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[Vol.13]嘉悦大学における就業力育成の取り組み

「働ける大学」は学生に火をつける

2013/09/11  タグ:  

嘉悦大学基礎DATA

本部所在地 東京都小平市
設置形態 私立
学部 経済経営学部/ビジネス創造学部
学生数 1300名(2013年5月1日現在)

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、産業界との連携や地元自治体との協働によって学生の就業力を高めることに成功している取り組み事例などを、積極的に紹介していく。

今回は、初年次教育への注力とともに、「働ける大学」を標榜した実践的なキャリア教育で注目される嘉悦大学で、赤澤正人学長と遠山緑生准教授にお話をうかがった。

0.嘉悦大学の就業力の現状:課題認識

嘉悦学園は、日本初の私立女子商業学校としての開校から今年110周年を迎える。創立者・嘉悦孝が掲げた校訓は「怒るな働け」。他人や社会のせいにすることなく、自ら働け、行動せよという実学の精神である。
「現在の実学的な授業の取り組みも、その精神を形にし続けているものだと思います」と赤澤正人学長は語る。男女共学の4年制大学は2001年に開学、その後2008年に、慶應義塾大学総合政策学部初代学部長、千葉商科大学学長などを歴任した加藤寛氏が第3代学長に就任し、今日に続く改革が始まった。
改革の背景にあった課題の一つが、中退者が年間100名を超える水準であったことである(2008年当時)。中退させないためには、大学という場も、大学での学びも「楽しい」ものである必要があるし、本来そのようなものであるべきだという意味で、「楽しくなければ大学ではない。楽しいだけでは大学ではない」というモットーが掲げられた。

1. キックオフラリー~初年次教育

「大学に行くことが楽しいと思わせるにはどうしたらいいか。初年次教育などの授業改善はもちろん、『学生が友だちが作れる』『学生がいる場所がある』などの仕掛けが必要だと考えたのです」(赤澤学長)

嘉悦大学「学生のコミットによる大学の活性化」概要

そんな仕掛けの一つに、体験型オリエンテーション「キックオフラリー」がある。入学式「前」という珍しい日程は、「友だちがいない最初の1週間」をいかに縮められるかを考えての設定だ。
「キックオフラリーは、毎年少しずつ趣向を変えていますが、2013年の場合、教職員が写真入りの名刺を用意して研究室や各センターで待機し、新入生がそこを回って『名刺コレクション』をするイベントから始めました」と説明するのは遠山緑生准教授(情報メディアセンター長)だ。「学校に来た最初の瞬間にさっと2、3人をグループにして、名刺コレクションに行かせるんです。そうすると否応なく携帯番号の交換とかが始まり、とりあえず2、3人は知り合いがいる状態ができます」。友だちづくりに加えて、キャンパスマップが頭に入り、教員・職員との心理的な距離も近くなる。一石二鳥も三鳥も狙う設計だ。
初年次教育は、「基礎ゼミナール」「ICTリテラシー」「外国語」が3本柱だが、特に注力するのが基礎ゼミだ。1クラス30人から40人で、担任制度をとっている。「コミュニケーション力とコラボレーション力を鍛えつつ、キャリアデザインをする」と位置づけられる基礎ゼミを象徴する授業が、NPO法人カタリバ(大学生による高校生のキャリア教育を支援している団体)と合同で実施されている「カタリバ」だ。1年生全員が体育館に集まり、先輩や他大学の学生も含む同世代の人たちと、自己紹介から始まって、自分の考えや将来の夢などを自由に語り合う場だ。楽しいイベントであると同時に、コミュニケーション演習としての効果が高い。

