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[新Vol. 51]秋田県立大学
地域の課題をベースにして、新しいサイエンスを起こす
2026/04/14 タグ: 事例紹介
秋田県立大学基礎DATA
本部所在地 秋田県秋田市
設置形態 県立
学部 システム科学技術学部/生物資源科学部
学生数 1666名(2025年5月現在)
社会(企業)が学生(新入社員)に求める能力レベルが高まる傾向にあるなか、大学が取り組むべき教学改革は、学生(学修者)本人に対しては学修成果を可視化し、社会に対しては卒業時質保証を行うことだろう。その取組があってこそ、学生は最終学歴となる「学びのゴール」に到達すると同時に、「働くことのスタート」に立つことができるのだ。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開してきた(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。今回は、産学官連携の「キャップストーンプログラム」で学生と地元企業とを同時に変革し、大きな方向性としては「地域の課題をベースにした新たなサイエンス」の創造を目指す秋田県立大学で、福田裕穂学長(兼理事長)にお話をうかがった。
大学教育の総仕上げ「キャップストーンプログラム」
秋田県立大学では2024年、システム科学技術学部の必修科目として「キャップストーンプログラム」を開始した。企業や自治体の課題解決に学生がグループワークで取り組む産学官連携のプログラムだ。初年度の2024年は3学科で開始し、2025年からシステム科学技術学部の全5学科(4学科必修、1学科選択)に広げた。1学年約250人が、1グループ5人前後の約50グループに分かれて活動する。
キャップストーンとは「ピラミッドの頂上に最後に載せる石」の意で、キャップストーンプログラムは「大学教育の総仕上げ」と位置づけられる。秋田県立大学では実施時期が3年生の10月から2月までの約半年間(最終発表会は4年生の5月)なので、ピラミッドの頂上に載るのは、キャップストーンと4年生の卒業研究を合わせたものとなる。

一般的なPBL(課題解決型学習)との違いについて福田裕穂学長(兼理事長)は、「キャップストーンでは、大きな課題は与えられるが、課題に向かう切り口は自由。自分で考える部分が多いのかな」と言い、こうたとえる。「PBLやインターンシップはお料理番組。材料が用意されていて、ある時間の中でそれをどうやって組み合わせるかというもの」。料理番組ならゴールは「出来上がり」だが、キャップストーンはそうではないという。「半年という期間ではだいたい解決できません。だから成果ではなくプロセスで評価する」。
このプログラムの重要な意義の1つが「学生が社会での実際の課題に関わること」だと福田学長は言う。解にいかに早く近づくかという受験競争をしてきた学生にとって、解が存在するかどうかも不確かな社会課題に取り組むことは、これまでにない学びとなる。例えば参加企業の1つである秋田魁新報社は、「今新聞を読む人が減っているのはどうしてか? 若い人が新聞を読むようになるにはどうすればいい?」といった課題を設定する。これは新聞社が本当に知りたいこと、つまり「答えが用意されていない課題」だ。
地元企業の変革を伴う地域活性化
産学が連携するこのプログラムには、地元企業の変革を促す意義もある。「学生と、自社開発があまりできていない地元企業とを、一体として変えていかないと、地域が活性化しないと思いました」(福田学長)。
その意義が分かりやすく表れるのが、参加全企業の担当者、学生、教員が一堂に会して行われる最終発表会だ。企業がほかのグループの発表を見ることで、課題解決やそこに至るプロセスについてのヒントが得られる。こうした企業同士の刺激の与えあいをより活発にするため、県外企業の参加も積極的に募っている。「地元の企業にとって、県外の企業が横の並びで活動していることは大事だと思います」と福田学長は言う。
先端知の人材を地元自らが育てる
福田学長は「地域との近さ」を特徴とする秋田県立大学の大きな方向性を、「地域の課題をベースにして、新しいサイエンスを起こせるか」だと言う。それが本当の意味での地域活性化だと考えるからだ。
「地域と近い」という大学の強みは「現場がある」と言い換えられる。現場の近くで大学が具体的に考え、考えたことをすぐに民間の現場に落としこめるのだ。そして福田学長はこうも言う。「現場のニーズを見ると、大学で考えているのとはだいぶ違うものがあるような気がしている。そこに新たな原理原則を見つければ、世界に通用する新しいサイエンスになる」。現場のある秋田県立大学だからこそ、この「新たなサイエンス」が作れるし、作りたいのだと言う。
地域活性化の観点では、博士人材の育成も必要だ。今の博士課程は大都市の有力大学に集中しがちで、秋田から例えば東大・京大の大学院に進めば、ほとんど秋田に帰ってこないのが現実だ。「『頭脳は全部大都市、地域は単なる手足』になってしまうのを避けるには、先端知の人材を地元で自ら育てるしかない」(福田学長)。
また、地元で学位を取った人材も、県内企業に就職口がなければ流出してしまうため、企業への働きかけも重要だ。「地方の中小企業でもドクターは必要」と考える県内企業と協働して、学び直しの社会人向け博士プログラムを作る企画も進んでいる。
大学院も含めた全学的な改革へ
今後の展望はまず、キャップストーンプログラムを生物資源科学部にも展開し、全学での実施とすることが計画されている。2025年には農学系で、農業課題に取り組む必修科目の一部として小規模に試行した。「ゆくゆくは生命系を含め多くの学生を対象とし、学科によっては必修にしたいと考えています」(福田学長)。
大学院では、「未来グリーン・デジタルサイエンス学環」を2027年4月に開設する。「農学系の『グリーン』と工学系の『デジタル』を統合した特徴ある大学院で、新しい人材を生み出す。これを筆頭に、新たな社会課題に対応できるような全学の改革を進めていきます」(福田学長)。



