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[新Vol.14]京都薬科大学

科学研究ベースで「ファーマシスト・サイエンティスト」を育成

2018/07/06  タグ:  

京都薬科大学基礎DATA

本部所在地 京都府京都市
設置形態 私立
学部 薬学部
学生数 2261名(2018年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、薬剤師養成の6年制課程でありつつ、薬学の多様な進路を意識した人材育成を目指す京都薬科大学で、後藤直正学長にお話をうかがった。

1.本当の基礎力を身につけた学生の育成を目指す

前身を含め約130年の歴史を持つ京都薬科大学。後藤直正学長は「科学研究をベースにした教育が本学の伝統であり特徴だと思います」と言う。
私立大学の薬学部は、薬剤師国家試験対策や即戦力育成に力を入れるところが多い。しかし後藤学長はそれを「体ができていない人にユニフォームを着せて試合に出しているようなもの」と見ている。
「本学の場合は体を鍛えて、野球で言ったらバットの素振りも守備練習もする、汗をかいたところで初めて試合に出す。
大学教育とは何かということを捉えたときに、職業教育はしたくない。本当に基礎力を身につけた学生の育成を目指していれば、病院・薬局、企業、行政、どんな現場でも活躍できる人材を出していけると考えています」。

薬学6年制課程の設置がスタートした2006年以降、6年制で育成するのは現場の薬剤師、4年制は大学院に進んで研究者という性格づけがされている。国公立を中心に6年制・4年制を併設する薬学部もある中、京都薬科大学は6年制課程に一本化した。しかしそれは、薬剤師教育への一本化を意味してはいない。
「4年制の時代は企業志向が強く、企業、行政、大学に行ける人材を出すことを王道としていましたが、6年制移行後、現場の薬剤師の育成にも目を向けて、軌道修正したのも事実です。薬剤師免許は最終目的じゃない、通過点だ。そこを越えたもう少し上の人材を育成しましょうというのが、掲げてきたことです」。
「もう少し上」として目指している人材像が「ファーマシスト・サイエンティスト」だ。「決して薬剤師と研究科学者を引っ付けた言葉ではありません。サイエンス=科学、アート=技術、ヒューマニティ=人間性、の3つのバランスの取れた人をいいます」(後藤学長)。

2.研究志向の高い卒業研究

「科学研究をベースにしたファーマシスト・サイエンティストの育成」の具体的な取組として、最も特徴的なものが、3年次の後期に始まり6年次の「卒業論文発表会」に至る卒論研究(科目名は「総合薬学研究A・B」)だ。

研究室に所属し、実験研究をするが、問題発見・解決能力を身につけるための科学教育が主眼だ。高い研究志向を持ち、研究成果を学会や英語論文で発表する学生も少なくない。
「研究室には、院生も、若手から高齢までの教員もいる。年齢の違う人がいる中で、いろいろな話をしたり、自分のやったことを発表したりで、コミュニケーション能力が磨かれるメリットもあると思います」(後藤学長)。

6年次の6月に2日にわたり公開で行う発表会では、全員がポスター展示とショートトークを、いずれも英語で行う。たとえ英語が不得意でも、最低限、「何を目指して」「何をしたら」「どうなった」の3 つを英語でプレゼンするのが必須とされる。ただ、日本人だけの場で英語での発表を貫き続けるのは難しいので、ある「仕掛け」が施されている。
「海外の協定校から教員や学生に来てもらっています。アメリカ、台湾、ドイツ、ベトナム、中国、タイ、エジプトから、計二十数名。日本語の分からない人たちがいるから、英語で話さないと仕方ない。質問も当然、英語でされる」。

研究の成果よりも、英語でのコミュニケーション能力向上の効果が大きいといえるかもしれない。「最後に開くGet-together Partyというさよならパーティー的なものに出られる学生は、全体の約4分の1だけです。海外からのゲストが、非常に良かったとか、もう一度話したいとかの学生を選んで招待状を渡すからです。パーティーへの出席は、コミュニケーションやプレゼンテーションの能力を評価する賞のようなもの。学生にも『招待状は、賞状と一緒だ。記念に残しておきなさい』と話しています」。

