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学ぶと働くをつなぐ授業拝見[Clip Number 011]大阪工業大学

大阪工業大学工学部機械工学科発展コース3年次必修科目「エンジニアリングプラクティス」

2020/07/22  タグ:  

大阪工業大学工学部機械工学科の「エンジニアリングプラクティス」は、発展コース3年次の必修授業だ。少人数のグループで1年間をかけて与えられた課題の解決に取り組むPBL科目だが、特徴的なのは、課題を解決する成果物が「機械」であり、その性能を競い合うということだ。機械工学科のほぼすべての教員が自らの専門分野で指導するほか、産業界での経験豊富な実務家教員も加わり、機械工学科での「学ぶ」を、機械工学技術者として「働く」ことにつなげることを見据えたカリキュラム設計がなされている。

ものづくりの全工程を体験する、工学系ならではのPBL科目

大阪工業大学工学部機械工学科の「エンジニアリングプラクティス」では、グループごとに与えられた課題に対して1つの機械を作り上げ、その過程で、起案、構想、設計、作図、加工、組立、試運転、評価といった製品開発・製造の一連の流れを体験する。予算は各班4万円(2020年度)と決められており、予算と工程も学生が自分たちで管理しながら進める。
2008年にスタートしたこの創造的総合演習科目は、機械工学科発展コースの必修科目であると同時に、「看板科目」でもある。2020年度は6課題が用意され、約80名の学生が6~7名からなる13グループに分かれて取り組んでいる。

課題設定とグループ編成は、事前に教員側が行う。第1回の授業で班分けが発表され、課題の割り当ても決定。グループごとに希望を提出し、人気の課題に集中した場合は「じゃんけん」だ。
機械工学科の教員と学外の企業技術者(およびそのOB)を合わせて16名、「ものづくりセンター(愛称モノラボ)」の技術職員(前期3名、後期9名)が指導にあたる。直接的な課題指導の他、プロジェクトを進めるうえで必要な、機構学、製図学、CAD使用方法に関する特別講義、工作機械を使用するにあたっての安全講習も設定されている。


課題は右下の囲みに示されている6種。電気自動車やバイクは例年人気の課題だという


「エンジニアリングプラクティス」シラバス

6月下旬、大学を訪問して授業を拝見した。また、現在大学院2年生の藤田悠希さんに、2017年度にこの授業を受講したときの経験や、それで得たことについてインタビューした。

正規の授業時間として設定されている火曜日の1・2時限は、教員の居室(研究室)や、組立加工室、図書館の一角など、課題の種類や進行状況に応じて、さまざまな場所に学生が集まり、教員が指導している。この時期は多くのグループが同じ課題の前年の成果物を研究しているという。「パイプメンテナンスロボット」を指導していた牛田俊教授は「学生たちは、今までにあったものを作ろうとはしませんね。自分たちなりにまったく新しいものを作りたいという気持ちが強いようです」と言う。これは技術者としての基本的なマインドといえるだろう。


既存の参考部品と図面の素案とを行ったり来たりしながら改良を検討する「パイプメンテナンスロボット」グループの学生たち

あるグループでは、2年次までの授業の教科書『材料力学と材料強度学』を片手に図面を検討する場面が見られた。上辻靖智教授・学科長は、この書籍の執筆者の1人でもあり「こうして、教科書で学んだ『アレ』が大事だったんだ、ということに初めて気づくんですね」と、皮肉を交えながらもほほえましく見守っていた。


教科書の知識が「役に立つ」ことを痛感している?学生たち

教え合い・学び合いが基礎力を伸ばす

「エンジニアリングプラクティス」の授業運営のポイントの1つはまずグループ編成で、「学生プロジェクト活動に参加した学生を必ず1人含めている」と上辻学科長は説明する。「学生プロジェクト」は、人力飛行機、ソーラーカーなどのものづくりに取り組む学科不問の課外活動で、機械工学科からも多くの学生が参加している。
2017年度に「スチール缶分離マシン」の課題に取り組んだ藤田さんは、こんなエピソードを語っている。「僕は旋盤やフライス盤を扱えたけれど、慣れていないメンバーもいた。それで、作るのが難しい部品を複数作るときに、1つめを僕が作るところを見てもらいながら説明して、『じゃあ後は頼むけど、何かあったら足元のスイッチ踏んだら止まるから』『もしわからないことがあったら、僕らを呼ぶか先生に聞いて』などと話をした」。
技術レベルや経験値などに差異のある学生同士をあえて同じグループにすることで、グループ内での教え合い・学び合いが促進されていることがわかる。

