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[Vol.4] 東京電機大学における就業力育成の取り組み

教育改善推進室をエンジンとして

2012/03/15  タグ:  

東京電機大学基礎DATA

本部所在地 東京都千代田区(2012年4月より東京都足立区)
設置形態 私立
学部 未来科学部/工学部/理工学部/情報環境学部
学生数 10,697名(2011年5月1日現在)
就職率 92.5%(2010年度)

東京電機大学の取り組みのあらましについてはこちら

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、取り組み事例を紹介していく。

第4回目は、工学系私立大学の事例として東京電機大学をとりあげる。理工系大学・学部は伝統的に、技術系企業との密接なつながりをもって、文科系学部とは異なる就業支援活動を展開してきたところが多い。「就職の電大」といわれた東京電機大学も同様だ。そのような背景を持ちながらの今後の就業力育成の取り組みについて、古田勝久学長と大松雅憲氏(教育改善推進室次長)にお話をうかがった。

東京電機大学の就業力の現状:課題認識

東京電機大学(TDU)は、「社会に貢献する技術者の育成」を大学の使命として掲げている。実績としても、技術系企業に優秀な人材を多く輩出してきた。しかし古田勝久学長は、近年、学生の質が変わってきたと言う。成績によって大学や学部・学科を選ぶ傾向が強まっており、「自分は工学を学びたい・学ぶのだ」という信念がないまま入学する学生が増えているというのだ。
「工学とは何か、技術とは何か、それを使って自分はどう社会に貢献できるかということをしっかり認識した上で勉強することが大切だと思います。その認識があってこそ、社会の問題にも気が付くし、その問題解決に貢献するために自分がどういう能力を持つべきかを考えることもできるのだと思います」(古田学長)
古田学長は、「もとより東京電機大学の教育は、工学とは何かをきちんとわかっていることを前提に、社会に出てから活躍できる人材、企業が求めている人材を育てるということ。つまりは『就業力』」とも言う。

1.東京電機大学が考える「就業力」とは

東京電機大学「3つの力で就業力を育成する教育プログラム」 取組概要

http://cweb.dendai.ac.jp/pdf/employ/tduprogram2011_2.pdf

東京電機大学の就業力育成では、「人間力」「社会人基礎力」「実学的即戦力」の3点を基本としている。
「人間力が最初に書かれているのは、初代学長の丹羽保次郎先生が唱えた『技術は人なり』を念頭においてのことです」(古田学長)。技術者のつくるものには、人柄も含めて技術者のすべてが表われる。だから技術者としてしっかりしたものをつくるためには、人間としてもしっかりしていなければならないという理念だ。
社会人基礎力(論理的な思考能力やコミュニケーション力)は、社会人一般に求められる能力だが、技術者としても一番重要な力ではないかと古田学長は言う。
「技術者というものは結局、問題発見と問題解決を求められる人材です。その中ではコミュニケーションというのが非常に大きな役割を果たすのではないかと思っています」
そして実学的即戦力は「学んできた知識をストックして、自分自身のデータベースをしっかり作っている。必要な専門的知識を学び、その知識を実際に使う能力を持っている」ことを指していると古田学長は説明する。

2.入学から卒業までのプログラム

この3つの基本を身につけた、就業力のある人材を具体的に実現するための科目として、1年次に「フレッシュマンゼミ」、2年次に「キャリアワークショップ」、3~4年次に「TDUプロジェクト科目」が配置された。
フレッシュマンゼミは、初年次教育としてキャリアイメージや職業観を培うもの。
「技術者のロールモデルというのが少ないんですよね。技術者というとどんな人ですかと聞くと、いまだにエジソンの名前があがったりする。医師や弁護士は、テレビを見てもイヤというほど出てきますけれど、技術者はなかなか出てこない。ですから、技術者がどんな仕事をしているのか、どんな能力を持つ人材かなど、フレッシュマンゼミで1年生に学ばせたい」(古田学長)
2年次のキャリアワークショップは、従来の「実験」「実習」などの科目を再編したもので、問題解決型実習で専門性を高めるとともに、グループ学習を通じて協調性やリーダーシップといった社会人基礎力の育成を意図している。
3年次~4年次のTDUプロジェクト科目は、千葉ニュータウンキャンパスにある情報環境学部で先行して行われてきた。協力関係にある近隣地域の企業や自治体から与えられたテーマを、学生主体のプロジェクトグループが担当する課題解決型実習で、実学的即戦力を育成するものだ。

3.地域との連携、大学間連携

これからの就業力育成には、他大学との連携、地域産業との連携が求められているといえる。
「産学連携を進めて産業界に必要な人材を輩出していくには、大学ひとつでは無理な面があるだろうと思います。複数の大学がコンソーシアムを組んで、あるいは経済同友会といった団体、私大連盟、私大協会なども巻き込むくらいのスケールで考えて進めるという考えは、なるほどと思えます」(大松雅憲氏)

東京電機大学が持っている地域連携の実績としてはまず、千葉ニュータウンキャンパスにある情報環境学部のプロジェクト科目を、地域との密接な関係性に基づいて作り上げてきたことがある。2012年4月に開設される東京千住キャンパスにおいても、地元自治体である足立区と、良好な関係を築き始めている。従来の大学側窓口である「産官学交流センター」に加えて、新キャンパス近くに創業支援施設「かけはし」を2011年12月に開設済みだ。施設内のインキュベーションオフィスには、区内の起業者から多数の応募があったという。「足立区は印西市と同様、中小の製造業が密集しているところで、TDUの先生方の技術を活用したいというニーズがあるものと思います」(大松氏)
一方、他大学との連携は、芝浦工業大学、工学院大学との3大学学長による「工学教育問題懇談会」があり、今後もこれをベースに検討していく見込みという。

いずれも、まず就業力ありきではなく、起業支援や共同開発、「工学教育はいかにあるべきか」の教育理念の共有など、じっくりと関係性を築き、結果として就業力育成でも共同の取り組みができればという考えのようだ。

4.教職協働のハブ組織、教育改善推進室の役割

教員・職員が協働する学内の体制づくりの要として、教育改善推進室が2011年5月に新設された。室長の教員(井浦雅司理工学部教授)、次長の職員(大松氏)をはじめ教員・職員双方で構成され、教育改善のための全学的な「ハブ」的な組織と位置づけられている。

教育改善推進室は、学内の組織と連携しながら就業力育成事業を進めると同時に、学長室とともに、就業力育成を含む中長期的な教育改善の計画策定に取り組む役割も担っている。
「座学と実学の融合に関しては、コーポラティブ・エデュケーションというのがあって、カナダやアメリカでは100年の歴史があり、インターンシップを積極的に取り入れながら非常に普及しているそうです。国内・国外を問わずこうした先進事例なども参考にして、東京電機大学の目指す教育の形を、少し時間をかけるつもりで研究し始めています」(大松氏)
あるいは、教育のアウトカム(成果評価)の方向性も長期的な研究課題だという。例えば「TDU exam の検討」というテーマがある。通常、必修科目を押さえて124単位取れば自動的に大学卒業が認められるところ、卒業生の「質」を保証するために、全学的な統一試験「TDU exam」をプラスしてはどうかというものだ。

「人材育成の目標をつくり、どういうカリキュラムをつくるかというプランから、PDCAのサイクルを実際に回し、その結果を次のステップに反映させていくことまで、これから教育改善推進室の役割はますます大きくなると思います。そういうことで具体的なわれわれの目標が実現できていけばいいと思います」(古田学長)

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