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今後の継続・発展に前向きな声が多数

「産業界のニーズ~事業」に関するアンケート:調査結果と考察

2013/12/24  タグ: ,  

角方正幸(リアセックキャリア総合研究所所長/「就業力の広場」責任者)

当「就業力の広場」ではこの度、「産業界ニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」に関するアンケート調査を企画した。選定校で本事業に携わる皆様のご意見から、間もなく事業計画最終年度(3年目=2014年度)を迎える本事業の意義や課題を考察し、今後の取組の参考とすることを目的としたものである。

まずは授業改善、次に産業界の連携

まず事業の効果・成果を実感として尋ねたQ1「産業界ニーズ事業によって、以下の取り組みは、貴学内でどの程度改善されましたか」では、各項目ともおよそ7割以上が「(かなり、少しは)改善された」と回答。「4.総合的に」では「(かなり、少しは)改善された」との回答が93.9%にのぼった。

また、本事業の主要な柱と考えられる3つの項目について見てみると、「かなり改善された」の多い順は「1.アクティブラーニングやPBLなどを活用した授業改善」「3.産業界との連携強化・連携促進」「2.インターンシップの高度化」となった。

「1.アクティブラーニングやPBLなどを活用した授業改善」は「かなり改善された」が26.5%と3項目中最多だったが、これは、産業界との連携が重視される本事業においてもなお大学人が「授業こそ大学の本分」と考えていることの表れのように思われる。あるいは、外部との連携が始まり、大学の役割が問い直されてこそ「大学にしかできないこと」「大学だからこそできること」の自覚が進んだという面もあるのかもしれない。また、企業との協働が必須となる「インターンシップ」や「産業界連携」に比べて、大学内だけで取り組むことも可能(もちろん外部の協力があればさまざまな選択肢が広がるが)という、実際的な事情もありそうだ。

「3.産業界との連携強化・連携促進」は、「かなり改善」「少しは改善」の合計で「授業改善」を上回り、成果の実感の高さは「授業改善」とほぼ拮抗するレベルといっていい。それに比べて「2.インターンシップの高度化」は、「かなり改善」がわずか8.2%、「少しは改善」との合計でも7割を下回り、「授業改善」「産業界連携」とは開きがある印象だ。おそらく「インターンシップの高度化」は、「授業改善」「産業界連携」の土台の上に成り立つものだからだろう。

「授業改善が事業のメイン」という大学人の思いは、Q2「以下の貴学内の産業界ニーズ事業における取り組みについて、今後、どの程度改善する必要があると思いますか」からも読み取れる。9割近くが「(かなり、少しは)改善された」と感じている「1.アクティブラーニングやPBLなどを活用した授業改善」が、今後改善する必要のある要素でもトップだからだ。「かなり改善された」が、そこで満足しているわけではなく、まだまだ「かなり改善する必要がある」という回答なのである。

企業との連携・協働がより必要な「インターンシップ」「産業界連携」となると、必要性が「少しは」に後退する様相だ。しかし、改善の必要が「ない」という回答もほとんどないことを考え合わせると、必要性が低いというより、どんな改善に取り組み、そのゴールとして何を(どんな成果を)得るのかという像がはっきりしていないために「改善の必要」を強く感じにくい、という要素もあるように思われる。

連携事業に予想外の成果? 嬉しい誤算?

Q5「産業界ニーズ事業の意義について、どの程度賛同しますか」は、「大いに賛同する」が63.3%と多数を占めた。戸惑いや抵抗感を覚えたり、是々非々のスタンスを取ったりする人が3割以上はいると見ることもできるが、本アンケートの回答者(本事業に直接的にかかわる教職員)には「大学という学問の場は産業界とは一線を画すべき」といった考えは薄く、事業に何らかの意義を見出しているようだ。
また、地域別に見ると「北海道・東北」「東海・北陸」で賛同の度合いがやや低く、「関西」「九州・沖縄」でやや高いという「西高東低」の傾向があった。

Q6「産業界ニーズ事業終了後(平成27年度以降)、現在、貴学内で実施している関連事業について、継続していきたいですか」からも、本事業への肯定的な評価が読み取れる。「既に継続が決まっている」「決まってはいないが是非継続したい」がともに約4割、「予算などの条件が整えば継続したい」が約2割で、「継続したいと思わない」はゼロだった。

Q7「産業界ニーズ事業を継続するとした場合、どのような形式で継続が望ましいと思いますか」では、「どちらかといえば」という消極的な回答が多数とはいえ、6割以上が「大学間連携」に肯定的な姿勢を示したことはやや意外だった。これもやや「西高東低」の傾向である(大学間連携を望む度合いが「北海道・東北」「関東」でやや低く、「関西」「九州・沖縄」でやや高い)。

事業開始当初から、それぞれの独自性・独立性を重んじる大学という組織同士が連携することにはさまざまな困難が予想された。また、これほど広域の、14~23という多数の大学が国公私立の壁を越えて連携する事業には前例がなく、各校の抱える課題なども異なるうえに実務的な困難も加わり、連携による成果・効果を得るのは難しいのではと思われたからだ。

