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「選ばれる大学」の新しい基準
「新たな認証評価」を見据えた社会接続のあり方
2026/06/08 タグ: 編集部より
現在の大学認証評価制度は制度導入から20年が経過。大学進学者が減少するなか、教育の質を適切に評価する仕組みの重要性がますます大きくなっていることを受けて、文部科学省では2030年度開始を目途に「教育・学習の質向上に向けた新たな評価」の設計が進んでいる。学部別に段階別評価が実施されると、受験生・保護者・高校現場の大学・学部選択の軸が、偏差値から「新たな評価」に変わるという予測が大きな話題となっている。一方で、例えば企業の新卒採用の軸も「新たな評価」に変わっていくのかについてはあまり議論が活発ではない。ここでは、「学ぶと働くをつなぐ」機関としての大学に、「新たな評価」がどのように影響するかという観点で、教学マネジメントや質保証に詳しい荒木俊博氏(札幌大学准教授)に寄稿いただいた。
【寄稿】荒木俊博(札幌大学 地域共創教育機構 准教授/学長政策担当部長)
1 はじめに
少子化時代を迎え、高等教育機関は厳しい受験生獲得競争にさらされ、さらに毎年春から夏にかけて高等教育機関の募集停止のニュースを聞くようになっている。そんな中、文部科学省中央教育審議会の「知の総和答申」では、「知の総和」として数×能力の向上を必須であるとし、高等教育政策の目的や重視すべき観点を示している。特に重視すべき観点は、①教育研究の観点、②学生への支援の観点、③機関の運営の観点、④社会の中における機関の観点(文部科学省中央教育審議会, 2025)が挙げられている。
また国の高等教育政策の文書からは「チャレンジ」「連携・統合」「縮小・撤退」という3つの方向性が示され、政策の語り口は穏やかであるが、改革が間に合わない大学には市場からの退出を促す強いメッセージが読み取れる。これと並行して、認証評価制度も大きな曲がり角に来ている。文部科学省では2030年度開始を目途に「教育・学習の質向上に向けた新たな評価」の設計が進んでいる。注目すべきは、評価が大学全体の単位から学部・学科・研究科別へ重点を移すこと、そして段階別評価が導入されようとしている点である。学部別に段階別評価が実施されると、偏差値に頼らない大学・学部選択の推進が期待される一方で、評価が厳しい場合は経営的に大きな打撃を受けることになろう。そうならないためにも大学側は、今一度大学の役割の再検討・再認識をしていく必要がある。本稿はその1つの整理として、学生の「社会とつながる学部」という視点から、これからの大学を考えてみたい。
2 社会とつながるとは何か
「社会とつながる」という言葉は、最近の大学パンフレットや高校での進路指導でも頻繁に登場するようになった。ただ、この言葉の意味するところが大学ごとにかなり違う可能性がある。例えば
1. 地域につながる科目を1つでも設置すれば良い
2. 社会貢献や地域貢献をしていれば良い
3. 就職率が高ければ社会とつながっていると言える
と考えていることはないだろうか。もう少し詳しく見てみよう。
1つ目はPBLやインターンシップを導入しているといったものである。例えば4年間の履修単位が124単位の中で、PBLで1科目2単位だけ履修した場合と、1年次から4年次まで段階的に実社会との接点が積み上がっていく学部で同列に語れるだろうか。社会とつながる学部の判断は、目玉科目の有無ではなく、カリキュラム全体の構造で問わなければならない。
2つ目は、大学にはボランティアやイベント参画への外部からの要望があるなどして、正課内外において関わる機会が設けられている大学は多いだろう。ここで重要なのは学生が地域に出ていって何かをした、という活動レベルの話ではなく、その経験を通じて何を学んだか、ディプロマ・ポリシーに掲げた力がどう育ったかが重要である。
3つ目は就職率はいわば「出口」の総量を示すだけの数字である。卒業生がどんな力を持って社会に出ていったか、卒業後にその力をどう発揮しているか、という質的な側面に踏み込まなければ判断できない。そのためには、卒業生調査や就職先調査など量的あるいは質的な調査が必要であろう。
ここからは「社会とつながる」とはどのようなことを指すのだろうか。いくつかの視点を挙げてみたい。
● 3つの方針が社会とつながっている
● 継続的に社会とつながっている
● 学修成果を含め、情報公開を行っている
3つの方針はどのように策定あるいは点検・評価をしているだろうか。教員の教えたいことだけをまとめたDPやCPにしていないだろうか。3つの方針は教学マネジメントや内部質保証において重要であり、組織的な教育の出発点である。特に学位授与の方針であるDPは、大学内外の様々なステークホルダーの声を聞いて策定あるいは点検・評価をしていく必要がある。そのためには外部評価などで産業界や行政などの声を聞いて、社会から求められる人材像も鑑みたDPの策定・改訂あるいは点検・評価が不可欠であろう。
2つ目は教育課程の中でどのような社会の接点を作っているかである。そのDPを達成するためにカリキュラムが段階的に組まれ、PBLやフィールドワーク、インターンシップを含む科目が体系的に位置づけられているだろうか。社会とのつながりは「個別科目」のレベルではなく、「学位プログラム」のレベルで設計している必要がある。これは専門課程だけではなく、大学全体・共通として基盤教育や教養教育に組み込むことも考えられよう。
3つ目は学修成果の把握は専門的な知識だけに偏っていないだろうか。また学修成果を適切に直接評価と間接評価を組み合わせて評価をしているだろうか。そうならないために先述のように社会との接続も考え、DPに「何ができるようになるか」が書かれている必要があるし、どのように学修成果を評価すればいいかも同時に検討する必要がある。また学修成果はDPだけではなく、大学が育成するコンピテンシーを策定し、これを評価、情報公開していくことが必要である。具体的な方法として例えばポートフォリオシステムで学生自身が学びを記録する、ルーブリックで自己評価ができる仕組みがあるか、主要授業科目の到達目標と成績評価とその結果の公表などがあるだろう。
3 おわりに
「選ばれる大学」の新しい基準は、「社会と共にあり続けられる」かどうかではないかと筆者は考えている。社会とつながることは、卒業生が社会で力を発揮することを通じて、次の世代の高校生・保護者にとっての「選ぶ理由」を生み出す。これは入学時点で完結する一回性の選択ではなく、卒業後のキャリアを通じて社会的評価が積み上がり、その評価が次の入学者を呼び込むという、長い時間軸の好循環である。この循環を維持するには、DPの定期的な見直し、社会の側との継続的な対話、学修成果の客観的な開示、外部評価のような形での社会の目の常時受け入れが不可欠となる。
参考文献
文部科学省中央教育審議会(2025)「我が国の「知の総和」向上の未来像~高等教育システムの再構築~(答申)」https://www.mext.go.jp/content/20250221-mxt_koutou02-000040400_1.pdf, 2026年5月23日閲覧.



