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[新Vol. 37]東日本国際大学

ICEルーブリックを通じた学生との学修目標の共有

2022/10/12  タグ:  

東日本国際大学基礎DATA

本部所在地 福島県いわき市
設置形態 私立
学部 経済経営学部/健康福祉学部
学生数 870名(2022年8月3日更新)
AP 2016年度テーマV「卒業時の質保証」

APに関連する東日本国際大学の活動

社会(企業)が学生(新入社員)に求める能力レベルが高まる傾向にあるなか、大学が取り組むべき教学改革は、学生(学修者)本人に対しては学修成果を可視化し、社会に対しては卒業時質保証を行うことだろう。その取組があってこそ、学生は最終学歴となる「学びのゴール」に到達すると同時に、「働くことのスタート」に立つことができるのだ。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開してきた(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。Vol.33からは、2019年度まで行われてきた大学教育再生加速プログラム(AP)事業において高い評価を受けた事例の、その後の取組について紹介している。
今回は、2016年度採択のAPテーマV「卒業時の質保証」の取組が事後評価でA評価を獲得した東日本国際大学で、中山哲志学長と関沢和泉教授(高等教育研究開発センター 副センター長)にお話をうかがった。

1. 学生との学修目標の共有化に課題感

中山哲志学長_

東日本国際大学は福島県いわき市にあり、経済経営学部と健康福祉学部の2学部。学生が約800人、専任教員40数人の小規模大学である。2016年度採択のAP事業テーマV「卒業時の質保証」開始にあたり、「学生との学修目標の共有が課題」との意識は2学部に共通していたという。健康福祉学部の学部長を兼任する中山哲志学長は、社会福祉士などの養成課程を持つ学部特性を踏まえこう説明する。「就職後の現場では、専門性の高い知識を幅広い視点でさまざまな状況と結びつけて活用する能力が必要となります。しかしその必要性は、国家資格試験に向けて膨大な知識の修得に追われる学生には見えにくくなりがちなのです」。
経済経営学部についても「スポーツ系の学生や留学生など、学生の背景が多様であることもあり、授業目標の共有が難しいという問題意識がありました」と話すのは、2014年度から全学の教学改革に関わり、AP事業の設計などにも携わった関沢和泉教授(高等教育研究開発センター 副センター長)だ。

2. 「つかむ、つなぐ、つかう」を身につけるICEモデルとは

東日本国際大学のAP事業の最大の特徴である「ICE(アイス)モデル」は、この「学生と学修の目標を共有しやすいこと」を1つの理由として採用された。
ICE モデルに基づく「ICE ルーブリック」は、Ideas、Connections、Extensionsという3 要素に学修目標を整理する「質的ルーブリック」だ。カナダのクイーンズ大学でスー・ヤング博士らが発展させてきたもので、東日本国際大学では、ヤング博士のアドバイスを受けつつ「Ideas、Connections、Extensions」を「つかむ、つなぐ、つかう」と訳すなどカスタマイズし、導入を進めていった。
一般的な量的ルーブリックには、段階の表現設定が難しい、「評価の観点×評価段階」のマトリックスが大きく複雑になりがち、などの問題がある。「ある概念を『定義する(ことができる)』、複数の概念を『比較する』といった『動詞』の分類表を利用して質的に段階を設定するICEルーブリックを使うと、この問題が回避でき、学修目標も『Iの知識をCで組み合わせ、Eで活用する』と学生に共有しやすくなると、導入しました」(関沢教授)。

3. 抽象的なDP をICEモデルで構造化

この簡素で分かりやすい枠組みは、教員の授業設計にも活用される。「ディプロマ・ポリシー(DP)にしばしば使われる『批判的思考力』『課題発見力』などの表現は、理念的・抽象的で必ずしも分かりやすくはない。そこでこれを『〜できる』という『Can-Doステートメント』に分解したうえで、コンピテンシーの表現バンクを作りました。それを各授業に組み込んでいくイメージです」(関沢教授)。
例えば「コミュニケーション力」という抽象的なDPは、「ある表現を相手の反応に応じて別の表現で言い換えることができる」といった具体的なCan-Doに分解される。各教員は表現バンクを参照しつつICEルーブリックに授業目標を整理し、授業の各回においてさらに具体化する。各授業の現場での改善が教育プログラムレベルでの改善と結びつき、初年次科目から卒業年次科目に向かって「つかむ」から「つかう」へと質的に発展していく構造化ができる。ICEモデルを使ってこのような可視化の仕組みを作り、教育プログラムとして卒業時の質保証をしていくのがAP事業の全体像となる。


事業の実施は、関沢教授をはじめ10名前後の教職員からなるAP推進室が中核となり、教務委員会と連携して進めていった。ICEモデルを全学の全授業に定着させる過程は「4年かけてゆっくり進めた」と言う。「副学長のアイデアで、授業の到達目標をまず『〜できる』の形に書き換え、1サイクル授業を実施したのちにICEの形で整理する、2段階のステップを踏みました」(関沢教授)という慎重さも功を奏し、大きなトラブルなく最終年度の2019年度に実装は完了した。

4.分かりやすいICE モデルを通じて学生とのやりとりも活発に

A評価を得たAP事業について、関沢教授は主な成果を4つ挙げる。「ICEモデルを使った内部質保証体制が確立できたことが第一。第二に、外部評価委員会と深く議論し、地域の多様なステークホルダーとの連携が強まったこと。第三に、学生とのやりとりが活性化したこと。4つ目は、他のAP採択大学との連携です」。中山学長は、AP事業終了後もその成果の継続と深化を感じると言う。「その思いをさらに強くしたのが、新型コロナ対応時の経験です。新たにオンライン授業のシラバスを作り上げるにあたり、ICEモデルを中心にした質保証のプログラムは多くの教員の拠り所になったように思います」。
続けて中山学長は、教員の「応答力」を高めることが課題と指摘する。「点数化しにくい能力を質的に高めるには、日常的なゼミや授業の中での質的な応答のあり方が強く関係すると考えています。FD・SDのさらなる充実を図ることが大事だと思います」。

最後に今後の改革の方向性について、主に「学ぶと働くをつなぐ」観点から中山学長に語ってもらった。
「本学の学生たちは大学で学んでいることを、この地域に役立ちたい、ということに繋げて捉えていると思っています。我々以上にこの地で震災を感じているからです。将来の生き方として自分にどういう役割があるのか、地域の再生・復興を図っている社会人の方々との関係の中でつかんでいっていると思います。大学として、地域の方々のご意見を大事にしながら、学生たちの思いに応えていくことが大切だと考えています」。

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