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自校で重点的に育成する能力を「4つの力」にまとめ 客観的な数値で生徒の成長を確認

大阪教育大学附属高等学校平野校舎|いま高校で進む「学ぶと働くをつなぐ」動き

2023/03/27  タグ:  

大阪教育大学附属高等学校平野校舎

◇所在地:大阪市平野区
◇創立:1972年
◇卒業者数:2022年3月卒業生117名
◇卒業生の進路:国公立大41名/私立大49名/専門学校1名/その他26名

「ジェネリックスキル」「社会に出て直接生きる能力」の育成は近年、高校教育にも広がっている。ここではその好事例として、大阪教育大学附属高等学校平野校舎の取組をご紹介する。
目前の大学進学のみにとらわれず、その先の社会人としての活躍を見据えた能力開発の取組は大学さながらだ。学校全体のミッション「グローバル人材の育成」と、そこから導き出した教育目標「4つのコンピテンシー」は、大学でいえば、教育理念やディプロマポリシーと読み換えることができるだろう。指導法を「平野メソッド」としてまとめて教員間で共有していること、PROG-Hを用いて定量的に成果検証していることなど、大学におけるキャリア開発支援にも参考になる点が多い。
河合塾の高校教員向け進路情報誌「Guideline」*の「探究のポイント」は、「総合的な探究の時間」や各教科で「探究」を実践する上でのポイントを、高校事例などから見ていく連載記事である。2022年4・5月号の第12回の改訂版を、河合塾および大阪教育大学附属高等学校平野校舎の許諾を得て掲載する。同校舎の堀川理介副校長に記事を改訂いただくとともに、お話を伺った。
* https://www.keinet.ne.jp/magazine/guideline/index.html

探究のポイント

「4つの力」を育成するカリキュラムを作り、探究活動の指導方法を『平野メソッド』として体系化して学校全体で取り組む、大阪教育大学附属高等学校平野校舎を紹介する。

大阪教育大学附属高等学校平野校舎の「探究のポイント」

  • 自校で育成したい「4つの力」をPROG-Hと対応づけ、カリキュラムの成果を検証
  • 探究学習に必要な指導ツールをまとめた冊子を使い、探究学習の指導を平準化
  • “学び方を学ぶ”授業を第1学年に展開することで、探究学習への意欲を高める

グローバル人材に必要な要素を「4つの力」として集約・整理

大阪教育大学附属高等学校平野校舎(以下、平野校舎)は2015年度からSGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)に採択され、探究学習として3年間の体系的な「課題研究」を実践してきた。SGH事業は2018年度に終了し、2019年度からその後継事業として「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」が開始されたが、平野校舎は2020年度からWWL拠点校にも採択されている。

松田雅彦 主幹教諭_

SGHでは「多面的に“いのち”を考えるグローバルリーダーの育成」をテーマに掲げた。しかし、それを具体的な教育実践につなげるには、グローバルリーダー、もう少し裾野を広げるならばグローバル人材の定義を明確にする必要があった。
「そのためには、コンピテンシー論が必要だと教員全員が認識していました。つまり、グローバルに活躍している人が持っている能力を整理することができれば、その能力の育成をめざしたカリキュラムの展開が一つの指針になると考えました。そこでPROGテストの結果や生徒対象アンケートの結果、教員が日頃の教育活動で感じとっている本校生徒のさまざまな資質・能力などをもとに、教員全員で議論しました。その結果、紡ぎ出されたのが『4つの力』(コンピテンシー)〈図1〉でした」とWWL推進委員長で主幹教諭の松田雅彦先生は振り返る。

〈図1〉平野校舎で重点的に育成する「4つの力」(コンピテンシー)

こうして、グローバル人材の育成を学校全体のミッションに掲げ、「課題研究」の目的をグローバル人材に必要な「4つの力」の習得と明確に打ち出し、スタートを切ることができた。
「4つの力」とは「課題解決力」「コミュニケーション力」「多文化理解力」「セルフマネジメント力」だが、それでもまだ抽象的であることから、さらに一つ一つの力を分析し、「課題研究」だけでなく「教科」の学習においてもめざすことができる具体的ないくつかの力をあげることで、さらに教員間のコンセンサスを得た。