3. 英語力強化を兼ねた教育プログラム

後藤学長が教務部長だった2013年度に提案し、始まったこれらの「仕掛け」には当初、教員の強い反対があったという。「学生にできるわけがない、もっと英語の勉強をさせてからだ、と。そんなこと言っていたら一生できない、ダメだったらダメと分かる経験をしたらよい、と押し切った」。今ではそういった反対の声も聞こえてはこないというが、「教員はポスターの英語をチェックしたり、多くの手間を掛けています。大変なのは事実だと思います」と後藤学長は話す。

英語力強化を兼ねた教育プログラムとして、もう一つ、臨床開発業務について英語のみで学ぶクリニカル・リサーチ・マネジメントプログラム(Clinical Research Management Program: CRMP)がある。ドイツに本社を置く開発請負会社パレクセル・インターナショナルとの共同プログラムで、5年次の希望者、例年20名前後が受講している。
「7週間、朝から晩まで、全く日本語を話せない講師に教わるので、学生たちも初日あたりは、不安な顔つきです。しかし、英語の授業を『聞く』だけでなく、ディスカッションやプレゼンテーションの『話す』経験も積んでどんどん成長し、終わったときには自信にあふれた顔に変わっています」(後藤学長)。

4.社会性・自立性を育む学内Job

幅広い人材育成が持ち味の京都薬科大学だが、後藤学長はさらに広いフィールドを考えている。「薬学の小ささが嫌いなのです。薬学の枠を破って出ていく人が出てきてほしい。例えば、薬局のチェーンに行って店長になるのもいいけれど、そのレベルでは面白くない。経営者になってほしい」。公務員なら行政全体に、企業なら全社の経営方針に関わるような学生を出していきたいと言う。
そうした思いも込め、学生が活躍するフィールドを多様化、拡大化し、社会性・自立性を育む狙いで近年始まったのが、学内ジョブプロジェクトだ。
「オープンキャンパスで、学生に手伝ってもらったとき、思った以上によくやっていた。それがきっかけで、いろいろな学内の仕事を学生に任せていこうということになった」。
実はこの学内ジョブの運営の中心は、教員ではなく職員だ。
「大学では教員が優位で、事務職員は下、という考え方はやめにして、学内ジョブだけでなく、いろんなプログラムを教職協働で動かしていきたい」(後藤学長)。

5.就職先は病院、薬局、企業の正三角形

薬学部の成果指標としてよく使われるのは国家試験の合格率だが、京都薬科大学では違う。「入学時に、就職先は、病院、薬局、企業、3つのどれが希望かという調査をすると、病院が最も多いのですが、最終的には正三角形のようにきれいに3つに分かれます」。6年間でのこの変化を「教育力の表れ」と捉えている。
学生に対して、病院よりも企業が良いというような指導は一切、しない。それにもかかわらず進路が図ったように「正三角形」になるのは、「科学をベースにした教育」が一番大きいと後藤学長は言う。「これが身についているからどこにでも行ける。どれでも選べるから、自分に一番フィットするところを選んでいくということだと思います。
18歳の学生に6年後、23、4になったときの人生を考えろというのは無理な話と思うのです。大学で学ぶ中で、自分で一番フィットするところが分かって、そこに行くのがベストですね」。そうすると、出口は多様になり、進路は正三角形になるというわけだ。

6.他にない特異な単科大学を目指す

今後の方向性について後藤学長は、日本の大学全体の連携・統合の動きを踏まえ、「将来的に他大学と組むかどうかを考える前に、特異な単科大学の姿を作ることがまず大事。それがなかったら、単に飲み込まれるだけだと思います」と言う。
そこでは、やはり基礎科学教育が鍵となる。まず取り組むのは、医療機関を持たないという、科学教育を行う上での課題の解消だ。
「今も長期実務実習はありますが、もっと密な、4年間座学で学んだ基礎科学が医療現場で生きるという経験を医療機関の中でさせたい。自前では病院を持たないですが、学術交流協定などでそういう場を作る検討を進めているところです」。

科学教育の内容としては、「医学研究と肩を並べる薬学研究・教育」を掲げる。
「医学部にも看護学部にもない基礎科学教育をしているのは、薬学部の大きな強みです。
カリキュラム改正も今検討に入っています。その中で、1年次から4年次までの4年間で有機化学、物理化学などとバラバラに学んできたことがトータルで現場に生かせると分かるような統合化授業科目を作りたいと考えています」。
統合化科目の実現にはまだ時間がかかるというが、他の大学にない、特異な姿を作るものとなりそうだ。

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