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[新Vol. 30] 美作大学

県外から学生が集う、教育力にこだわる地方小規模大学

2021/03/04  タグ:  

美作大学基礎DATA

本部所在地 岡山県津山市
設置形態 私立
学部 生活科学部
学生数 897名(2020年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、地方の小規模私立大学として教育力強化に取り組み続ける美作大学で、鵜﨑実学長にお話を伺った。

1.中国山地の“陸の孤島”でスペシャリストを養成

美作大学が立地するのは岡山市からJRで1時間40分ほどの津山市。鵜﨑実学長は「しかも津山線は1時間に1本程度。中国山地の“陸の孤島”」と言う。そのため、地域外からの学生を積極的に募集し、約75%が県外出身者となっている。
美作学園の沿革をたどれば、1915年(大正4年)に裁縫技術者・小学校裁縫教員養成を目的として設立された津山高等裁縫学校に行きつく。その後、1951年に短大、1967年に大学を設置。2003年に共学化して現名称となり、現在は、生活科学部1学部3学科(食物学科、児童学科、社会福祉学科)に約900名の学生が在籍している。
管理栄養士、社会福祉士、保育士、小学校教員、介護福祉士など、地方社会の暮らしを支える人材育成に特化した大学として、「食」「子ども」「福祉」の3つの分野で活躍するスペシャリストの育成に力を注いでいる。

2.教育力を打ち出して他県から学生を募集

他県(地元以外)からの学生募集を成功させる基本戦略として、次の4つの取組を行ってきたと鵜﨑学長は説明する。
戦略1は、圧倒的な教育力を持つこと。「圧倒的」とは例えば、社会福祉士や管理栄養士の国家試験合格率が、全国の国公立大学の平均を上回るといったことだ。
戦略2は、専門職への就職率ならびに故郷(出身県)へのUターン就職の実現。「Uターン就職率を高めるために、全学を挙げて教員が就職開拓訪問を行い、中四国地方数県との就職開拓協定も締結しています」。
また、資格取得に必須の学外実習・臨地実習を、学生の出身県で実施する取組も行っている。しかも、他県でも実習先まで教員が実習指導に赴くという手厚さだ。
戦略3が、「個々の学生に寄り添う面倒見の良い学生指導」。退学率が年間1.6%と全国平均2.7%に比べて低いことも、「面倒見の良さの見える化」だと鵜﨑学長は言う。
戦略4は、広報宣伝による知名度のアップで、これらの結果、「教育の美作」と評判を呼ぶようになってきた。

3.地方小規模大学だからこその密接な関係性

「陸の孤島」であることは大学運営上のハンディだが、「逆に大きなアドバンテージかもしれない」と鵜﨑学長は言う。学生それぞれが地域とつながりやすくなるからだ。交通事情もあって、県内出身者を含めほとんどの学生が津山に住み、アルバイト先も津山市内。「みんなが地域とつながりながら生活している。津山がキャンパス、学びの場になっている」。
しかもその中心は、人間関係の濃密な大学だ。「例えばクラブ、サークルの加入率も8割以上で、2つ3つと入っている学生も少なくない。簡単に言えば、アットホームという言葉が本学の特徴。学習面でも、集まってお互いに学び合うグループ学習の風土がある。得られるものは知識だけではなく、友達の頑張りを見ることです」。
加えて教員も、学生との距離が近い。鵜﨑学長は、関係が密であることの効果をこう説明する。
「学生が気楽に『先生これ、やりましょうよ』と言ってくる。言われれば教員は『よし、一緒にやろうか』となるものです。つまり教員は、学園の管理職に働かされているのではなく、学生によって働かされている。そこにあるのはやらされ感や義務ではなく、自主性です。
この良さは、絶対に損なってはいけない。学生と共に歩む教員という基盤があって初めて、『教育の美作』は成り立っていると思っています」。

