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[新Vol.16] 札幌市立大学

地域課題をテーマにデザインと看護の連携教育で人材育成

2018/11/15  タグ:  

札幌市立大学基礎DATA

本部所在地 北海道札幌市
設置形態 公立
学部 デザイン学部/看護学部
在学生数 700名(2018年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングといった座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、デザイン学部と看護学部の2学部からなり、その連携を目指す札幌市立大学で、中島秀之学長にお話を伺った。

1.デザインと看護の連携・協働

2006年開学の札幌市立大学は、分野の大きく異なる2学部からなる。札幌市中心部の桑園キャンパスに、札幌市立高等看護学院を前身とする看護学部。そこから車で約30 分ほどの郊外にある芸術の森キャンパスには、札幌市立高等専門学校を前身とするデザイン学部がある。
デザインと看護の連携・協働というユニークな取組は、決して簡単なものではない。2018年4月に就任した中島秀之学長は「一番難しいのは、方法論の違い」と言う。教員の方法論も違うし、学生の学び方も違う。「放っておいてひとりでに融合するということはない。機会を捉えてはくっつけるしかありません」。

2.3年次まで一貫した「D×N連携科目」

デザイン(Design)と看護(Nursing)が連携し、「人間重視」を根幹とする札幌市立大学独自の学びは、「D ×N(ディー・バイ・エヌ)」と名づけられている。
D×N連携科目は、1年次前期の必修科目「スタートアップ演習」で始まる。大学という「学びの場」とキャンパスの所在する「地域」について知るプロジェクト活動に、異なる分野を目指す両学部の学生が共に取り組むことで、お互いの発想に触れ、広い視野を持つことができる科目だ。3年次後期の必修科目である「学部連携演習」でも両学部合同で、課題解決の方法を知る演習を行う。自身の学部で専門教育を学んだうえで相互の専門に触れ、専門性を拡大し異分野の理解を深めることが意図されている。
これらは開学当初からの教育課程だが、2017年度には、地域の課題を見いだす必修科目「学部連携基礎論」が2年次前期に開講した。D×N連携科目が1年次から3年次まで円滑につながり、卒業時までに「連携の成果を実社会に生かす力」を身につける流れが整った。

1年次から3年次までD×N連携科目を配し、しかも入学早々の「スタートアップ演習」から2学部の学生が共に学ぶのは、学生だけでなく、教員の融合も狙っている。連携する各科目は必ず両学部の教員が共同で担当するからだ。
教員同士の融合の機会としては、学内研究交流会もある。代表教員による研究発表の他、ほぼ全教員によるポスターセッションが行われる。
「案外いいのかなと思うのは、一色で固まっている大学より、2つの異物がある方が、アウフヘーベンというか、向上するものが出てくる可能性が高いのではと思っています」(中島学長)。

3.D×NをITでつなぐ

D×Nの融合については、地域に資する研究の推進とその成果を社会に還元するため、「地域連携研究センター」を設けており、医療機器の製品化といった成果も生みだしている。
「車椅子クッションの新しいデザイン、使用済み注射針の廃棄容器のデザインなど、いくつかの成果はあります。でも、デザインというのは、形のデザインだけでなくて仕組みのデザインも含んでいます。ですからそういう個々のものの形をデザインするより、看護の仕組みをデザインしてほしい」。

そこで中島学長が計画しているのが、DとNをつなぐブリッジとしてITを導入することだ。「看護の中にいる人たちが日頃感じている問題を伝えて、デザイン学部と一緒に解決法を見いだす。今までのD×Nはここでとどまっている感がありましたが、ITやAIが使えるようになると、実際にそれを作る、実装することができます。念願だったD×Nが、ITが入ることでやっと完成するかなと思っているところです」。
ITの活用は、初代学長の時代から存在したコンセプトという。それが情報工学・人工知能(AI)の研究者である中島学長の就任によって、実現へと動き出そうとしている。「看護とデザインがあることをいつまでも『重荷』にせず、そろそろ『あるからできる』方にジャンプしたい。『他ではこんな発想、ないよね』と言えれば最高です」(中島学長)。
そして中島学長は、2004年度から2015年度まで学長を務めた公立はこだて未来大学での事例を挙げた。「病院の患者さん向けのシステムで2005年度にグッドデザイン賞をもらっています。実際にどういうシステムがいいかというデザインをし、プログラムを作って患者さんに使ってもらうという実装をした。同じようなことが札幌市立大学でもできると思います」。

