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教育成果をみる時間軸と目的

文部科学省「教学マネジメント特別委員会」終了にあたって

2019/12/24  タグ:  

角方正幸(「キャリアの広場」責任者/____
リアセックキャリア総合研究所所長)

キャリアの広場ニュースでもお伝えした通り、12月17日に中央教育審議会大学分科会の教学マネジメント特別委員会(第12回)が開催された。第12回は最終回であり、今後、大学分科会の承認を経て、「教学マネジメント指針」が公表される予定だ。

教学マネジメント指針は、

Ⅰ「三つの方針」を通じた学修目標の具体化
Ⅱ 授業科目・教育課程の編成・実施
Ⅲ 学修成果・教育成果の把握・可視化
Ⅳ 教学マネジメントを支える基盤
Ⅴ 情報公表

から構成されており、全体を通じて、「アドミッション」「カリキュラム」「ディプロマ」の3つのポリシー(方針)に基づき、「供給者目線」から「学修者目線」への転換を重視している。これは当サイトが「就業力の広場」としてオープンした2011年当時から言及し続けてきた「大学教育のパラダイム転換」で、“teaching to learning”という転換を意味している。

文部科学省(写真:キャプテンフック – stock.adobe.com)

この記事では、指針の中心となる「Ⅲ 学修成果・教育成果の把握・可視化」について、「大学教育のパラダイム転換」を注視してきた立場からの意見を述べたい。

■学習評価を捉える2軸への違和感

学生が学位プログラムを通じて得る学修成果・教育成果の把握は、大学内では学業成績評価として伝統的に存在し、GPA制度の導入などの変革を含みつつ継続されている。このタイプの評価は今後も不要になるわけではなく、特に大学人にとっては関心の中心であろう。
問題は、定められた資質・能力を備えた学生を育成できていることを大学内で確認するだけでなく、社会に対して明らかにする必要性が高まった昨今、成績評価の信頼性確保が必要ということだ。

さらに、学業成績評価だけでは不十分という観点から、多くの議論と実践も行われている。その際、学習評価を捉える軸として、(1)直接評価/間接評価、(2)量的評価/質的評価のクロス軸からの4象限で整理されることが多い。しかしこれには何か違和感がある。測定する手段、方法論からのアプローチであり、成果を「アウトカム」と捉える分類軸とは異質だからだ。

効果測定の用語に「アウトプット(output)」と「アウトカム(outcome)」がある。いずれも日本語では「成果」だが、プット「置く」とカム「来る」とでは当然異なり、その違いは、主語・主体の違いといえる。大学人による指標づくりには、無意識のうちに「プット」になる性質がある。
大学が学位プログラムを通じて評価するGPAや卒業認定、学位授与など、すべて大学がその評価主体だからだ。一方、「カム」はその成果を享受する側が主体となる評価であり、大学教育の場合は社会(企業や地域。学生自身を含むこともある)から見た評価となる。

■「アウトカム」を評価する2軸の提案

教育とは個人だけが獲得する「私的材」ではなく、その恩恵を社会も享受することから、「公共財」と考えられている。その意味でも、教育の成果は社会を主体とする「アウトカム」で測ることが適している。
公共財の効果を測定するフレームでよく使用するのは、(1)時間軸(短期/長期)、(2)空間軸(ミクロ/マクロ)からなる4象限である。教育成果については、短期/長期は、学期学年および在学中/卒後5~10年から生涯、と考え、ミクロ/マクロは、学生個人や一学部・一大学/大学生全体・大学全体・社会全体と設定することができるだろう。
このフレームは、教育成果の時間をより長期に想定し、効果の空間範囲も一個人(地域)から社会全体までカバーしている。

このフレームに有用な評価の一例としては、「卒業生調査」がある。卒業生に対して、仕事や生活の実態や大学教育への要望などを定期的に調査することは、重要と考えられ、昨今、文部科学省も推奨している。

■「地元企業ヒアリング」に含まれる本質

そこから思い起こされるのが、当サイトで連載(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)している「学長インタビュー」の最初期に、ある地方国立大学の学長に「教育の成果をどのように調べるか」と尋ねた際の返答だ。

「それは、毎年地元の企業に出かけて、うちの卒業生が元気で働いているか、卒業後2、3年の若手が職場の中でどのような活躍をしているか、聞いて回っているよ。私が直接行けないところは職員に回らせるようにしている。それでだいたいの問題点がわかるよ」

学修成果の可視化・公開という観点からは、こうしたヒアリングだけでは不十分かもしれない。しかし、学長の行動は「大学教育の成果とは何か」の本質をついているように思える。すなわち、「大学で何を教えたか」ではなく「何を身につけたか」、さらには「身につけた力をどのように発揮して社会に貢献したか」が評価されるべきということだ。
しかし現実には、各種の指標は大学教育を短いスパンでコントロールするために開発されたものが多いように見える。そしてまた、それに振り回されている教職員がなんと多いことか。
今、大学に求められているのは、大学人が主体となったアウトプットではなく、社会が求めるアウトカムであることを忘れてはならない。

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