多様な人々のwell-beingが達成できる、明るい未来の医療保健を創造しようと頑張っています」(木村学長)。

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