「平野メソッド」を確立し、それを基に2段階で学習

SGHは、第1学年、第2学年で「課題研究」をそれぞれ2単位設定し、第1学年では地元大阪や日本の社会課題に関するテーマについて、第2学年では東南アジアなど海外に視点を広げたテーマについて、それぞれ探究に取り組んだ。また、第3学年では、第1・2学年での研究成果を一人ひとりが論文にまとめた。
当時は課題研究の指導経験をもつ教員が少なかったため、指導方法や指導ツールなどを探りながら進めた。こうして蓄積された指導実践はやがて「平野メソッド」〈図2〉として確立され、2019年3月に教員が用いる指導用冊子にまとめられた。

〈図2〉「平野メソッド」の全体構成図

(http://hirano-h.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/method2)

WWLに採択された2020年度以降の課題研究は、「グローバル探究」に名称を変えた。ミッションや目的に大きな変化はないが、最初に探究の進め方を学んだ方がスムーズな活動につながると考え、第1学年では、「平野メソッド」をベースに、探究活動に関する“学び方を学ぶ”授業をより系統的に実施し(1単位)、第2学年では、第1学年での学習を踏まえて、グローバルな課題に関する探究をこれまで以上に生徒が自主的に進められるよう工夫した(2単位)。
WWL1年目の授業実践で見つかった課題に対して、2年目以降、いくつかの改善を加えた。「たとえば、テーマ設定や考察においてデータの活用や先行研究などの文献調査が足りない研究がありました。そこで、ファクトベースで論理的に考えてもらうため、第1学年で学校設定科目として実施している『データサイエンス基礎』との連携を進め、データによる考察に関する学習を充実させました。3年目は、さらに、データや先行研究の調査内容を互いに発表し合うなどの工夫を加えることにしています。また、2年目以降、第2学年で実施する学校設定科目『イノベーティブシンキング』においても、探究における論理展開力とは別に、課題そのものへの発想力を鍛える内容を組み入れて実施しました」

チームワークの意味を実感でき、進路意識にも影響する課題研究

「グローバル探究」の具体的な内容は以下の通りだ。第1学年の「グローバル探究Ⅰ」では、探究活動の流れに沿って学び方を学んでいる。探究活動には、チームをつくり、合意形成しながら論理的に探究を進め、ポスターや論文として発表するという流れがある。「平野メソッド」にはそうした流れの各場面で必要な力を育むツール(たとえばKJ法、ロジックツリー、マンダラート、論理ピラミッド、NASAゲームなど)が満載されており、指導する教員は適宜それらのツールを使って、1年間かけて探究の“方法”を教えている。
一方で、SDGsに関する身近な話題についても、チームごとに探究活動を行う。SGHでは「格差・貧困」「健康・医療」「防災・減災」などを主なテーマとしていたが、現在もそれらを踏襲しながら、さらに幅広いテーマ設定も可能としている。

第2学年の「グローバル探究Ⅱ」になると、第1学年で学んだ探究の“方法”にしたがって、グローバルな社会課題について探究活動を実施している。
「本校の探究活動では、チームでの活動を特に重視しています。1チームは4人を目安に、3人以上で構成します。“チーム”と“グループ”の違いは、目的・目標の有無です。“グループ”は目的を持たないために人間関係が優先されて閉鎖的になりがちですが、“チーム”は目的を持つため異なります。目的遂行のために、自分ができることを考え、提案し、協働していく中で、チームワークの大切さや協働性を学んでほしいと考えています」

第3学年の「グローバル探究Ⅲ」は、2年間の探究活動の成果を一人ひとりが研究報告の形でまとめ、将来の学びにつなげる活動を行っている。
「探究活動は、進路決定にも大きな影響を及ぼしています。課題研究に取り組む中で、解が見つかりにくい課題に、他者と粘り強く協働しながら取り組んだ経験を通して、自分たちの研究について自信を持って説明できるようになったり、将来取り組みたい研究分野が明確になったりする生徒が増えました。課題研究は、その意味では、キャリアデザインにも通じる教育活動だと思っています。また、学校推薦型選抜や総合型選抜などでの進学を考える生徒も増えており、たとえばSGH1期生が卒業するときの学校推薦型・総合型選抜での入学者は7人に1人でしたが、毎年増加し、2021年度は4人に1人でした」

