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[新Vol.25] 崇城大学

「意欲を引き出す教育」をモットーに体験型教育を徹底

2020/05/14  タグ:  

崇城大学基礎DATA

本部所在地 熊本県熊本市
設置形態 私立
学部 工学部/生物生命学部/情報学部/薬学部/芸術学部
学生数 3676名(2019年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、崇城(そうじょう)大学の「何ができるようになったか」を問う実学主義教育と、「意欲を引き出す教育」について、中山峰男学長にお話をうかがった。

1. デザイン、生命、情報で貫く実学主義

崇城大学は、1991年の大学設置基準改正(大綱化)以降、「デザイン」「生命」「情報」の3つのキーワードを軸に数回の改組を行い、現在は工学部、生物生命学部、情報学部、薬学部、芸術学部の5学部体制をとる。熊本工業大学からの校名変更は芸術学部を開設した2000年だ。
中山峰男学長は、沿革に由来する教育理念についてこう語る。「創立は戦後間もない1949年、電気技術者の育成が目的でした。従ってその当時から、『何を学んだか』ではなく、『何ができるようになったか』を問う『実学主義』を基本的な教育理念としています」。
象徴的なのが、工学部宇宙航空システム工学科だ。パイロット養成コースは、国内の大学で唯一、飛行機も人材も自前で揃えて、パイロットを育成している。「1987年に熊本空港に直結する空港キャンパスを設けましたが、パイロット育成が目的ではありませんでした。空力や流体力学は、黒板に数式を書いて抽象的に教えるより、学生を飛行機に乗せて体感させると非常に理解が早かった。それで、実学教育に飛行機が必要だと考えたのです」。

2. 主体性を引き出すための教育改革

中山学長の課題意識は、学生の受け身の姿勢・考え方だ。「若者が新しい時代を作っていくには、受け身の学生を、自分から求めていく、アグレッシブな学生へと変えていかないといけないと思っています。
例えば、明治時代を作ったのは、江戸時代の価値観に慣らされてない若い人たちでした。その一人である渋沢栄一が、1867年のパリ万博にお付きで行き、ヨーロッパの近代国家を見て日本との違いに愕然としたのは20代後半でした。帰国して、『銀行』をはじめ江戸時代にはなかった数々の制度や会社を作っていきますが、それは若いからできたのだろうと思います」。
2011年にスタートした教育改革SEIP-I(SOJO Educational Innovation Project: シープワン)でもまず、学生の夢や志を育む狙いで「チューター制」を入れた。教員1人が5人の学生を、入学から卒業まで4年間、一貫して受け持つ。「1人ずつと対話を重ね、『君の夢は何?』といったことを問いかけながら、学生の自立を促し主体性を引き出していきます」。

3. SEIP-Iによる情報教育、英語教育強化

SEIP-Iの主な取組には、情報・英語・起業の3分野がある。
情報教育では、2012年度からノートパソコンの所有を学生個人に義務づけ、購入資金に充てられるよう、授業料を10万円値下げした。そのうえで、「全学部全学科の学生を情報が活用できる人材に」という方向性のもと、どういうスキルを身につけさせるかを学科ごとに決めた。「パソコンを活用する専門科目の授業が1学科に10科目ほどあり、その中で情報教育を行う形になっています」。

英語教育では、神田外語大学と大学間協定を結び、そのノウハウを導入した英語学習施設SILC(SOJO International Learning Center: シルク)を2010年秋にオープンした。2011年度からは、必修の英語科目も「30人以下のクラス編成で週に2コマを2年間、ネイティブスピーカーの講師」という神田外大のプログラムを入れて、SILCが行っている。SILC内には、自律学修センターSALC(Self-Access Learning Center: サルク)を設けてネイティブスピーカーの教員が常駐し、学生は授業外でも自分のレベルに合わせた学習ができる。
さらに、海外の英語教育プログラムや提携大学などに学生を積極的に送り出している。「2019年度の実績は267名。ほとんどが短期ですが、本学の規模にしては多いと思います。帰ってくるとほとんどの学生がもう1回行きたいと言い、海外へのハードルが大きく下がると感じます。そこで初めて、実践的なSILCの教育が活きてくると実感しています」。