4.「地域・学生・教員」による就業観育成

美作大学の学生は、「家の近くのあの保育園に就職したい」「あの病院の社会福祉士になろう」というふうに「働く」の具体的なイメージを持っていることが多いという。その一方で、仕事の中身という意味での職業理解には甘いところがあると、鵜﨑学長は課題感を抱いている。
「例えば保育士になるためには、子どもがかわいいだけではすまないし、食べ物を作るのが好きだとかいうだけでは、栄養士になることとは距離がある。ですから、その職業のために大学でどういう学びをしなければならないかを、学生自身に理解させることが、まずもって先決だろうと考えています」。
ここでも「地域」「学生同士」「教員」の密な関係性が活かされる。地域の中では、暮らしを支える専門職の人たちの話を聞くことができる。現場経験者が多く揃う教員も、仕事に即した教育ができ、1年次から仕事の意義などを徹底的に教え込む。そのことで、学生は学びの大切さを理解し、意欲を高めていく。
さらに効果的なのは学生同士の関わり、とりわけ先輩の語りかけだという。「先輩の声は、自分の明日なんですね。自分も明日の姿をイメージしながらいますので、教員が語りかけるより格段に説得力が高い。伝えることは、地域の人たちの健康であるとか、あるいは福祉のサービスをいかに届けるかというような、仕事に臨む思いがまず一つ。もう一つは、大学の学びがどう今につながっているのか。1年生の時から『先輩講話』を比較的多く、なるべく全体に取り入れるようになっています」。

5.資格取得対策は委託せず、理念を1年生から

美作大学が、社会福祉士、管理栄養士などの資格取得対策を本格的に始めたのは15 年ほど前だ。資格対策を外部に委託する大学も多いなか、美作大学は、大学の教員が1年生から4年生まで対応している。「専門資格の学びは、1年生から始まっている。国家試験に合格するための学びは、その延長線」という考えからだ。例えば福祉がいかにこの世の中に求められているかの理念を1年生2年生に教え込むのも、4年生になって試験に合格させる責任を持つのも教員だ。
「現場経験のある教員に教え込まれた理念は根っこになり、幹となる。学生たちがグループ学習でお互い学び合うことで、枝葉が伸び、大きな茂みを作っていく」と鵜﨑学長は表現する。
共に試験に臨む仲間だけでなく、先輩の役割も大きい。「先輩講話は1年生にも行っていますが、4年生への講話になると、国家試験のこの時期は何を勉強していた、模擬テストの点数はまだ5割台だった、焦っていたというグラフまで出てきます。そういう生の話を先輩から聞くと、すごい刺激を受けるんですよ」。

とはいえ、国家資格の取得課程には多くの条件があり、自由度が低い。美作大学のカリキュラムも、他大学と大きな違いはない。だとすれば、入学者の学力に幅のある美作大学が、卒業時には国公立を上回る成果をあげている秘訣は何なのか。
「それはやはり、教員と学生との距離と、学生間の密なる距離。人間関係が形成されているということなのです」。

6.津山高専と共同で社会課題にチャレンジ

地方小規模大学ならではの強みを活かして教育成果を上げてきた美作大学だが、今後の課題や抱負もまた、地方の小規模私立大学が生き残れる方法の模索につきると鵜﨑学長は言う。
「少子高齢化に向かい、地方の18歳人口がますます減っていくなかで、どういう手があるか考えていかなければ。地域が設立した経緯から特定のオーナーのいないこの大学を、地域の人たちがどのように守っていくのかという話を、公立化の議論も含めてしている最中ですが、なかなか難しくて」。
官尊民卑の風土が追い打ちをかけ、地域活性化でも国立の岡山大学を頼ろうとしがちで、地元私立の美作大学を活用する発想になかなかならないのも、悩みの種という。

鵜﨑学長は、「困難な課題を抱えており、その解決に工夫が必要な地方こそが、国際的な広い視野を持って社会に貢献できる人材を育成する必要がある」と、グローバルにも目を向ける。その観点から2018年、津山工業高等専門学校と共同で、世界の共通目標SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて取り組むことを宣言した。
鵜﨑学長は、「地方の人材を育てるとはなんぞやということが背後にはあります」と話をしめくくった。

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