グローバル探究の一部を部活動にして、海外の高校生との交流を推進

SGHとWWLの最大の違いは、学校間でネットワークを作って学び合いを行うことにある。2021年度はWWLの一環として高校生国際会議をオンラインで開催した。ただ、1学年120名の生徒全員で企画することは難しく、興味関心の高い希望者を中心にして、企画・運営を進めることになった。
それが「グローバル探究プラス」と呼ばれる取組だ。部活動のような形態をとり、週2回、有志で放課後に集まり、グローバル課題について議論したり、英語のスキルを高めたりする活動を展開している。そこには海外交流アドバイザーも参画し指導助言を行っている。2022年1月に国際会議を開催したが、「グローバル探究プラス」の生徒が英語で司会を行い、見事に会議を運営することができた。

WWL拠点校の活動には、「グローバル探究」や独自の学校設定科目に加えて、複数の海外研修も含まれている。計画では第1・2学年の希望者を対象に「カンボジアフィールドワーク」と「ニュージーランド研修」が用意され、第2学年は全員が「タイ研修」に参加することになっていた。ところが2年続きのコロナ禍で、カンボジアフィールドワークとニュージーランド研修はオンラインで行い、タイ研修は国内での研修に変更されている。
「特に全員参加のタイ研修は、現地で活動するNPOやNGOの協力も仰ぎながら、さまざまなフィールドワークを行う本校独自のプログラムを開発しているため、生徒への教育効果は非常に高いものがありました。『4つの力』のうちのセルフマネジメント力を鍛える上でも、多文化理解力を獲得する上でも有効だった行事ができないことは、残念でなりません」

客観的な指標を使うことで生徒の成長を正確に評価

探究学習がどのように生徒の成長を促しているのかを正確に把握するのは難しい。だが、平野校舎では、育成したい力として、コンピテンシーベースの「4つの力」を掲げ、「学びみらいPASS」のPROG-Hで測定できる力と対応づけたことで、変化を可視化することができるようになった。
例としてSGH指定2年目に入学した学年について、第1学年と第3学年でのPROG-Hの結果を比較すると、「4つの力」の「コミュニケーション力」に関係する親和力や協働力、「セルフマネジメント力」に関係する感情制御力や自信創出力、「課題解決力」に関係する課題発見力や計画立案力などが、いずれも向上していることがわかる〈図3〉。

〈図3〉PROG-Hで見る、平野校舎の「4つの能力」の伸び 5段階評価

「これらの数値は、高校全体と比べるとかなり高く、特に課題発見力や計画立案力、親和力は大きく伸びています。教員の感覚ではなく、数値できちんと把握することでカリキュラムの有効性が確認できますし、同時に教員がしっかりとプログラムの趣旨を踏まえて指導している証にもなっています」
平野校舎では毎年度、職員室に自分たちの学年が行った取組を一覧表にして書き込むWWLカレンダー(かつてはSGHカレンダー)を作っており、それを次の学年団に共有している。全教員が全学年の取組を熟知した上で、各学年団が当該学年の生徒にあった指導が展開できるよう改善を加えている。こうした細かい工夫の成果が数値にあらわれているともいえる。

グローバル探究での取組を教科学習に応用する試みも

今後の抱負として、松田主幹教諭は、「グローバル探究」で学んだ探究の方法を教科学習にも応用して、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」を高めるような教科の授業への展開をあげる。
たとえば、松田主幹教諭が担当する保健体育では、「課題解決学習としての体育授業」を謳い、23時間で行うサッカーの授業のうち4時間は座学にしている。最初に試合を行い上手くいかなかった原因をKJ法で明らかにし、個人の課題とチームの課題を整理して優先順位の高い方から3つ選び、さらにロジックツリーを使って原因分析を行うことで、課題解決のための練習方法を考えていく授業構成にしているという。
公民の授業では、企業が設定しているような生理休暇を高校でも認めてほしいとする請願書を生徒たちが作成した。その請願書をまとめるにあたっても、マンダラートやロジックツリー、論理ピラミッドなど「平野メソッド」の手法を駆使して論理を展開させている。
物理の授業でも、教員の発問に代えて、問いづくりのツールで生徒が問いを作り、NASAゲームの手法を使って重要だと思われる問いをチームで選び、答えを各自で探す。自分たちが発した問いなので、学びが主体的になり、問うことを繰り返すうちに本質的な問いに近づくという。
「何か問題があると、すぐに集まってミーティングを行うなど、探究活動を通して習得したコンピテンシーは、教科の学習だけでなく、部活動を含め生徒のあらゆる活動に反映されています。教員が教える教育から、生徒が自分で学ぶ学習へと脱却させる上でも、『平野メソッド』に基づいた課題研究のプログラムは非常に有効で、将来的には、生徒の自学自習をベースに授業を組み立てていくような学校の姿も思い描いています」

