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優良企業への就職とジェネリックスキルとの関係を構造的に把握

『PROG白書2018』データをデシジョン・ツリー分析

2019/04/01  タグ:  

学事出版・刊

前回当サイトに掲載した記事では、『PROG白書2018』と同じデータから「優良企業(JPX日経400)への就職者は非優良企業への就職者に比べてコンピテンシーが高水準」であるという分析結果を得て、優良企業への就職にはコンピテンシーの育成が大切であることを指摘した。

本記事ではデシジョン・ツリー(決定木)という手法を用いて新たな分析を行う。この手法は、目的変数に影響する説明変数を見つけ、その構造を樹木状のモデルで示すものであり、ここでは優良企業就職(目的変数)に影響するジェネリックスキル(説明変数)を見つけ、その関係を構造的に把握する。
デシジョン・ツリー分析には、特定の条件下で効果が発揮される要因も、その条件を抽出できるという特徴がある。例えば、コンピテンシーが高いという特定の条件下で、どのPROG項目で優良企業就職/非優良企業就職の差が見られるかといったことである(詳しくは後述)。

コンピテンシーに加え、リテラシー能力の重要性が明らかに

優良企業への就職を最も左右するのは予想通りコンピテンシーだが、分析を掘り下げると、リテラシー能力の影響が大きいことが見えてきた。

段階を追って見ていこう。ノード0=「全就職者(優良企業+非優良企業)」を分割する説明変数はコンピテンシー総合となった。優良企業への就職を最も左右するのはコンピテンシーであるという、前回同様の結果である。
説明変数「コンピテンシー総合」により、データはノード1~3の3つのグループに分割され、コンピテンシー総合のスコア(レベル)が高いほど、優良企業への就職割合も高かった。ノード3=「コンピテンシー総合がレベル5~7のグループ」は優良企業就職者の割合が最も大きく12.0%、ノード2=「コンピテンシー総合がレベル3または4のグループ」の優良企業就職者割合は9.3%、ノード1「コンピテンシー総合がレベルが1または2のグループで優良企業就職者割合は6.5%であった。

次の第2段階では、ノード1の分岐はなく、他の2グループはそれぞれリテラシー項目によって分岐があった。ノード3ではリテラシー非言語処理力、ノード2ではリテラシー情報分析力によって分岐が起こった。
つまり、コンピテンシー総合が最も高く優良企業への就職割合も最も高いグループ(ノード3)については、さらに「非言語処理力」が影響している。優良企業への就職にはコンピテンシーの高さが重要だが、情報を読み解くために必要な言語以外の基礎的な能力(数的処理や推論、図の読み取りなど)も重要であることが示されている。
一方、コンピテンシー総合が平均的なグループ(ノード2)では、リテラシー情報分析力によって優良企業への就職成果が違ってくる。情報分析力が3以上であれば9.8%(ノード5)であるのに対し、レベル2以下であると優良企業就職者比率は6.3%(ノード4)と低くなっている。

第3段階では、ノード4とノード7で分岐が起きている。まずノード7の分岐を見ると、リテラシー構想力が説明変数として選ばれている。ただし、その関係はリニア(構想力レベルが高いほど優良企業就職者の割合も高い)ではなく、ノード11=「構想力がレベル3のグループ」が最も高い優良企業就職者比率(20.6%)を示している。次いで、ノード12=「構想力がレベル4以上のグループ」で優良企業就職者比率は13.1%。ノード10=「構想力がレベル2以下のグループ」では優良企業就職者比率は10.0%となっている。
ノード4の分岐は、再度コンピテンシー総合で2グループに分割されている。このグループ(ノード4)は、第2段の分岐でリテラシー情報分析力が低い(2以下の)グループであり、遡って第1段の分岐を見ると、コンピテンシー総合評価が3または4であった。したがって、コンピテンシー総合での再度の分割は、レベル4が「コンピテンシーが(相対的に)高い」、レベル3が「低い」となるが、ノード9=「コンピテンシー総合が高い(レベル4)グループ」が、優良企業への就職者比率が3.4%と最も少ないグループになった。一方のノード8=「コンピテンシー総合が低い(レベル3)グループ」は優良企業就職者比率が8.5%であった。
このように、第3段階で起きている分岐には一見すると矛盾するような傾向もあるが、優良企業の複雑な採用構造の反映とも考えられる。この点についてはさらなる分析を進めていきたい。

以上、前回の分析では単にコンピテンシーの重要性を指摘したが、デシジョン・ツリー分析を用いて全体の学生をセグメントすることによって、リテラシー能力の重要性も確認することができた点は、新たな発見といえよう。

分析結果詳細はこちら(クリックで拡大)

(注)使用ツール=SPSS デシジョン・ツリー(ツリーの成長基準:CHAID)

〈モデルに投入した変数〉
●目的変数(従属変数)=優良企業への就職(就職者=1、非就職者=0)
○説明変数(独立変数)=PROGスコア20変数

(リテラシー総合, リテラシー情報収集力, リテラシー情報分析力, リテラシー課題発見力, リテラシー構想力, 言語処理力, 非言語処理力, コンピテンシー総合, 対人基礎力, 対自己基礎力, 対課題基礎力, 親和力, 協働力, 統率力, 感情制御力, 自信創出力, 行動持続力, 課題発見力, 計画立案力, 実践力)

解説:デシジョン・ツリー(決定木)分析とは

決定木は、対象となるデータを特定の特徴がよく現れるようなグループに分類することを繰り返し、その分類ルールを生成する手法である。具体的には、目的変数と説明変数を設定し、説明変数を使って目的変数の特徴の濃度が高まるようにデータをグループに分割し、そのグループをさらに説明変数を使って分割していく。そうして得られた説明変数とその閾値で構成されるデータの分岐ルールは、樹木状の図で表される。

決定木のメリットの1つは、特定の結果をもたらす要因やルールを発見できることである。特に、条件によって効果が発揮される要因が異なる場合でもその条件を抽出できるのがこの分析手法の特徴であり、そのため、データ分類のクラスタリングや予測・判別のモデリング、要因関係の可視化など、さまざまな分析目的で適用できる。
またデータ分析では、全体では見えなかった結果が層別(属性別)の分析で得られることがある。決定木では、そのような層別の分析の切り口(説明変数と閾値)を効率よく抽出することができる。

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