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学ぶと働くをつなぐ授業拝見[Clip Number 012] 日本大学生産工学部×実習先数百企業・機関

日本大学生産工学部3年次必修科目「生産実習」

2020/12/11  タグ: ,  

日本大学生産工学部の「生産実習」は、学部創設の1966年以来、産学連携で運用されてきた長い経験と実績をもつ独自の「インターンシップ」科目だ。その最大の特徴は、3年次・全9学科の必修科目として、毎年、約1500人もの学生が、国内外の職場で実働10日~20日間(70~140時間)の実習に取り組むことだ。

3年次9学科の1500人が、約800社で取り組む長期インターンシップ

「生産実習」は、生産工学部全9学科の3年生が実働10日間以上、企業や公的機関の実習先で学ぶ、必修の長期インターンシップだ。実習は主に夏休み期間が充てられるが、授業科目としては、事前・事後学習を含め、ほぼ1年間をかけて行われる。


生産実習の授業構成。企業向け「生産実習概要説明書」より


2020年度シラバス抜粋(応用分子化学科)

この科目は、「インターンシップ」が一般的になるはるか以前から、産学連携の実習科目として運用されてきた。インターンシップとしてみると、実習期間が標準10日以上と長期であること、全学生の必修であることが大きな特徴といえる。カリキュラム全体の中では、キャリアデザイン教育とエンジニアリングデザイン教育の2軸からなる生産工学系科目に属し、それらの「結び目」を担う中核的科目と位置づけられている。

事前学習では、学生自らが自己分析や業界・企業研究に基づいて主体的に、成長目標を設定し、その目標に向けて実習先を選択する。また、外部の専門講師などによる講習でビジネスマナーなどを習得、誓約書・自己紹介書を作成して実習先に提出し、さらに学生自身が直接実習先に電話をかけて「受け入れのお礼と挨拶」をする、などのプロセスを経て、実習への態度を醸成していく。


事前学習スライドの例

実習では、日誌作成を通じて日々の取り組みを振り返り、実習先担当者への報告・連絡・相談による気付きを新たな実践につなげて経験学習を重ねる仕組みがある。事前学習で学生が設定した成長目標は実習先・指導教員間でも共有されているので、実習先担当者や教員は、それをもとに指導や目標達成に向けた具体的な支援を行う。
事後学習では、実習全体を振り返り、目標達成度を点検する。また、実習を通じた成果と成長を新たな資源として、将来像を具現化するためのアクションプランを検討する。


事後学習の一環「成果報告会」の模様

約800の実習先企業・機関の多くは、長年実習生の受け入れを続けており、ほとんどにはOB・OGが在籍しているということもあって、実習の目的や意図についての理解度は高いという。OB・OG自身が企業側の実習担当となれば、自身の経験に基づいて「こんな体験が学びになった」「もっとこんな体験ができたらよかった」といった指導をしてくれることもあり、まさに産学連携による人材育成が蓄積した成果といえる。

こうした運用は、長い経験と実績の中で確立してきたもので、学内外で高い評価を受けてきた。ただ、9学科1500人が履修し、ほぼすべての教員がゼミ指導の形でかかわる科目とあって、学科・担当教員ごと、あるいは受け入れ企業ごとに蓄積されたノウハウが共有されにくいことや、運用の手間が膨大なことには改善の余地もあった。その解決といっそうの質向上のため、2019年度に学部としての改革を行った。個人ごとの取り組み状況を実習先・指導教員・実習生間で共有し、目標達成を具体的に支援するオンラインプラットフォームとして「生産実習SYSTEM」を構築するとともに、事前・事後学習のプログラムおよび教材を体系化・共通化するものだ。その内容は、学生向けには「生産実習NOTES」、企業向けには「概要説明書」などにまとめられている。
約120ページの「生産実習NOTES」は、「企業研究」「目標設定」など事前学習用の5つの「ノート」、実習期間中の「日誌」、事後学習の「振り返りノート」で構成され、講義用の「テキスト」ではなく、学生が自律的に作成する「ノート」であると銘打たれている。


