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[新Vol.28] 岡山理科大学

基盤教育改革とポートフォリオ活用で成長実感を醸成

2020/11/06  タグ:  

岡山理科大学基礎DATA

本部所在地 岡山県岡山市
設置形態 私立
学部 理学部/工学部/総合情報学部/生物地球学部/教育学部/経営学部/獣医学部
学生数 6828名(2020年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、基盤教育(教養教育)を軸とする改革に取り組む岡山理科大学で、柳澤康信学長、秦敬治副学長(教育担当)、森嘉久副学長(学生支援・国際交流担当)にお話を伺った。

1.設立以来プラクティカルな人材を養成

柳澤康信学長
秦敬治副学長
森嘉久副学長

岡山理科大学が設立された1964年、日本は高度成長期のさなかにあった。地元岡山の水島臨海工業地帯も拡大期にあり、そこで活躍できる人材の輩出を念頭に、建学の理念は「一人ひとりの若人が持つ能力を最大限に引き出し技術者として社会人として社会に貢献できる人材を養成する」とされた。柳澤康信学長は、「設立以来、プラクティカルな人材養成への思いから、社会で活躍できる人材の教育に力を入れてきた歴史があります」と語る。
近年、教育学部(2016年度)、経営学部(2017年度)、獣医学部(2018年度、今治キャンパス)と学部新設が続き、現在、7学部、学生数約6700人と、地方では大きな規模の大学になりつつあるが、目指しているのは、いわゆる文系の経営学部や教育学部でも理系的なリテラシーを身につける「理工系総合大学」だと柳澤学長は言う。

2.初年次からの教養教育で自己肯定感を醸成

柳澤学長は「本学の学生は、一言で言うと『まじめ』。言われたことは着実に行う反面、視野の狭さがややある」と、その特徴を語り、森嘉久副学長が「学生だけでなく、教員も『まじめ』」と補う。「本学が第一希望ではなかったが、学科は第一希望だという学生が多い。そういう学生の思いに応えようと、教員もまじめに、学科ごと・研究室ごとに頑張ってきたといえます」(森副学長)。それがともすれば「学科縦割り」として弊害を生んできた面もあるのかもしれない。
育成上の課題としてもう1つあがったのが、入学時の自己肯定感の低さだ。秦敬治副学長はその一因として、地元国立大学の「滑り止め」になっている現状を指摘する。「入学して最初の、『この学校に来てよかった』『いい先生たちがいる』というインパクトが大切なのではないかということで、初年次からの教育強化を、専門の先生方にも絡んでもらって進めています」(秦副学長)。

3.縦割り打破による基盤教育の再構築

柳澤学長が2016年に着任したとき、まず改革の必要性を感じたのは「昔の一般教養教育」だったという。1990年代に教養部が解体され、教養教育を担う組織がなくなったことで、その後の教養教育は、やや軽視されてきた現実がある。専門教育重視の傾向が強かったことや、学科縦割りの運営も、教養教育にはマイナスに働いた。
着任以来の改革に、柳澤学長は3つの項目を示している。1番目は「学科縦割り運営、専門教育偏重からの脱却」。2番目は、「『教職員みんなで学生を育てる』という意識改革」。
3番目として、「『基盤教育』に関する強固な企画実施体制の構築」。基盤教育とは、岡山理科大での教養教育の名称だ。
2021年度カリキュラムへの全面的な反映に先立ち、まず組織改革として、教養教育に関わる専任教員40数名が各学部学科に分属していたのを改め、全学組織「教育推進機構」の所属とした。
基盤教育の観点として「こころ豊かに生きる」「知性を磨く」「技能を生かす」の3つを掲げ、そのうち、「こころ豊かに生きる」関連の6科目を、2020年度新入生に対して試行的に導入している。大学生に「こころの科目」は不要なのではという学内的な議論もあったが、実施してみて、学生のニーズが想像以上に大きかったと感じており、次年度以降はより充実させる方針という。

