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[新Vol.22] 高崎商科大学

全国の商業高校と職業会計人養成で連携する小規模大学の取組

2019/11/06  タグ:  

高崎商科大学基礎DATA

本部所在地 群馬県高崎市
設置形態 私立
学部 商学部
学生数 742名(2019年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、「地方、小規模、新設」という3つの弱点を克服すべく取り組む高崎商科大学で、渕上勇次郎学長、鈴木洋文広報・入試室長にお話をうかがった。商業教育の高大連携「Haul-A(ホール・エー)プロジェクト」の協定校は、北海道から鹿児島まで全国30以上の商業高校に拡大している。

1.「自主・自立」精神は裁縫女学校が起源

間もなく開学20周年を迎える高崎商科大学は、大学としては「新興」に属する。しかしその建学の精神「自主・自立」には、1906年に佐藤裁縫女学校という女性向けの職業学校が創立されて以来の、長い歴史がある。
渕上勇次郎学長は「創立者の佐藤夕子先生には、女性の自立を促す意図がありました」と語る。「今で言う、就業力のもとになるところでしょうか。自分の力で就職するだけでなく、生涯にわたって自分の未来を拓き、社会・地域の未来も作り出していく、そんな人材の育成が、大学の使命となっています」。
1988年に高崎商科短期大学、2001年に高崎商科大学が開学。2017年には、商学部を経営学科と会計学科の2学科に改組して、現在に至っている。

2.「地方、小規模、新設」という3つの弱点の克服

大学及び短大の教育理念は、実学重視、人間尊重、未来創造、地域貢献、という4つのキーワードにまとめられている。渕上学長は、学生の就業力育成という観点から「教育の理念と建学の精神をつなぐ根本には、どんなに厳しい状況でも助け合う人間性がある。そういう人間性を培うことが就業力の根幹にあると思います」と言う。
また渕上学長は、消費財・投資財・公共財の3つがセットになっているのが教育であり、3つ全てをとことん追求する大学でなければ、本当の就業力は養成できないと言う。「教育の消費財とされる側面は、学生たちが納得し満足する授業の提供です。学費を払う立場からは、投資財の面が見えます。また身につけた力を使って地域や社会に貢献すると考えると、教育には公共財的側面もあると言えます」。

こうした教育上の課題に加え、大学経営上の問題意識もある。
「いちおう首都圏の群馬とはいえ、高崎はやはり地方。小規模の大学で、そして新設。この3つの弱点を突破していくために、何を徹底してどんな強みを作るか。学内で相談しながら、商業教育の高大連携授業がいいのではないかとなりました。地方における活性化と人材育成の拠点である商業高校とつながることが、ほかにない強みになると考えました」(渕上学長)。

3.全国の商業高校と連携したHaul-Aプロジェクト

高崎商科大学が全国38の商業高校及び3 団体と協定を結ぶHaul-A(ホール・エー : High school anduniversity link for Accounting)プロジェクトは、高校3年間と大学4年間の合計7年間を通じて、地域社会で活躍する職業会計人(税理士や公認会計士、企業会計人など)を育てる高大連携プログラムだ。2013年度にスタートし、今年度は第7期となる。

高校在学中の日商簿記検定1級合格を目指して参加する協定校の生徒は、費用を負担することなく、Web講義の配信、各地域でのセミナー、単元ごとの答案練習、段階的に課されるテスト、全国から高崎商大に集まっての夏合宿など、充実した教育環境のもとで簿記・会計を学ぶ。
続く大学4年間には、学内Wスクール「高崎商科大学 経理研究所」の会計プロフェッショナルコースが用意されている。日商簿記1級または2級を取得済みの優秀な生徒は、Haul-A特待生入試を活用して、4年間授業料免除などの優遇を受けることもできる。

Haul-Aの構築に携わった鈴木洋文広報・入試室長はこのプロジェクトのポイントを、高大だけでなく公認会計士集団が連携に加わって、カリキュラム設計及び指導に当たっていることと明かす。
「公認会計士で、長らく中央大学経理研究所で簿記教育に当たってきた小島一富士先生を特任教授に迎えました。人間力を磨き、地域に貢献できる人材を育てる、表面上の資格対策にとどまらない指導をして頂いています。また、現役の公認会計士の授業は、企業の経営や監査業務の現場感覚が伝わってきて本当に面白く、理解の深まり方がまったく違います」(鈴木室長)。会計への深い理解は、高い合格率という成果にもつながるものだ。

実は当初、民間の資格予備校と連携して課外プログラムを設定したが、成果が上がらず短期間で断念。その後、県立岐阜商業高校が、大卒レベルとされる日商簿記1級に毎年20人以上合格という成果を上げていることを知った鈴木室長は、岐阜商を訪問してアドバイスを受け、さらには岐阜商が連携していた中央大学経理研究所の小島氏を紹介された経緯があった。
全国の商業高校との連携というHaul-Aの構想が固まると、岐阜商を皮切りに協定校を次々と増やしていった。「スーパー商業高校と名高い岐阜商さんが『うちはやるぞ』と言ってくださったことは大きな後押しでした」(鈴木室長)。

4.日商簿記検定1級、公認会計士現役合格の成果

プロジェクトの成果として、日商簿記検定1級は毎年15名前後の合格者を出している。2級では、会計学科2年次の資格保有率が75.6%に達し、卒業までにはほとんどが最低2級を取得する見通しだ。公認会計士試験では、2015~2018 年度の4 年連続で現役学生による合格者を輩出。累積合格者数は4年間で13人となった。
さらに、合否だけでなく、Haul-Aによって難関資格の取得時期が早まることの効果も大きいという。「例えば、高校で会計士試験の短答式、大学1年次で論文式に合格すると、大学在学中に実務経験が積める。4年になる頃には、正式に公認会計士として登録することも可能になる。通常だと、30代か20代後半でないとできなかったものが大学生ででき、早い段階から活躍できます」(鈴木室長)。

学生募集にも好影響が出ている。北海道から鹿児島まで全国のHaul-A協定校から、優秀な生徒が入学してくる。協定校以外でも、資格取得を視野に入れた志望者が目立ち始めているという。そうした生徒にとって、高崎商科大学が「地方の、小規模な、新興の」大学であることは、まったくマイナスではないのだろう。

5.実績と信頼をベースにブランド構築を目指す

渕上学長は今後の方向性について「一言で言うと、ブランド大学になりたい」と語る。「今は、高崎商科大学はブランド化していない。というより、大学名自体があまり浸透していない。それで最近はTUC(TakasakiUniversity of Commerce)という名称も使うようにしています。2021年に迎える大学20周年記念の柱として『toTUC計画』も進行中です」。
会計学科ではHaul-Aプロジェクト、経営学科では「3.5本の矢プロジェクト」と名付けた産学連携授業を、Adobe、楽天、電通といった世界的な大企業と連携して進めている。「地元の中堅企業に就職させることは、地元貢献の学校として当然ですが、それにとどまらず全国的にも注目して頂ける大学になることも、この大学に対する信頼性を醸成するうえで大きいと思います」(渕上学長)。

卒業生の活躍が報じられることも、ブランド化の一助となるだろう。2019年4月には、短大1期生の男性がJASDAQ上場企業の社長に就任。学部卒でも大学院卒でもなく、短期大学卒の社長としても話題となった。
「教育の成果はすぐには出ないとよく言われますが、すぐの成果も欲しいし、数年たっても欲しい。卒業から30年後に社長というふうに長い時間がかかる場合もありますが、社会で活躍する人材を出していきたい。これから20周年を迎え、その先を考えるとき励みになる、いいニュースだったと思います」(渕上学長)。

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