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[新Vol. 36]横浜国立大学

「学生IR」で学生の主体的な学びと教育改善活動を推進

2022/07/14  タグ:  

横浜国立大学基礎DATA

本部所在地 神奈川県横浜市
設置形態 国立
学部 教育学部/経済学部/経営学部/理工学部/都市科学部
学生数 7160名(2022年5月1日現在)
AP 2014年度テーマII「学修成果の可視化」

APに関連する横浜国立大学の活動

社会(企業)が学生(新入社員)に求める能力レベルが高まる傾向にあるなか、大学が取り組むべき教学改革は、学生(学修者)本人に対しては学修成果を可視化し、社会に対しては卒業時質保証を行うことだろう。その取組があってこそ、学生は最終学歴となる「学びのゴール」に到達すると同時に、「働くことのスタート」に立つことができるのだ。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開してきた(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。Vol.33からは、2019年度まで行われてきた大学教育再生加速プログラム(AP)事業において高い評価を受けた事例の、その後の取組について紹介していきたい。
今回は、2014年度採択のAPテーマII「学修成果の可視化」の取組が事後評価でS評価を獲得した横浜国立大学で、谷地弘安理事(教育・情報担当)・副学長と市村光之教授(大学院教育強化推進センター)にお話をうかがった。

1.学士力と就業力、2つの視点での可視化




谷地弘安 副学長
(教育・情報担当理事)



市村光之 教授
(大学院教育強化推進センター)

横浜国立大学では2008年度前後から教育改革に着手。いわゆる3ポリシーにFDの推進を加えた「YNUイニシアティブ」の策定、「YNU学生ポートフォリオ」システム導入などを経て、2014年度に大学教育再生加速プログラム(AP事業)テーマII「学修成果の可視化」に採択された。
事業は4つのフェーズからなり、フェーズ1は「授業設計方法と成績評価の改善」による教育課程の体系化。フェーズ2は学士力、フェーズ3が就業力の可視化。フェーズ4は、学生が自分の学びを振り返るポートフォリオの仕組みを構築し、主体的に学修行動改善PDCAサイクルを回すことを目指した。

AP事業の実施責任者の谷地弘安氏(教育・情報担当理事/副学長)は、「学士力と就業力と、2つの視点での可視化」が独自性の1つと言う。学士力の可視化は、ディプロマ・ポリシーで定義した4つの実践的「知」に沿って、就業力の可視化は、経済産業省の社会人基礎力をベースに、オリジナルの自己チェックシートをそれぞれ作成した。
学生の主体的な学びが目標のフェーズ4では、学士力・就業力の可視化ツールを含む学生プロファイル機能を独自開発し、既存の「YNU学生ポートフォリオ」を改修して組み込んだ。
学生が学務情報システムで履修登録を行う際、まず学生ポートフォリオの「学生プロファイル」が表示され、学士力または就業力の自己チェックシートを入力しないと、履修登録の画面に進まない。市村光之氏(大学院教育強化推進センター教授)は、全数調査が実現したことが大きな強みと言い、こう続ける。「GPAなど、ここで収集した以外のデータも紐付けて分析できるよう、AP事業の一環として『学生IR』を推進しました」。
横浜国立大学では、より学生にフォーカスしたIRというコンセプトで、教学IRを「学生IR」と呼んでおり、谷地氏は「データを収集・分析して教育改善に結びつけ、学生が主体的に学ぶようになることで、入学前から卒業後まで各段階での質保証の課題を克服できないかという考えに基づいています」と語る。

学修成果の可視化に関して、「あくまで学生が主体的な学びを構想するための基礎データ」という強い姿勢もこの事業の特徴で、学生の個人データを教員が閲覧することはできない。「本学のポートフォリオの本来の目標は、主体的な学びの醸成。教員が見ると、ツールの意味が変わってしまう。導入時に意見を聞いたところ、『見てもらう方が書くのにも励みになる』という学生もいましたが、『教員に見せる前提だったら本音は書かない』という学生も多かったのです」(市村氏)。

2.攻めのFD活動で学内への浸透を目指す

事業を推進していくにあたっての懸念は、学内でAP事業が「他人事」と捉えられがちなことだった。そこで、事業全体の実施体制として、副学長(教育担当)を議長とし各学部の教務担当委員長が参画する、通称「APチーム」を設置。各学部とAPチームとがつながることで、取組をプロジェクトメンバーに閉じずに、学内に広げていく体制を作った。
また、年に2回、各学部の教授会の中で短時間のFDセミナーを開いた。「セミナーを企画して待っていても、多忙な教員は来られない。そこで、多くの教員が集まる教授会に出向く『攻めのFD活動』をしました」(市村氏)。

3.教育改善のPDCA が自然に回るように

横浜国立大学はAP事業テーマIIの採択8校中唯一のS評価を得た。その成果を市村氏は「全学生が、学士力・就業力という複眼で自身の学修成果を確認できるようになった。教員は、全数調査のデータを基にして議論し、FDに活用できるようになった」と総括し、「高大接続から卒業後までの学生IR体制の確立も、1つのモデルとして有益と思っています」とも言う。学生IRによる具体的な分析結果や得られた知見も、取組成果といえるだろう。その分析結果をいかに教員に活用してもらい、教育改善に結びつけていくかが、次の課題だ。

もう1つの課題は、最大の目的である「学生の主体的な学びのデザイン」をいっそう推し進める施策だ。補助期間終了後の事業継続そのものともいえる。「例えば学生ポートフォリオの中に、学業や学業以外で頑張ったことなどを学期ごとに自由記述する『振り返りシート』があります。就職活動でもよく聞かれる項目を1年次から記録し、考えてもらう意図です。今年度からその利用実態の把握と活用促進に着手しています」(市村氏)。
補助期間終了後の展開としては、心理アセスメント「BEVI(Beliefs, Events, and Values Inventory)」の試行導入がある。「動機、価値観、信念など、本人が自覚しにくい意識面を可視化することで、学修成果の可視化を補完している」(谷地氏)という。加えて、2021年度には大学院にも学生プロファイルを導入し、学部生と共通の就業力可視化を行っている。

取組の全体像(事業終了後)

谷地氏はAP事業を振り返って次のようにまとめた。「APで取り組んだ内容は、特別なイベントではなく、当たり前のこととして学内に浸透しています。しかしそれが単なるルーチンになってしまわないのは、市村先生らのチームが、弛まぬ改革の意思を持って色々な仕掛けをしているからです。組織の整備と、現場での先生方の働きが合わさってこそ、教育改善のPDCAが回っていくと思います」。

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