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[新Vol.17] 大阪電気通信大学

80周年に向け、強い組織で、学生を伸ばす大学を目指す

2019/01/15  タグ:  

大阪電気通信大学基礎DATA

本部所在地 大阪府寝屋川市
設置形態 私立
学部 工学部/情報通信工学部/医療福祉工学部/総合情報学部/金融経済学部
学生数 5135名(2018年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、デジタルゲーム学科、健康スポーツ科学科など、ユニークな学科も擁する大阪電気通信大学で、大石利光学長にお話をうかがった。

1.「情報教育なら大阪電気通信大学」に

大阪電気通信大学の建学の精神について、「技術者の育成というよりは人間の育成」と話すのは、2016年度に就任した大石利光学長。「人間力と技術力を培い、社会に貢献する。それを実現するのが実学だというベースです」。
学長になって1年後、全学の教授や幹部職員の集まる場で「『情報教育なら大阪電気通信大学』といわれる大学になろう」と語ったという。「全学部で情報教育を進化させる。AI・IoT時代の新たな実学を目指す」は、学園創立80周年(2021年)に向けてのキャッチフレーズにもなっている。
「新たな実学」の象徴が、2018年度に設立したICT社会教育センターだ。大学の本気を示す学内外へのメッセージとして、学長自らがセンター長を務める。活動のメインは、初等中等教育におけるICT教育支援。自治体と提携して、小中学校教員向けに教材プログラム体験、模擬授業体験、情報教育のアドバイスなどを行っている。

2.学生募集、離学率、進路決定率の3つの目標で改革推進

現在、改革の具体的な目標として掲げるのが「学生をしっかり集めます。離学率を減らします。進路決定率は関西ナンバーワンを目指します」(大石学長)の3つだ。
1つ目の学生募集については、オープンキャンパスに関する教員の変化が大きいと大石学長は言う。教員全員が、しかも主体的に参加するようになった結果、オープンキャンパスの来訪者数は2014年から倍増しているという。

2つ目の離学率について大石学長は、「縁があって入ってきた学生が途中でやめるということは、何か大学側に問題がある。学生との接点をしっかり高めて、問題を改善していけば離学率は下がるはず」と言う。
その取組には、例えば教職共同で取り組む出欠管理のシステムがある。欠席の続く学生には学務課の職員が連絡する。それでも来なければ手紙も書く。学生本人に話を聞き、教員に「面談してください」「こういうことで悩んでいるようです」などとフォローすることもある。
また、授業の質が離学率に大きく影響するという観点から、学生のアンケートを活用した授業改善にも取り組んでいる。現在、アンケートの回収率は97%に達している。すべての授業担当者にフィードバックされ、評価によっては授業を改革するよう促される。
「物事の結果が悪かったら、やり方を変える前に考え方を変えなければいけない。『アンケートの取り方が悪い』『学生がいけない』から、『どうすれば学生に分かってもらえるか』へと考え方を変えることで行動が変わり、結果が出る。そのために、大学としてもFDなどの環境を作っています。目で見える数字として、離学率はずいぶん下がりました」。

3 つ目は、学ぶと働くをつなぐ「進路決定率」の向上だ。「建学の精神をベースに、『伸ばす大学』と掲げていますが、学生を伸ばしたと理解してもらえる指標の1つが就職です。それで、進路決定率で関西ナンバーワンを目指すと言い切りました」。
具体的な取組の1つが資格取得の奨励・支援だ。「資格学習支援センターが中心になって、学部を問わず取り組んでいます。2015年、延べ960名しか資格にチャレンジしていなかったのが、2017年は2300名です。難関資格取得者の表彰制度による表彰者数も、この2年間で大きく伸びています。こうした結果が、就職率、進路決定率にもつながっています」。

3.民間企業出身学長として組織を強化

大石学長は2010年度に医療福祉工学部健康スポーツ科学科の教授となり、学長になるまでの6年間、教壇に立ち、卒業研究・修士論文などゼミ生への指導も行った。
企業経営者から大学人に転じたため、論文を書いて学術の世界で勝負をしようという気持ちはなく、役職を積極的に引き受けたという。そうして学部長や理事という経験を積むと、2016年の学長選で候補の1人になり、大学を組織として強くすること、基本的な大学のポジショニング、大学の生き残り策を所信表明として示した。
「大学において学長は教授の代表であり、学術研究のトップであるという認識が過去にはあったでしょう」と大石学長は言い、自身が学長になったことは、過去の認識からの変化が必要だという「組織の意思」と受け止めているという。

「企業から来て、大学と企業は違うと確かに感じましたけれども、いったん自分のからだを通そう、とにかく一度はやってみようと、批判は一切しませんでした」。その結果見えてきたことが、いま学長としての言動につながっている。
「大学は企業と違って、決定するまでのプロセスが大切です。権限は学長にありますが、これは責任を取るための権限で、決めたものを必ずやりなさいと強制する権限ではない。実際のプロセスは、多くの組織から選ばれた代表が機関として決める。決めたものを皆さんにおろしていく。皆さんが納得できないことは立ち止まって、再考する」。
大学についてもう1つ分かったのが、教員はみんな賢く、教育についてもこんな学生を育てたいという意向があるということ。「けれども個で動くから、それを実現できないのです。組織としてどう力を統合するかが、私の仕事なのですね」。

そんな「統合の旗」として、大石学長は就任からほどなくして、中長期経営計画の作成に着手した。手がけたのは、学部長、研究科長、学務部・入試部・就職部などの部長という、教職協働の運営会議だ。「長期計画は、15年後にこうなりたいという姿。その中にまず5年後、80周年の2021年にゴールを設定した第1次5カ年計画を、中期計画として含んでいます」。
計画の実施にあたっては、教育で8項目、運営基盤で3項目を設定し、それを達成するための活動計画を各部、各学科が作っている。「各事業の計画にそれぞれ複数の明確な数値目標、KPIが入っています。離学率一つとっても各学科バラバラですから、一律に何%にしなさいということはできません。学科ごとに作ったもの全部が集まると全体のKPIが達成できるように調整しています」。

4.キャンパスリニューアルでオープンな学びを実現

今後の展望としては、今秋着工の寝屋川キャンパスリニューアル計画がある。新棟の第一期が20年春、第二期は22年に竣工の予定だ。教育環境を「ガラッと変える」ためのキャンパスリニューアルだという。

「われわれのような工学系の大学ではたいてい、ゼミ生を抱える形で教育・研究をしていますが、体制がクローズになりがちです。隣の研究室で何をしているか、例えば同じ学科の教員同士でも学生同士でも、よく分からない。そういう形で学生に卒業研究をさせて、世の中に送り出して通用するかというと、疑問が残ります。ITと並んで、コミュニケーションの重要性が言われる時代ですから。それで、教育・研究をオープンなスタンスに変えていこうと、キャンパスリニューアルを計画しました」。
「オープンな学びのスペース」がコンセプトの新棟は、教員の部屋はガラス張りで、研究室の仕切りはない。中央のパサージュ(屋内小路)に全員が集い、行き交いして、隣の研究室がどんなことをしているか、全部分かるように変わるという。

これは個々の教員にとっても大学としても、大改革といえる。クローズなスタンスに慣れている教員達はオープンな環境を嫌がるかもしれないと大石学長は言う。
しかしそれも、物事を変えるには「やり方を変える」だけでなく「考え方を変える」のが大事という観点で、必要な変化なのだ。教員の意識が変わることで、教育が変わり、学生も伸び、「伸ばす大学」が生き残っていくことができるからだ。

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