2. 「働ける大学」という仕掛け

「例えば初年次からのいろいろな学びが、就職の時期を迎えたときに希望の企業・業界に行ける実力に結びついているという自信を持ってほしい。そういう『自信に裏付けられた高いモチベーション』を持つことが非常に重要だと考え、生きた社会との関わりを早い段階から体験させ、実学を身につけさせて自信につなげることに取り組んでいます」(赤澤学長)
教職員たちはこれを、「学生に火をつける」と表現する。「火がついた」学生が実際に行動に出ようとするとき、そこに用意されているのが「働ける大学」という仕掛けだ。
「オープンキャンパスの準備、入学式・卒業式の会場設営など、学内で発生する仕事に、ヒューマンリソースセンター(HRC)という学生人材派遣部門から、登録している学生が派遣されます。全学生の5分の1にあたる約300名が、HRCに登録しています」(赤澤学長)
派遣するHRC自体の運営も学生が担い、学内行事関連以外にも、ライブラリースチューデントスタッフ(LISS)と呼ばれる図書館業務や、PCサポートを行うヘルプデスクでも、学生が働いている。
さらに、SA/TAも学生の「仕事」だ。SA(スチューデントアシスタント)は学部生、TA(ティーチングアシスタント)は大学院生で、授業中の質問対応をはじめ、講義全般にわたって学生をサポートする。新たにSA/TAになった学生を先輩がトレーニングする、お互いに情報交換をして業務の質を向上させる、なども、学生自身が運営するSA/TAワーキンググループが行っている。

HRCの登録学生もSA/TAも、もちろん給料をもらって働いている。「働ける大学」の看板に偽りはない。ちなみに報酬の設定は、2008年のスタート時、SAは1コマ90分で3000円。それ以外の職種は、都内のコンビニで時給900円台が相場というので時給950円。現在は、職種、習熟度に応じて、時給に若干の差をつけている。
「学内だからといって、給与も下げるけれど質も下げていいよって言っちゃダメだと思うんですよ。ちゃんと世間並み以上の給与を出すから責任持ってやれ、と言える金額は出さないと。学生と学校と、両側に甘える構造が発生するのを防ぐある種の規律として、ほんのちょっといい給与を払うのが、制度設計上は重要なフレーバーだと思います」(遠山准教授)

3. 表れ始めた質的変化

課題だった中退者は減少しつつある。特に1年次の中退者は、ここ数年で半分ぐらいに減っているとのことだ。
とはいえ、この種の取り組みの成果は質的変化として表れるものであり、なかなか数字では測りにくいものだ。遠山准教授が質的変化を実感するのは、「学生がいる場所」づくりの仕掛けである「24時間キャンパス」の光景だという。「夜遅くまでラウンジに学生がいて、なにやら楽しそうにやっている。作りたかったその光景ができたことが、最大の成果だと思っています」。

さらに、「学生たちが学校にコミットしてくれるようになった」ことも成果として挙げる。例えばSA/TAプログラムの展開は、まさに授業改善へのコミットメントだ。
「SAプログラムはFDとして非常によく機能しています。SAの学生は、毎回授業後に、今日の授業はこうでしたというレポートを、業務の一環としてSA全体に向けて出すんです。それを教員が見たときに、自分の授業なら授業評価になっているし、他の授業ならその様子が非常によく伝わってくるし、いずれも非常に参考になります」(遠山准教授)

4. 高校現場にどう伝えるか

当面いちばんの悩みは、さまざまな取り組みが募集力に結びついていないことだという。特に2012年新設のビジネス創造学部は、通常よりも一歩二歩踏み込んだ形のインターンシップを2年次から行う「プロジェクト科目」などの意欲的なカリキュラムにもかかわらず、学生募集の面では苦戦している。「例えば企業の方々には高い評価をいただいているんです。ところが高校の先生方には、なかなかわかっていただけない」(赤澤学長)。
また、運用上の課題として赤澤学長が挙げたのは、基礎ゼミ担当(担任)の負担が比較的少人数の若手教員に集中しがちなことや、1年次の基礎ゼミの担任と2年次からの専門ゼミやプロジェクト科目の指導教員とを、いかにうまくつなげていけるか、ということだ。

長期的な課題としては、こういう教育スタイルが合わない学生が伸び悩むのではないかという懸念がある。遠山准教授は基礎ゼミ担当の立場から、「今のプログラムやシステムに馴染めない学生はどうすればいいか」を問題視する。「基礎ゼミやICT科目をクラスシステムで運営することによって、一人ぼっち問題というのはだいぶマシになるんですけれども、一方で、あまりにもそちらにプログラムを振りすぎてしまったので、クラスに馴染めないと本当に居場所がなくなってしまうという、次の問題が発生しています」。
赤澤学長は今後の課題を、「火のつかなかった学生にどうやって火をつけるか」だと総括している。

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