【Q&A】なぜ「4つの力」を目指したのか
どんな困難を経て、生徒はどう変わったのか

SGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)採択校での「課題研究」、WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)拠点校での「グローバル探究」を通じた一連の取組について、Q1.取組前の課題認識、Q2.取組中の困難、Q3.取組後の成果、の3点を堀川理介副校長にお尋ねした。

聞き手:近藤賢(「キャリアの広場」編集部)

Q1.この取組は、「グローバル」でまず連想しがちな英語力やその他基礎的な教科学力ではなく、「4つの力」を主眼としているのが特徴の1つだと思います。コンピテンシーに注目するきっかけとなった出来事や、生徒をご覧になっていての日常の課題感などがあったのでしょうか。

堀川理介 副校長_

堀川:生徒の強みと弱みを理解するために、高校生版PROG-Hを実施し、その結果を議論の材料としました。PROG-Hのスコアからは、対課題基礎力、とくに計画立案力が弱みであることや、対人関係のストレスに弱い傾向が分かりました。教員アンケートと照らし合わせると、約6割が附属小・中出身という本校生徒の特性から、いろいろな背景の人が交じった場面で弱みが出るのではないかと思われました。一方で、本校の生徒は自分の意見を述べ、主張することは得意ですので、強みとしてさらに磨きたいと考えました。こうした検討を経て、弱みを克服する「課題解決力(A)」と「セルフマネジメント力(D)」、強みを伸ばす「コミュニケーション力(B)」、さらにグローバルリーダーに必要な「多文化理解力(C)」を加えて「4つの力」の設定に至りました。
PROG-Hの導入は、系列である大教大の教員からの情報がきっかけでした。非常によかったのは、「モデル社会人」との比較によって本校の生徒が伸ばすべき資質・能力が明らかになったことです。また、「対課題基礎力」のように今まで教員が意識していなかった課題が発見でき、教員間で共有することもできました。これらの力を身につけるためにどのような言葉がけや授業法がよいのかを考えるよいきっかけになりました。

Q2.「課題研究」「グローバル探究」について、「この授業に何の意味があるのか」「入試に出るわけでもないのに」などの疑問や反対はなかったのでしょうか。

堀川:本校の生徒は探究的な活動を重視した授業に慣れていることから、比較的抵抗なく受け入れられたと思います。とはいえ一部の生徒や保護者から、大学入試を意識した訴えは確かにありました。「課題研究」は、それまで学年ごとに行っていた「総合的な学習の時間」を3年間一貫した授業としたもので、他の教科科目の授業時間を減らすことはなかったのですが、発表会前などは放課後や自宅で取り組む場合もあり、その他の学習に影響があったかもしれません。2年目以降は、教員間でカレンダーを共有して、「課題研究」の発表と定期考査の日程を離すなど、生徒の負担が大きくならないよう調整できるようにしていきました。
現在では、「グローバルリーダーの育成」ならびにそのための「4つの力」の習得は本校のスクールミッションとして掲げており、そのことを理解した生徒が入学してくるためか、不満の声は聞かれなくなっています。

Q3.「4つの力」を伸ばす取組を通じて、生徒の進路やキャリアにはどのような変化が見られましたか。

堀川:「グローバル探究」をきっかけとした将来への目的意識の高まりは実感しています。社会課題解決への明確な意識をもつ生徒が増え、関連する分野を学ぶことができる大学・学部への進学を希望する生徒が増えました。
もう一つ、多くの卒業生が口にするのは、「大学の学び方には高校で経験したことも多く、とても役に立っている」ということです。大学での授業やゼミなどの学びに、探究学習で学んだ手法を活用する場面が多いのではないかと思っています。

―――大学に進んでみて身につけていた力を実感するわけですね。同様に、社会人になっても「高校のあの授業がいま生きている」と、グローバル人材としての活躍に役立つのかもしれませんし、そうであってほしいですね。
また、このように高校段階でコンピテンシーを高めてきた学生を上手く受け止め、さらに伸ばしていくことが、大学側の課題だと思います。

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