もう1つポイントと思われるのが、工学系の「ものづくりPBL」ならではの専門性の高い指導だ。例えば「2ストロークエンジンバイク」の課題は内燃機関研究室の桑原一成教授、振動・音響研究室の吉田準史教授が担当というふうに、自身の「本職」で指導している。「モノラボ」の専門技術職員や、企業の現場で経験豊富な学外の指導者も同様に、専門的知識・技術の裏付けを持っている。


低振動型バイクの設計に必要な情報を得るため、購入したミニチュアバイクを分解する学生(左・中)と、指導にあたる吉田準史教授(右)。

ここで重要なのは、専門性の高い指導でありつつ、一方的な指導ではないことだ。例えば藤田さんと、指導を担当した羽賀俊雄教授との間には、こんなやりとりがあった。「装置の図面を提出したとき、『ここはなんでこの角度なん? 根拠は?』と聞かれたけど、答えられなくて。3D CAD の図面上で角度を変えてみて検討はしていたけど、結局は『このぐらいでええんちゃうか』と勘で決めていて、データに基づいたものではなかったんで」。
指導教員は専門的知識の裏付けを持ちつつ、「その角度は最適ではない」とすぐに否定するのではなく、「なんで?」と質問の形をとって学生に考えさせている。技術を熟知しているからこその、適切なタイミングで最小限の情報を提供して解を「発見させる」指導が、基礎力のうち「課題発見力」を伸長させると考えられる。

専門性に裏付けられた指導で「統率力」も伸長か

発展コースの学生の基礎力(ジェネリックスキル)の伸長をPROGテストで測定してみると、「対課題基礎力の課題発見力と実践力の伸び幅が大きい」「対人基礎力の統率力の伸び幅が大きい」といった特徴があった。統率力の伸びは小さく、グラフでは有意性が読み取れないが、一般的に工学系の学部で伸びやすいとされる課題発見力や実践力とは異なり、工学系では伸長した実績事例が少ないので、特徴としてあげる。

このデータは、1年次の春と3年次の秋という実施時期から、「エンジニアリングプラクティス」のみの成果を測ったものとは言えない。そこで、どんな学びが基礎力を伸長させるかの分析の手掛かりの1つとして、学生への「成長要因インタビュー調査」を行ったところ、成長のきっかけとして「学生プロジェクト」、授業では「エンジニアリングプラクティス」があがることが多く、これらの寄与が大きいことが分かった。
「成長要因インタビュー調査」では、インタビュアーがPROGテストのスコアが伸びている項目について、関連する設問を1つひとつ取り上げて質問していく。例えば「統率力」に関連する設問を使い、「3年生のとき『周りに反対に合うとしても、自分が正しいと思った意見は率直に主張する』と回答されています。そのようになったのは、いつ頃、何がきっかけだと思いますか」という聞き方で「統率力を伸長させた要因」を探っていく。

前出の藤田さんはこの「成長要因インタビュー」(2017年12月)にも協力いただいており、この問いに対しては、上手くいきそうにない設計を見たときに、「絶対、回らへんと思ったけど、いきなり『これ、あかんやろ』とか言わずに、『この部分、ちょっと回らんくない?』とか、一応、最初に聞いたり」したと語っている。藤田さんに「その角度はダメ」と否定せず、「なんでこの角度」と尋ねた羽賀教授の指導との類似性が感じられる行動だ。
モデル社会人と近しい判断や行動ができるかどうかで基礎力(ジェネリックスキル)のレベルを判定するPROGの構造を踏まえて、先の指導を見直すと、専門性の裏付けのある教員が、モデル社会人として、「他者の意見に耳を傾けたり、異なる意見を調整し、交渉・説得をして合意を形成する」力である統率力を示した。グループ内では知識・技術レベルが比較的高い(専門性の裏付けのある)藤田さんは、教員の判断や行動を見習い、まねることで、モデル社会人に近しい、統率力のある行動ができるようになった。そんな成長プロセスが推測できる。
工学系PBLの場合、適切な技術的指導が「対課題基礎力」だけでなく、統率力などの「対人基礎力」を高める効果もあるという仮説が成り立ちそうだ。再び藤田さんを例にとれば、「課題発見力」は1年次のレベル1から3年次でレベル7へ、「統率力」もレベル1からレベル3へと伸長している。

「エンジニアリングプラクティス」は1・2年次で学んだ機械工学を実践する場であり、その専門性を社会に出た後で発揮することを強く意識した演習の場と位置づけられている。企業での経験の豊富な学外指導者を迎えているのも、「企業の現場で通用する専門性・技術力」と同時に「社会人基礎力」を高める意図があり、その意図に適った授業になっているといえるだろう。

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