4. 成果が出始めた起業家育成プログラム

産業界には、ベンチャー起業論は教育の場で教えられるものではない、といった意見が根強くあるが、中山学長は、「教えるとか教えないとかではなく、本人がやる気を出すか出さないかの問題。意欲を引き出すのがアントレプレナーシップ教育ではないかと思います」と言う。
2014年度に始まった「起業家育成プログラム」は、「講義科目」「部活動」「学生起業支援」の3本柱となっている。
まず全学部全学科の1・2年生が選択可の起業家育成の科目を4科目設けた。次に、学生が日常的に実践するための公認サークル「起業部」(SOJO Ventures)を2014年10月に創部。最後に、学生の起業を資金面で支援するSOJOスタートアップラボ(株)という投資会社を、大学の100%出資で2017年1月に立ち上げた。
SOJOスタートアップラボは現在、学生ベンチャー2社に出資している。そのうちの1社が、起業部出身の古賀碧さんらが2018年4月に創業した(株)Ciamo(シアモ)だ。古賀さんのチームは在学中に2016年度「キャンパスベンチャーグランプリ」全国大会でテクノロジー部門大賞・文部科学大臣賞を受賞した。これをもとに、古賀さんが代表取締役社長となって起業、役員・社員はSOJO Venturesの仲間たちだ。
このほかにも、各種のビジネスプランコンテストに応募する学生は多く、入賞の成果も次々と上がっている。

5. 教育改革を発展させたSEIP-II

SEIP-Iの取組を継続しながら、2019年度からはSEIP-IIも実施されている。
その一環である1年次前期必修の「SOJO基礎I」は、受け身の学生を主体的に変えることが目的の一つだ。自分の生活状況と、新聞から自分で選んだニュースについての感想を、eポートフォリオ「今週の活動とトップニュース」のシートに記入、毎週提出する。
もう一つの目的が、課題に取り組む基本的な方法を学ぶことで、「各学科ホームページの改善案作成」といったテーマにチームで取り組む。
「1年次後期の『SOJO 基礎II』や2年次の『キャリアプレコーオプ』では、企業からもらう課題に学生が小グループで取り組みます。3年生は2020年度から、学科の研究も含んだ形で課題解決に取り組ませる予定です。これらが、自分が将来何をしたいか考える一つの方法につながっていけばと考えています」。

6. 学生の心に火をつける教育

崇城大学では、SEIP-I・SEIP-IIの取組全体を「学生の心に火をつける教育」としている。
中山学長は「学生はみんな、基本的には意欲を持っていると思います。ただ、今までは意欲を出したくなるような場もなければ、教育の中で発現させようとする場面もなかった」と言い、2016年の熊本地震の経験を語る。
「4月14日、16日に地震があってすぐ閉講になりました。大半の学生が震災の被害を受けており、みんな落ち込んでいるだろうと思っていましたが、連休後に授業を再開したとき、みんな笑顔で現れたのです。実は震災を通じて、避難所などで高齢者がなかなか活動できない中、若い人が活躍し、ありがとうと言われる。それがどんなに価値あることかと体験して、自分の存在感を認識していたのです。こういうことが、若い人の前向きの姿勢を作り出す大きな要因になると思いました」。
そこで2016年に始めたのが、「笑顔と感謝の表彰制度」だ。年4回、年間合計で700人強の学生が、他薦または自薦で表彰される。「国際学会で発表、スポーツの大会で上位入賞、ボランティアで活躍など、何らかの経験をして、『一歩前に出た』学生がそれだけいる。学生の意欲を引き出すための一つの仕掛けとして、積み重ねていこうと考えています」。

中山学長は「今後の崇城大学がいちばんするべきこと」を、「学生一人ひとりが持っている才能を大学の中で引き出す、あるいは本人に自覚してもらうこと」と語る。
「才能というのは人それぞれ違う。つまり、その人の個性です。これからの日本には、一人ひとりの個性を認識して導き出し、多様なスペシャリストをたくさん育てていくことが必要ではないかという気がしています。
幸いにして本学では、先生方がしっかりと学生に向き合ってくれています。学生たちも自分のやりたい仕事を見つけてくれています。そういう教育を教職員が一丸となって続けていきたいと思っています」。

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