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[Vol.14]長崎大学における就業力育成の取り組み

教養教育の再生から始まる改革

2013/11/05  タグ:  

長崎大学基礎DATA

本部所在地 長崎県長崎市
設置形態 国立
学部 教育学部/経済学部/医学部/歯学部/薬学部/工学部/環境科学部/水産学部
学生数 7613名(2013年5月1日現在)
就職率 92.9%(2012年度)

長崎大学の取り組みのあらましについてはこちら

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、産業界との連携や地元自治体との協働によって学生の就業力を高めることに成功している取り組み事例などを、積極的に紹介していく。

今回は、国際社会のリーダーを育てるために教育を大胆に変えるという「教育改革宣言」を行い、戦略的な取り組みを続ける長崎大学で、片峰茂学長にお話をうかがった。

0.長崎大学の就業力の現状:学士力のベースとしての「教養教育」

長崎大学が教育改革の目標に掲げた「国際社会のリーダー育成」は、産業界はもちろん日本の社会全体が求める、ある種の就業力育成事業と考えられる。片峰茂学長はさらに「東京ではなく地方がそれを育てるのがキーワード」と強調する。
長崎大学は昭和24(1949)年に新制大学としてスタートしたが、その前身は旧制長崎医科大学、長崎師範、長崎高商といった専門学校だ。このため、8学部を持つ総合大学でありながら、理学部、文学部、社会学部、法学部がいずれもないという独特の学部構成になっている。さらに97年度には、教養教育を担っていた教養部がなくなった。その後もリベラルアーツや数学・物理など基礎科学分野の教員が減っていき、「リベラルアーツと言われても、教える人がおらん」という状態だったと片峰学長は言う。

こうした「反省」もさることながら、社会の要請に応える人材育成を行い、地方の国立総合大学としての基盤を再構築するという「前向き」の問題意識が教育改革宣言への出発点だったという。
「中教審では『学士力の保証』という話が出てきた。やはり、学士力のベースになる教養教育はきちっとしないといかんと。しかし、具体的に考えていくと、東大・京大・九大のような、文学部等々、あるいは教養学部がある大学と同じものは作れない。長崎大学モデルの教養教育を作ろうというのが1つの結論でした。
もう1つの結論は、そうは言っても、新しい教養教育を作り上げるコアとなる教員集団は必要だということ。これは新学部構想にもつながっていきます」

1. モジュール方式の導入

長崎大学「学士教育改革」概要

2011年度に策定された「長崎大学 学士教育改革 元年」には、大きく3つのラインで取り組み内容が示されている。第1のラインは、世界レベルで活躍する学生を育てる教育そのものである「世界標準学士課程教育創生」だ。
「このライン上に、『21世紀型学士課程教育=アクティブラーニングによる主体的学修力の涵養』というものを考えたわけです。ただ全体を一挙にやることはなかなか難しいので、学長主導でまずは教養教育改革をやって、それを専門教育に波及させようという戦略です」
すでに2012年度から実施されている大きな柱が、「全学モジュール」と名づけられた教養教育だ。アクティブラーニングの手法を積極的に導入した6~7科目をまとめて「モジュール」とし、1年次の後期から1年半にわたって展開する。
「例えば、経済経営系の科目をまとめたモジュールを医学部の学生が取れば、経営に明るい医師が育つ。これはアメリカなどのカレッジでいうサブメジャーに近い考え方で科目をまとめたタイプのモジュールです。
テーマに関連する学際的な科目群を入れ込んだタイプもあります。分かりやすい例としては、『核兵器のない世界を目指して』。核爆発や核分裂についての物理学的な科目もあれば、国際関係論の中で核兵器とは何かという科目もある。長崎の被ばく者は何を考えているのか、被ばくの健康影響なども学ぶ」

全学モジュールには、全教員1000人弱のうちの約200人が各学部から参画している。この200人の教員を、片峰学長は「教育改革のコアとなる教員集団」と見込んでいるわけだ。授業開始から約1年の現時点では、E-learningの利用時間・回数が学生・教員ともに飛躍的に伸びたり、アクティブにディスカッションする工夫がしっかりとされているモジュールは2年目の受講希望者数が増えたりと、好影響といえそうなものもあるが、まだ学生も教員も戸惑いのほうが大きいようだという。
「モジュールあるいは科目ごとに学生の成績分布が大きく違うとか、学生の満足度に大きな差があるとか、やってみてわかった課題を、一つひとつ修正している段階です」