しかし蓋を開けてみると、ブロック内のすべての連携校、例えば20校が密に連携して成果を出すことは確かに難しかったが、地域ごと、もしくはテーマごとの7~8校程度のサブグループでは連携が機能したようだ。ブロックごと、サブグループごとに内容や頻度は違うが、ノウハウや情報の交換・共有、FD、相互の授業見学などの活動状況が伝わっている。本アンケートに限らず現場からの日頃の声として、「従来は交流のなかった他大学との交流のきっかけが得られてよかった」ということもよく聞いた。
また、この事業は従来の大学教育を変える「改革」であるので、必然的にこの事業に関与する教職員は「改革派」として学内で少数派になりやすい。少数派だからといって必ずしも多数派と敵対するわけではないが、少なくとも、情報が得にくかったり、「話せる相手」が学内にはいなかったりという問題はある。大学間連携はこの問題を解決(緩和)する一方策ではあったのだろう。

この設問への回答は「幹事校」「副幹事校」「それ以外」に分けても大きな差が出なかったことも書き添えておく。幹事校だからメリットが大きいとか、逆に手間ばかりかかって何のメリットもないとかいうことは、それほどなかったようだ。

Q8「産業界ニーズ事業について、それぞれどのように思われますか」では2つのことについて聞いた。

Q5で事業の意義に賛同し、Q6では何らかの形で継続したいと考え、しかし予算などの条件が整わなければ……といったことをまとめると「1.今後も文部科学省で予算化し、事業継続して欲しい」に9割以上が「(とても、やや)そう思う」と回答するという結果になる。また、「2.現在は、一部の学部や先生の取り組みで、全学的な動きになっていない」、だからもう少し時間が必要、そのために予算的措置もあれば……ということでもあるのだと思われる。

自由回答欄には前向きな声が多数

Q9「産業界ニーズ事業についてのご意見やご要望がございましたら、どのようなことでも結構ですので、下記にご自由にご記入ください」からいくつかの回答を紹介する。

●何らかの成果を実感する声

「大学間連携や大学と産業界との連携に関しては、予想以上に良い成果があげられている。一方で、学内教職員への認識の浸透には課題が多く残されている。しかし、学外からの評価が得られる機会を得られたことは、学内への浸透にも寄与することが考えられ、意識改革にもつなげる可能性が広がっている。このような事業の継続を希望している。」
「このような取り組みがなければ、本学の教育改革について本気で取り組む環境も人もなかったと思います。今後も継続していきたい取り組みだと確信しています。」
「このような機会を与えられたことにより、学内に新しい動きが出てきているので、今後も継続を希望します。」

●一方で問題点の指摘も

「産業界ニーズ事業の結果の検証が非常に重要であると考えています.」
「大学連携の在り方について、文部科学省は一定の評価基準を明確に示し、遵守されているか確認してほしい。一部の大学・事務局の意向が強く反映されすぎると、参加意欲を損なわれる大学がでてきてしまっている。公式に発表される議事録ではその現状が把握できないので、特に事務局の在り方について、ルール化の必要性を感じる。」
「大学が産業界の要望に応える,という前提にいささか違和感があった.これからの日本・地域の将来を担う人材を育成するために産学官がどのようなかたちで協力すべきか,という課題は今後も継続して検討・実践していかなければならないと考える.」
「GP終了後、大学の専任教員が、主体的かつ能動的にキャリア教育を実施・継続していくための効果的かつ具体的な方法が見つかっていません。予算の問題もありますが、専任教員のみでの実施と継続が本当に可能かどうかも不安を感じております。」

●長期的な取組みが必要との意見

「産業界ニーズは3年間の予算で終わることなく、その重要性から後継事業を文科省予算でお願いしたい。」
「予算化という意味では長い目で自立化していくことが大事だと思うが、産学対話や大学間連携の枠組みは今後も長く継続していく事が重要である。」
「産業界との連携は実質2年間しかなされていないので、ある程度長期的に取り組まないと効果が出にくく、かつ、産業界との結びつきを強固にすることも難しいのではないかと考えている。」

まとめ

アンケートを通じて、多くの回答者(事業担当者)が本事業を肯定的に評価し、前向きに取り組んでいることが分かった。「産業界のニーズに対応した」人材育成ができたかという最終的な事業評価はまだできる段階ではないが、アクティブラーニングやPBL、インターンシップの高度化、産業界との連携強化を各大学で進める(もしくは、始める)効果がこの事業にあったことは確かだろう。そのような「動き」の実感が、事業への肯定的な評価と、今後の継続希望につながっていると感じた。
大学間の連携も同様で、「教育改善・充実体制整備」というテーマに関心を持つ者同士が、大学の垣根を越えて集まり、議論する場ができたことには大きな意味があった。事業を継続するなら今後も大学間連携を前提にしたいとの声は、この事業があったからこそ生まれた連携を体験し、それを貴重なものとして維持・発展させていきたいという意図だろう。

事業自体も大学間の連携も、非常に意味があるとはいえ、まだ緒についたばかりである。そこから確かな成果を汲み上げるには、長期の継続性が必要となる。それもまた現場の担当者がもっとも実感していることであると、このアンケートは物語っている。

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11月中旬からの調査実施にあたっては、事業に選定された大学・短期大学174校のうち、「就業力の広場」を運営する株式会社リアセック キャリア総合研究所が直接コンタクトできた115校の事業担当者115名(1校1名)にご協力をお願いし、49名の方から回答をいただいた(回収率42.6%)。
ご協力いただいた大学・短期大学の皆様に改めてお礼を申し上げる。

《回答集計データはこちら》
「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」に関するアンケート
回答集計(全体および地域別)

http://www.riasec.co.jp/hiroba/sys/wp-content/uploads/2013/12/sneeds_enquete_report20131224.pdf

 

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