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File.03 大正大学

数理・データサイエンス・AIの「学ぶ」を「働く」とどうつなぐか

2026/09/07  タグ:  

大正大学 基礎DATA

-データサイエンス授業開始(3学部) 2020年度
-学部 仏教学部/文学部/人間学部/臨床心理学部/表現学部/地域創生学部/情報科学部
-MDASH リテラシーレベルプラス(2022年選定)

https://www.tais.ac.jp/p/travelling_univ/date_science/

DX(デジタルトランスフォーメーション)が不可避な産業界のニーズを受け、大学(高等教育)でのデータサイエンス教育が注目を集めている。一方で、「データサイエンスを学ぶ」だけでは、その学びの成果を社会で十分に発揮することは難しいと考えられる。分野ごとの知識(ドメイン知識)、社会人としての倫理・哲学、汎用的能力、対人基礎力をはじめとする非認知能力などがなければ、データサイエンスの「学ぶ」は「働く」につながっていかない。
このシリーズでは、数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(MDASH)で認定された大学・学部学科で話を聞き、数理・データサイエンス・AIを学んだ人材が社会で活躍するために必要な力とは何かを探り、その力を身につけさせるための取組の事例を紹介していく。

今回は、大正大学(学修支援センター)の前田長子教授と田島恵美准教授に伺った。文系の学生が多数を占める大学でありながら全学必修化したデータサイエンス教育の、カリキュラムの設計から独自のサポート体制、そしてキャリアへの接続にいたるまでの取組と成果を紹介する。

1. 基礎は「反復学習」、実践は「実課題・実データ」

大正大学のデータサイエンス教育は、1年次・2年次の6科目、計6単位が全学部・全学生の必修科目。『Excel講座』『統計基礎』など複数の科目の組み合わせではなく、「データサイエンスⅠ~Ⅵ」という体系的カリキュラムとして設計されているのが大きな特徴だ。
1年次の「データサイエンスⅠ・Ⅱ」ではExcel、2年次の「データサイエンスⅢ・Ⅳ」ではBIツールのTableauを使用し、ツール(アプリケーション)利用法だけでなく、統計の基礎や情報リテラシーも扱う。その上で2年次後半の「データサイエンスⅤ・Ⅵ」では、Tableau実践として、産官学連携の枠組みで提供されたリアルデータを分析し、社会課題解決に取り組む。
MDASHでは「地元自治体および企業と連携し、実課題・実データを活用したリアリティのある学修内容を提供しているとともに、実務家教員を多く配置するなど、学修効果の高い教育を提供する取組を実施している」ことで評価され、2022(令和4)年度にリテラシーレベルプラスに選定されている。

前田長子教授(学修支援センター)は教育上の工夫として、「内容の絞り込み」と「反復学修」を挙げる。「例えばExcelの関数であれば、多くの関数を網羅するほうが、シラバスの見栄えは良いかもしれません。しかしそれでは、学生は1つの関数が定着しないうちに次の関数を学ぶことになり、結局、十分な理解・習得ができないということになりかねません」。そこでデータサイエンスⅠ・Ⅱでは、たとえばIF関数群なら「IF関数とCOUNTIF関数の2つだけ」のように、扱う関数を絞って反復学修をする。授業内で反復し、小テストや復習用教材などでも反復練習を重ねることで、関数の基本的な型を理解していく。基本的な型さえ習得できれば、他の関数が必要になった際も、自力で調べて応用できるようになる。
また田島恵美准教授(学修支援センター)は、「情報リテラシー、統計的な基礎知識、アプリケーション活用スキルという3つの要素を1科目の中で組み合わせています。これは6科目すべてで一貫しています」と説明する。例えば「分散・標準偏差」の学修において、統計学基礎の講義、あえて電卓を使った「手計算」のワーク、手計算では不可能な行数のデータの分散・標準偏差をExcelの関数を使って算出という、一連の流れを1回の授業の中で体験させる。これにより、文系の学生も概念を本質的に理解し、ツールを活用する意義や利便性を実感できるようになる。「頭で理解する」と「手を動かす」のセットで学修するもので、一種の反復学修といえそうだ。