2. ドライビングフォースとしての新学部

2つめのライン「国際レベル語学力創生」は、グローバル人材育成に欠かせない語学力(英語力)強化だ。2012年度からは、新設した「言語教育研究センター」のマネジメントによって4年間一貫した英語教育を行うことになった。英語の教員数を倍増、IT学習システム「CALLシステム」も導入している。
3つめのライン「世界標準学部システム創生」は、秋入学、学長主導の人事システム、授業の英語化、教員の多国籍化など、学部の仕組みそのものの改革を指す。2014年度開設予定の新学部「多文化社会学部」で先行的に導入し、既存学部に拡大していく戦略だ。

新学部は「長崎大学教育改革のドライビングフォース」という観点で見ることができるが、もう一つ「長崎大学が他の大学と差別化され、光り輝くために何が必要か」の観点もあると言う。長崎の特性といえば、日本の西端で大陸とも近いという地理があり、幕末の出島などの国際交流、原爆被ばくといった歴史がある。それらと真正面から向き合う学問の場として、2014年度新設に向けて「多文化社会学部」の計画が出来上がっていった。長崎の歴史や地政に根付く「オランダ」「中国」、それに、長崎大学が熱帯医学研究所を中心にケニアなどで長い活動実績を持つ「アフリカ」を加えた3つがキーワードだ。
全面的なアクティブラーニング、海外留学はほぼ必修、教員の多国籍化、講義の半分は英語、正課の授業を1年次の後期に開始する準秋入学制、徹底的な英語力強化を中心とする入学から半年間の「トランジション・プログラム」――。教育改革のモデルケースにふさわしい要素が盛り込まれた新学部は、グローバル人材育成、学士力保証、学修時間の確保・増大など、「文科省が望む改革要素がほとんど入っている」ものになった。そのため、「長崎大学教育改革のドライビングフォースと位置づけてきたものが、今では日本の国立大学改革のドライビングフォースという位置づけに変わっているんですよ」と片峰学長は言う。

3. 意思決定のプロセスを改革

学長が主導する改革の過程では、ときに「(学長の表現によれば)強行突破」もあったというが、一方で、それほど大きな困難はなかったとも学長は言う。「というのは、学長に就任して最初に、大学としての意思決定システムを作ったんです。案件ごとに学長室にワーキンググループを作り、その答申を受けて、学長が提案するというものです」。ワーキンググループの設置、学内外にわたる人選、答申などは常にオープンにされる。このプロセスを踏むことで、比較的スムーズに改革を進めることができたのだろう。
それでも残る最大の困難として、片峰学長は「教員の皆さんの意識改革」を挙げた。
「学生にフェイストゥーフェイスでやっていただく先生全員、同じレベルの高い意識でやっていただかないと。新しい学部の先生たちだけが頑張って、後の人たちは知らんぷりとかいうのでは困るんですよね」

4. 課題は改革の継続

「国際社会のリーダー育成」は、卒業生が社会に出て行く数年後以降に成果が問われるが、英語力があり、海外経験を積み、専門教育も身につけた学生となれば、民間企業での就業力という意味では十分だろう。
「だけどそれだけではなくて、国内外の大学院にも進んでほしいし、国際機関、国際NGO、あるいは大学などの研究者・教育者として頑張る人材が、1割とか2割とかは出てほしい。そうでないと、国立大学としてはどうなのかという話ですよね」
片峰学長は今後についてこう語る。
「モジュール型の教養教育や新しい学部が、長崎大学の個性として光っていくだろうという確信はあるんですけれど、それにどう魂を入れていくか、あるいはどう継続して成果を出していくかを考えていく必要があるでしょう。
こういう根源的な改革は、すぐに成果が出るものではないし、そもそも何を成果というのかも難しい。ただ、大学自体がアクティブになることは大事で、『何か動いている』というその雰囲気が、幸い、今の長崎大学にはある。僕はそれがプラスに働いて、この改革は進んでいくと思います」

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