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コロナ禍の授業拝見[Clip Number 002]昭和女子大学

昭和女子大学「ボストンオンラインプログラム」

2021/03/31  タグ: ,  

2020年初頭からの「コロナ禍」において、大学はキャンパス閉鎖を余儀なくされ、すべての活動が大きく停滞することとなった。この事態を受けて今、遠隔授業や、対面と組み合わせた「ハイブリッド」授業、授業以外の学生支援など、”with COVID-19” を前提に、各大学がさまざまな模索をしている。このシリーズではそういった取組事例を、狭義の「授業」に限らず紹介していきたい。
今回は、「コロナ禍の取組取材させてください」にお寄せいただいた中から、昭和女子大学の取組を紹介する。海外渡航がなお閉ざされた中、留学を志す学生がどう学び続けているか、昭和女子大学の海外キャンパスと連携した「ボストンオンラインプログラム」を中心に、小西卓三国際学部英語コミュニケーション学科長にお話をうかがった。

15週間の長期留学プログラムをすべてオンライン化

昭和女子大学は1988年米国マサチューセッツ州に開講した海外キャンパス「昭和ボストン」への長期留学をはじめ、グローバル教育に力を入れてきた。英語コミュニケーション学科の場合、2年次の9月から15+4週間、昭和ボストンに滞在して学ぶBoston Track のUniversity Programを、大部分の学生が履修する。

昭和ボストン長期プログラム

しかしコロナ禍に見舞われた2020年度は、5月半ばに渡航中止を決断。9月から15週間にわたり、日本時間午前8時30分から正午にかけ、昭和ボストンで行われる授業をリアルタイムで受講する「ボストンオンラインプログラム」となった。ボストンとの時差は14時間あるため、現地は夜間となるが、現地の教員たちが日本時間にあわせて授業を行った。
例年のボストンプログラムは、滞在期間中の15週間でSpeaking and Listening、Grammar and Writing などの基本科目(レギュラープログラム)6科目(計12単位)と、英語で授業が行われるリベラルアーツ科目を3科目(6単位)選択して履修するものだ。オンライン化した2020年度も15週間で計9科目・18単位を履修することは同じだが、リベラルアーツ科目は開講科目数を限定して実施されたという。
受講したのは、英語コミュニケーション学科2年生のほぼ全員に、数名の3年生が加わった177人。9月に渡航予定だった学生に加え、4月から2学期間のFSPを履修予定だった学生や、ボストン以外の提携大学に留学(認定留学)予定だった学生たちだ。

レギュラープログラムのうちTOEIC PreparationはTOEIC 595以下の学生が受講。同600以上の学生はIntercultural Communication または Boston Academic Project。リベラルアーツ科目は2020年秋のラインナップ

ボストン留学は、英語力の向上が最大の目的である一方、現地での生活を経験することが非常に大きな意義となる。例えばボストン周辺の地域について学ぶNew England Studies というレギュラープログラムには、史跡を訪ねる現地体験(フィールドトリップ)などが組み込まれている。授業外でも、市民ボランティアがいわゆる「ホストファミリー」のように日本人学生に接してくれる「昭和フレンドシップサークル」や、現地の大学生との交流「カレッジコネクションプログラム」などを、昭和ボストンのスチューデント・サービス(日本でいう学生部)が中心となって提供してきた。
2020年度もその意義を極力損なわないよう、オンラインという制約条件の中でさまざまな試行錯誤がなされた。New England Studiesではボストンの博物館が提供するバーチャルツアーを授業に組み込む、決まった時間にアクセスするとボストン現地の市民ボランティアと交流(会話)できるオンラインミーティングルーム「ドロップインカンバセーション」の設置などだ。

日本にいる学生をボストンからオンラインで15週間にわたって教えるのは初めての試みで、授業が始まってから分かったこともあった。例えば、講義自体だけでなく「今日の課題は次の形式でどこに提出するように」といった連絡もすべて英語で、学生には思いのほか負担になったことがある。もちろん、そうした負荷は英語力を高めるものだが、その場ですぐに質問する、「今なんて言った?」などと学生どうしで確認するなどが簡単ではないオンライン環境では、学生の負荷が対面授業よりも大きかった。そのため、課題の提出方法やその指示の出し方を統一するよう、ボストンのアカデミック(日本で言う教務部)に要望したという。
あるいは、「ドロップインカンバセーション」などの課外アクティビティは、参加した学生の満足度は非常に高かったものの、参加率は期待したほど伸びなかった。現地の日中、つまり日本時間では夜に行ったため、午前中は講義、午後は課題、と取り組むと、夜の参加までは難しい学生が多かったようだ。
これらの改善点は、2021年度前期のビジネスデザイン学科のボストン留学プログラムを含め、今後に反映されていくという。