「生産実習NOTES」。開いているのは「自己分析ノート(スキル)」の最終ページ

学生自ら「ジェネリックスキル」「テクニカルスキル」の目標を設定

2019年度の改革で意図されたことの一つが「必修であることの弱点」の克服だ。実習先を「自己開拓」するといった意欲の高い学生も多い一方で、「必修だから」という受け身の学生もいる。受け入れ企業から「必修でなくても、あるいは単位にならなくても能動的に参加する他大学の学生に比べ、意欲が低い」と指摘されることもあったという。
そこで事前学習の中で、「ジェネリックスキル(GS)」「テクニカルスキル(TS)」の2つについて、何を身につけるのか、念入りに目標設定し、そのために実習でどんな経験をするのかをできるだけ具体的に描くようにした。
例えば「GS:発信力」を高める目標なら、「実習でどんな経験をすれば発信力を高められるだろうか?」「その経験ができるのはどんな職場だろうか?」と考えを深めていき、「配属された部署から他部署への報告・発表機会が得られる職場」「社外への情報発信を間近にでき、自らも体験できる職場」というふうに具体化していく。
受け入れ先企業にはいっそうの協力を求めることになり、一時的には負担感が増すだろうという。TS、GSの両面で自社(受け入れる職場)の特徴を登録、8段階のルーブリックで評価する項目数の増加など、従来よりも煩雑になる部分もあるからだ。しかし目標の明確化は、学生の自主性を高めると同時に、企業や指導教員にとって、「この学生に何を身につけさせればよいか」といった共通認識のもと指導を助ける効果もある。


「生産実習SYSTEM」より、学生が入力するリフレクションペーパーの一部。実習前に設定する「テクニカルスキル」「ジェネリックスキル」に分かれた成長目標を、実習先・大学・実習生間で共有し、実習を通じての成長を可視化するようになっている

もう一つのポイントが「自己効力感」を高めることだった。改革を担った生産実習委員会の加納陽輔准教授(土木工学科)は、「自己効力感・自信は、学びと成長のサイクルを回していく駆動力になると考え、その伸長を促すには、『生産実習NOTES』の言葉遣い一つひとつに至るまで、非常に配慮しました」と言う。例えば実習日誌の項目を、「うまくいったこと」「うまくいかなかったこと」「自己評価と成長実感」「(うまくいかなかったことを)改善または成功させるための新たな取組(挑戦)」としている。「失敗」「反省」「能力不足」といったネガティブな表現を避け、「成長・成功」を確認して「次の成長・成功への挑戦」に臨む流れを作る意図だ。
岡田昌樹准教授(応用分子化学科)も、「インターンシップ先での経験を通して『できなかった』と感じたことを逆に『のびしろ』と捉えて成長につなげていくような意識づけが、とくに重要だと考えています」と話す。

対自己基礎力、とくに自信創出力が大きく伸長

PROGは3年次の春(2019年4~6月)と秋(2019年10~11月)の2回受検で、職場での実習の前後のスコア伸長を確認している。すると、わずか半年で各学科とも伸長予測を大きく上回るコンピテンシーの伸びが見られた(グラフは「生産工学部全体」)。

特徴的なのが、3つの大分類とも大きく伸びており、とくに対人基礎力・対自己基礎力で伸長予測を大きく上回っていることだ。理工学系のインターンシップ(技術系実習)では、対課題基礎力の伸びが目立つ例が多いなか、この伸長が約1500名という学部全体で学習効果に表れることは特徴的といえる。事前学習で、「自己分析」「目標設定」をしっかりと行っていることや、「ビジネスマナー研修」を手厚く行い、それを実習の場で活用する体験をしていることが、対自己・対人基礎力の向上につながっているといえそうだ。
「実習開始前の挨拶は、必ず学生自身が実習先に直接電話をかけることになっている。こういった学生にとって適度なストレッチを重ね、都度、リフレクションを繰り返すことで基礎力が伸長しているのではないでしょうか」(齊藤和憲准教授・応用分子化学科)。

中分類で最も大きく伸びているのは「自信創出力」で、その小分類は「独自性理解」「自己効力感、楽観性」「学習視点、機会による自己変革」すべてが伸長している。
「自己効力感」を改革のポイントとして重視してきたところから、「この結果は意図どおりで、たいへん嬉しい成果です」と取材に対応いただいた3人は口を揃えた。

改革2年目の2020年度にしてコロナ禍の影響を受け、夏季休暇中に実習が実施できないといった困難もあったが、オンラインプラットフォームである「生産実習SYSTEM」の活用、「生産実習NOTES」による体系的かつ主体的な学習機会の提供、スケジュール変更などの工夫で、おおむね70%以上の学生が職場での実習を通常どおり行うことができた。
「これまでの長い経験と実績で蓄積されたノウハウやネットワークを資源とし、新たな社会的課題と教育的ニーズに挑んだ改革です。今後もSYSTEMとNOTESをプラットフォームとして、経験と実績を重ねることで、成長を支援する側、すなわち実習先も教員も新たな気付きを獲得・共有しながらプログラム全体が進化し、もっと、もっといいものになっていくと確信しています」(加納准教授)。

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