4.ITの強化、コンピュテーショナル・シンキング

IT強化の一環として、7月には、公立はこだて未来大学との学術交流協定に調印した。公立はこだて未来大学はシステム情報科学部のみの単科大学だが、特色の一つに「社会をデザインする大学」を謳う。
長く模索されてきたというこの連携で中島学長が目論むことの1つが、コンピュテーショナル・シンキング(計算論的思考)という教育科目を作ることだ。「当面、ここの大学にはそういう教育をする人材がいないのですが、公立はこだて未来大学にやってもらえばできるかもしれません」。

「今後の世の中、どの分野の人もITのリテラシーを持たないと、困ります」と中島学長は言い、こう続ける。「リテラシーとは、使うという意味だけではなくて、情報を処理するとはどういうことかの感覚。コンピュテーショナル・シンキングも、プログラムの読み書き技術ではなく、プログラムを書けるような基礎的考え方のことです」。
よく言われる「論理的思考」が思い浮かぶが、論理だけではプログラムは書けない。具体的な手順が必要になる。今まで論理的思考の重要性は言われてきたが、具体的な手順を考える力、すなわちコンピュテーショナル・シンキングも、世の中で役立つ場面は多いのではないかと中島学長は言う。
「例えば、ホテルの朝食でブッフェ形式に並びますよね。あれは壮大な無駄だと思います。コンピュータの世界でいうと、シーケンシャルアクセスです。ランダムアクセスの方が効率的なのは当然で、前の人が取ろうとしているものが自分はいらないというときは追い越せばいい。あるいはそもそも並ばなくていい。こんなふうに、日常生活に役に立つ場面もたくさんあると思う」
コンピュテーショナル・シンキングを教える科目は、日本ではまだない。授業開発とともに、書籍にまとめるなどして普及させていきたいという。

5.アジャイル型教育を構想する

札幌市立大学の今後の展望として、長期的には「アジャイル型教育」の方向に行きたい考えが、中島学長にはあるという。
「『学ぶと働くをつなぐ』ということに関して現在は、教育が終わったら実務に就くだけの単調なウォーターフォール型です。それをアジャイル型にして、短期間に何度でも大学と社会との間を行き来するのがいいと思います」。
社会人の学び直し「リカレント教育」は近年、よく話題になるが、中島学長の「アジャイル型教育」は、「もっとループが早いし、何度も回る」イメージだ。
アジャイルとは、システム開発の用語で、ウォーターフォールとよく対比される。ウォーターフォールは、計画から最終工程まで順を追って進み、並行作業や後戻りはしない。アジャイル開発は、開発対象を短期間で完成可能な小さな単位に分け、その単位ごとに計画→設計→作成を行い、完成したら次の単位の「計画」に戻り、同時に開発全体も見直す。修正の手間が最小限で済み、状況の変化に対応しやすいメリットがある。

ウォーターフォール型の教育は、大学で身につけた知識が社会で「一生持つ」ことを前提としているが、AIやITの発達に伴い、その前提は崩れると中島学長は言う。
「例えば10年で専門知識が古くなるなら、10年に1回は大学に戻ってくるという状況を作りたい。実は看護分野には、看護師さんが看護部長などになる前に大学に戻って学ぶシステムがあるのです」。中島学長がお手本にしたいという看護分野のシステムは、認定看護管理者制度(公益社団法人日本看護協会)で、札幌市立大学は、この制度の指定教育機関(サードレベル)になっている。実務経験が通算 5年以上などいくつかの条件を満たした看護師が受講でき、2018年度は18名が受講している。

「アジャイルの延長線上で、大学に入学とか卒業という概念はなくしていいとも考えられます。働きながら、『この知識が必要になったから、ちょっと大学で勉強してくるわ』みたいに、取りたい講義だけ取っていく。それで10年くらいすると博士号が取れたとか」。
これは夢物語ですが、と言いつつ、そのくらいの遠い未来を構想することが教育には必要だという思いも、中島学長にはある。

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