4.目標管理型ポートフォリオを活用

学ぶと働くをつなぐ観点でキャリア教育改革のカギとなるのが、3年ほど前から導入に向けて進め、2020年度入学生から導入したトータルキャリアポートフォリオ=TCPだ。その大きな特徴は、「未来」に自分が将来実現したいこと・目標を掲げ、「現在」において自己管理(マネジメント)していく、すなわち目標管理型のポートフォリオということだと柳澤学長は説明する。
「TCPを取り込みながら、正課教育から準正課教育、課外活動、キャリア支援まで含めて、入学から卒業まで、学生にはいろんな活動をしてもらいたい。内定をとるための力ではなく、社会に出てから発揮できる能力を総合的に身につけさせることを、TCPをひとつのツールにして、これからチャレンジしていきたいと思っています」(柳澤学長)。

TCPの大まかな流れは、まず学生が自分のそれまでの学修記録をもとに目標を入力。次にマンダラチャート(大リーグの大谷翔平選手が使っていたことでも有名になったフレームワーク)で将来の目標を具体的に設定して管理していく。
ポートフォリオの活用には、学生が振り返り・フィードバックが重要だ。秦副学長も、「『入力しておいて』となると、学生はなかなかやらない」と、その仕組みづくりの必要性を認識する。「みんなで集まって、『今日はここまで入れて帰ろう』とか、『来月ここまで入れておいてほしい』とか、チームで、あるいは先生と一緒に、振り返る機会が必要です」(秦副学長)。
そこで、フレッシュマンセミナーに始まり、キャリアデザイン1から4まで、キャリア系の科目を1年次から4年次まで全員が履修する計画としている。ただ、4年間、毎週キャリア教育の授業をすることが効果的とはいえないため、2年生以降は、1カ月に1回、教育学部や理学部で教育実習から帰ってきた後など、タイミングを見ながらの集中講義扱いとする予定という。

入学時に自己肯定感の低い学生を、主体的・能動的な学生に変えていくというキャリア教育こそが、教育改革の本質であり、それをきちんと記録していくのがTCPである。TCPを活用して、「学生情報の見える化」「自分の目標に向けた継続した学び・活動の支援」「一貫したアカデミック・アドバイジング」の体制を整えることが大学の役割だという。

5.成長実感が得られる教育拠点へ

改革に当たって、学内の協力体制などの課題はあまりなかったと柳澤学長は言う。「私が着任したとき、学内の多くが基盤教育改革の必要を認識していたと思います。改革のパワーは学内にあり、多くの人が、役職を担うなどして実践してくれました」。
岡山理科大の教員歴が20年以上という森副学長は、現場の感覚を次のように話す。「ここ数年、定員割れの問題など、学科だけでは対応しきれない問題が蓄積してきました。そこへ柳澤学長が他大学から来られて、全学で取り組むという考え方が方向づけられた。当初は学科側に警戒感もありましたが、『学科独自のことだけでは幅が狭すぎる』『もっと広く、人間的に優れた学生を育成しなければ』というところに教員の意識が変わってきていると思います」(森副学長)。

柳澤学長が着任1年目に公表した「岡山理科大学ビジョン2026」では、一人ひとりの学生が自分の成長を自分で実感できる教育拠点になっていくことが宣言されている。「学生達が『成長できた』『自分の殻を破ることができた』などの実感を得る体験を、大学にいる間にさせたい。TCPも基盤教育も、そのためのツールとして学生に提供するものだと思っています」。
ここには、岡山理科大のような地方の理系大学は、教育・学生支援で強く特徴を打ち出さなければ生き残れないとの認識もある。しかし柳澤学長は、教職員による学生の指導やサポートの熱心さを高く評価しており、学生に成長実感や自己肯定感を持たせる大学への改革は実現できると考えている。「表向きは学長のリーダーシップということになっていますが、4人の副学長と事務局長とで非常にうまく役割分担して、全学的にかなりまとまりができてきました。そういう運営の質を、教育の質、学生支援の質につなげて向上させていくのが、これからのテーマだと思っています」。

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