例年とは異なるモチベーション維持・例年と同様のゴールセッティング

一部の頑張った学生だけが留学できるシステムの大学も多い中、ほぼ全員が昭和ボストンに長期留学できることは、ごく普通の学生にとって大きな魅力であり、それが決め手となって英語コミュニケーション学科に入学してくる学生も少なくない。そのような学生にとって、コロナ禍で渡航できなくなったことのショックは大きかったはずだ。
「当初は『渡航できない』という事実をネガティブに受け止めることしかできない学生も多く、そのまま学びの意欲を失ってしまうことを懸念しました」と小西卓三学科長は語る。いくら嘆いても目の前の現実は変わらないのだから、その中で何ができるかを前向きに考えようと語りかけ、学びのモチベーション維持を担ったのは、2年次の「2年ゼミ」の担任にあたるクラスアドバイザーの教員だ。昭和女子大学では、学科によって名称や実施形態は違うものの、共通してクラス担任的な仕組みを持っており、それが「本学の強みだと思います」と小西学科長も言う。
ただ、コロナ禍で国内でも授業はほぼオンライン化、隔週で行うクラスミーティングもzoomでの実施となった。「学生はボストンではなく日本にいるのですが、キャンパスで我々教員と対面するという通常の状態ではない。学生たちが日本からもボストンからも精神的に距離があると感じさせないように、特に配慮しました」(小西学科長)。
そこで、昭和ボストンに指導を委ねるオンラインプログラムの期間中も、日本側の学科として学びをサポートする狙いで企画されたのが、10分程度の英語の動画を制作する正課外のPBL(Project Based Learning)のグループワークだ。

PBL成果物の1つ、英語でのレポート

昭和ボストンの教員や昭和女子大の敷地内にあるTUJ(テンプル大学ジャパンキャンパス)の学生などへのオンラインインタビューやリサーチなど英語でインプットし、ムービー制作やレポートライティングなど英語でアウトプットすることで、アメリカの現代社会について能動的に学ぶ活動だ。また、グループ内で協力したり分担したりの過程で対人スキルが高まることも期待した。制作した動画は、学年全体でコンペティション形式の鑑賞の場を設け、優秀作品には賞を与えた。
クラスアドバイザーは、リーダー役の学生を通じて定期的に進捗を確認し、学習スキルを指導しながら、オンラインプログラム期間中の悩みや困りごとも吸い上げ、対応するよう心掛けたという。

ボストンオンラインプログラムでもう1つポイントとなったのが「ゴールセッティング」だ。身につけたい力や達成したい目標を学生自身が設定する。さらにそれを定期的に見返しながら、目標に向けて進んでいくことで、学びを充実させるものだ。例年は渡航後に、昭和ボストンのスチューデント・サービスが主導し、フェロー(昭和女子大の卒業生)やレジデントアシスタント(ボストンの大学院生など)と連携して行ってきた。2020年度は、ボストンでフェローを経験して日本に帰国した国際教育の修士号を持つ専門家を中心に、プログラム開始前のゴールセッティング、終了後の英語力およびそれ以外のソフトスキルをどのぐらい獲得することができたのかの振り返りを行った。

教職員も学生も前向きに取り組んだことが成果につながった

ボストンオンラインプログラムに参加した学生の満足度は高く、実際にヒアリングしたところでも、成長実感を持っている学生が多かったという。
6月(オンラインプログラム前)と12月(プログラム後)に実施したTOEICの結果も、600点台の学生が大幅に増えて400点台の学生が減少するといった成果が出ている。小西学科長は「オンラインであっても英語に触れる時間が十分に取れたことで、英語力アップの効果は着実にあった」とし、さらに英語力だけでなくさまざまな力をつけている様子が、ボストンの教員が作成しているpadletからも見てとれるという。

昭和ボストンの教員が、授業の様子や学生の成果物をまとめて可視化した

こうした成果については、日米のキャンパスの教職員が総力をあげて取り組んだことが大きかった。近年、日米の教職員は連携して、昭和ボストンのプログラムの強化・洗練化に努めてきた。ボストンオンラインはその延長線上にあり、「コロナ禍によって学生の学びを止めない」取組であると同時に「教育者として学生がより良い学びの経験ができる機会を提供し続ける」取組と捉えることができる。
「昭和ボストンという仕組のあることの良さを最大限生かして、渡航できない中でも最大限、学生が実になると思うようなプログラムをいかに提供できるかが問われているのだと思います」(小西学科長)。そのように考えれば、渡航した例年のボストンプログラムと、2020年度のオンラインの学びとを比較することに、あまり意味はないのかもしれない。
また、学生が前向きに取り組んだことも見逃せない要因だ。クラスごとにLINEグループを作って情報交換するなど、学修のコミュニティづくりが難しいオンラインプログラムの欠点を、学生自らがテクノロジーを駆使してカバーしていった。そうした積み重ねを小西学科長は「学生は見えないところを含めて、相当頑張った」と評価する。「コロナ禍は、誰が悪いわけでもないし、自分たちだけではなく、誰もが留学はできなかった。もちろん最初はネガティブな気持ちの学生も多かったけれども、それなら社会に出る際の武器を身につけるために、今できることは何だろう、それはすべてやってみよう、というふうにポジティブに切り替えていったことで、学生は大きく成長したと思います」。
プログラム終了後も、延長プログラムの受講やIELTSの受験など、渡航できない分、国内でより多く学ぼうとする動きも見られたという。「ゴールセッティング」を応用して卒業後のキャリアなどを考え、予定していなかったTUJのプログラムを履修したり、国内で行われる英語のコンテストに挑戦したりと、さらに意欲的な学生もいる。
「学生たちは、自分の英語力を高めよう、高いところに挑戦しようといった気概を失っていません。それがいちばんの成果ではないでしょうか」(小西学科長)。

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