データサイエンスⅤ・Ⅵで扱うリアルデータは、教科書の中だけの学修用データではなく、企業や自治体などで実際に保有・活用されているものだ。しかも、飲食店や小型スーパーなど、学生の生活に身近な領域のデータに触れることで、学生の学修意欲を高めるコンテンツとなっている。データサイエンスⅤでは提示された課題に取り組む個人ワーク、Ⅵでは複数データからの課題抽出を含むグループワークと、段階的に難易度を高めている。いずれも最終的に連携先へプレゼンテーションを行う。
具体的な事例として、26年度のデータサイエンスⅤでは、都市型小型食品スーパーを展開するまいばすけっと株式会社との連携で、「Eコマース事業におけるまいばすけっと社の強みを生かした売上向上施策の提案」という実践的なミッションが課された。学生たちは、販売データや商品のマスターデータ、配送距離データなどを結合したデータを分析して顧客像を推測し、さらには競合他社と比較したうえで、まいばすけっと社の強みを活かした改善策の提案に取り組んでいる。
ただし、ローデータの整形(データの結合や形式の統一など)はこの段階の学生には難度が高いため、教員が事前に処理を行う。これにより、学生は多面的な分析や可視化、論理構成の検討、提案内容のブラッシュアップに十分な時間を充てられる。少し背伸びをすれば手が届く難易度に調整することで、「分析と提案」という本質的な思考にエネルギーを集中させ、学びの効果を高めている。

2.複数のスタッフによる「チーム・ティーチング」

文系学生が多数を占めるなかで必修のデータサイエンス教育を行うにあたっては、「ひとりもとりこぼさない学修支援」を掲げ、授業内外で多層的な学修支援体制を敷いている。
1年次は学科混成でクラスを編成し、事前アンケートなどをもとに、基礎的な学修に不安のある学生が多いクラスに学生アシスタントを手厚く配置し、丁寧に指導している。入学当初の学生のITスキルに大きな格差があるためだが、苦手意識を助長させないためにそのことは明示していない。
1クラスの学生数は約100名とやや多い。それに対して教員は2名、チューター(学修支援を専門とする職員)とシニア・スチューデント・アシスタント(シニアSA)が1~2名、スチューデント・アシスタント(SA)が2~4名ほど入り、計5~8名前後でチーム・ティーチングを行っている。教員の2人は、教壇での講義進行の役割と、チューター、シニアSA、SAを束ねる学修支援担当として教室内を回り、学生1人ひとりをサポートする役割とを、各回分担して行っている。さらに、クラスごとの教員の組み合わせは1年間変えないが、チューターやSAは、状況に応じてシャッフルし、科目全体でも高い水準での学修支援体制を維持できるように工夫している。
2学年合計で30クラス近くを、専任・非常勤の教員16名、学修支援者(チューター、シニアSA、SA)約60名で運営しているが、この「データサイエンスチーム」のコミュニケーション量と一体感も、大正大学の独自性だと前田教授は言う。担当教員陣が専任・非常勤を問わず参加するオンラインの講師会が毎週1回欠かさず開催され、その週の授業ポイントやよくある学生のつまずきが共有される。講師会以外にも、学生全体の学修状況について組織的な情報共有が行われている。

3.授業外でも活躍する学生アシスタント

授業外の学修支援としては、自主学習用のeラーニング教材を提供するほか、学修支援の拠点である「データサイエンスラーニングコモンズ」で、テスト前の対面補習講座、授業内容や課題に関する個別の学修支援などに応じている。
また、夏・春の長期休暇期間にはマイクロソフト オフィス スペシャリスト(MOS)ExcelやTableau Desktop基礎、統計検定などの資格取得を目指す学生向けの「データサイエンス特別プログラム」も実施される。毎年延べ250~350名の学生が各種資格を取得するなど、このプログラムは継続的に成果を上げている。

授業内外を通じ、学生アシスタントの力は欠かせない。2年次以降のSAは教室内のサポートに特化するが、SAを経験した3・4年次で希望した学生はシニアSAとなり、授業外での支援も担う。シニア SAの授業外での活動は、データサイエンスラーニングコモンズに常駐して質問に答える、対面補習講座の講師を務めるなどで、学修支援の質向上に寄与している。
SAの募集には毎年50~60名の応募がある。田島准教授は、「応募動機で最も多いのは、先輩SAへの憧れです」と言う。応募して採用されたSA(シニアSA)はやりがいを感じて活動し、その多くが卒業まで勤務を継続するという。こうした事実も、データサイエンス教育の1つの成果といえそうだ。

4.自己効力感が広げるキャリアの選択肢

データサイエンス教育によって、学生のキャリアの選択肢は大きく広がっている。文系学生にとって心理面でも知識・技能面でもハードルがあるIT業界やSE(システムエンジニア)を目指す例が、着実に増えつつあるという。
前田教授は「最初はキーボード操作すらおぼつかなかったような学生でも、『頭で理解する』『手を動かす』がセットの学修で、実社会のデータと向き合い、企業や自治体の方々へのプレゼンを行い、厳しくも温かいフィードバックを受け止められるまでになります。学生は成長実感を得られ、成長意欲も高まります。そんな学生は、新しいことに自ら取り組んでいく。自走しだすのです」と言う。数学やITという苦手意識のあった領域での成長実感であることも、自己効力感につながっているのだろう。
また、シニアSA、SAを経験した学生は、就職活動にも自信をもって向き合えるという。前田教授は、面接において「データサイエンスのSAとして多数の後輩に、Excel・Tableauの操作方法やデータ分析の支援をした」あるいは「シニアSAとして補習講師を務めた」というエピソードに加え、高いコミュニケーション能力やリーダーシップ、さらに実務スキルが、学生の成長を示す具体的な証明となり、企業から高く評価されると語る。
大学としての現在の課題は、個別的な成功事例にとどまることなく、データドリブンな強みを持つ学生を、特に3年次以降の課程においていかにして組織的に、数多く育成し、社会へ輩出できるかという点にあると前田教授は考えている。

5. データサイエンティストではなく、「データドリブンな思考」を高めた人材を育成

大正大学のデータサイエンス教育の教育目標は「主観的な判断ではなく、データをもとに意思決定を行うデータドリブンな思考を高め社会の課題を解決し、価値を創造していく人材育成」とされており、前田教授は「立ち上げ当初から現在までぶれることはありません」と言う。この教育目標は全学DP「10の力」のうち「根拠に基づいて思考する力」の育成に紐づいており、それがデータサイエンスを全学で必修とした理由でもある。
また前田教授は、「学生をデータサイエンティストという専門職に育てようとしているのではない」と言い切る。目指しているのは、卒業生がビジネスや地域の現場に立った際、データを手段として使いこなし、論理的な根拠を持って思考・行動できることだ。文系・理系の出身を問わず、これからの社会人には、データを根拠として物事を捉え、考察する習慣を身につけていることが求められるだろう。
一方で前田教授は、社会で活躍するためには、授業や課外活動で身につけた知識やスキルを、自身の関心や目標、将来像といった「自分軸」をもとに相互に結びつける「学びの統合」が重要だと考えている。現代社会は、特定の科目だけを学ぶことで通用するほど単純ではないからだ。
「データサイエンスも、それ単体で完結してすべての問題を解決する万能のツールではありませんが、『学びの統合』の中の要素として非常に価値が高い。そして『価値の高い要素』を身につけるための多様な学びの機会を提供することが大学の役割だと思っています。そのような観点で、これからもデータサイエンス教育をブラッシュアップしていきたいと思います」(前田教授)。

セミナー・公開研究会情報

2040年を見据えた高等教育の質向上と「全国学生調査」の活用

開催日:2026/9/26

会場:東洋大学白山キャンパス(東京都文京区)「125記念ホール」(8号館7階)

『働く、生きる』にたずさわるプロフェッショナルとは~集う・語らう・考えつづける~

開催日:2026/11/28~

会場:帝京平成大学 池袋キャンパス MiNoRiセントラル (現地+オンライン視聴※一部プログラムはオンデマンド配信予定)

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