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[Vol.16]東京外国語大学における就業力育成の取り組み

グローバル化を牽引するための取組

2014/03/25  タグ:  

東京外国語大学基礎DATA

本部所在地 東京都府中市
設置形態 国立
学部 言語文化学部、国際社会学部
学生数 3816名(2013年5月1日現在)
就職率 89.0%(2012年度)

東京外国語大学の取り組みのあらましについて

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、産業界との連携や地元自治体との協働によって学生の就業力を高めることに成功している取り組み事例などを、積極的に紹介していく。
今回は、外国語および外国研究(foreign studies)をベースに各業界・各地域に人材を輩出してきた伝統を持つ東京外国語大学の立石博高学長に、グローバル人材育成に注目が集まる社会状況も踏まえてお話をうかがった。

0.東京外国語大学の就業力の現状:課題認識

東京外国語大学が卒業生のキャリアパスを解決の必要な課題として認識するようになったのは、5年ほど前だという。早稲田大学国際教養学部、秋田の国際教養大学など、英語力を意図的に強化する先進的な取り組みを行う様々な私立大学が卒業生を出し始め、その就職率・就業力の高さが注目されるようになったのが2008年ごろ。
立石博高学長は「そのころから、他大学の動きに加えて文科省の大学設置基準改正もあり、本学がグローバル化を牽引する大学となっていくためには、伝統を守りつつ人材輩出の取り組みをさらに強化しなければならないという流れが、自然とできてきたと思います」と言う。

1. グローバル・キャリア・センター創設

こうした状況を受けて2011年度に、グローバル・キャリア・センター(以下GCC)が設立された。キャリア開発授業の提供、国内・海外のインターンシップ、求人情報の提供、キャリア相談など、キャリア関連の機能が集約されている。


グローバル・キャリア・センター キャリア開発講座
http://www.tufs.ac.jp/campuslife/careersupport/about/kaihatu_koza.html

「外国語に強い人材を必要とする分野は広汎にわたるため、本学の特徴として、ここが就職先として強いということが言えないのですね。3割程度はメーカーですが、その他は1割から1割5分ずつ、各業界に散らばっている。GCCがそれぞれのニーズにきめ細かに対応できているというところに、大変意味があるのです」
開講科目の中で目を引くのが、2011年度に始まった「グローバルビジネス講義」「グローバルビジネス演習」だ。「どちらも学生の反応は非常にいいですよ。講義はかなり受講率が高いと思います。演習は少人数制ですが、インドネシア、ベトナム、マレーシア、シンガポールの4カ国で実施される海外インターンシップに参加する学生も多くおります」。
東京外語会寄付講義「地球社会に生きる―社会人からのメッセージ」は、OB組織「東京外語会」の提供により、卒業生が実体験を語るリレー講義。2005年に開始したものを現在はGCCで統括している。

2. 豊かなキャンパスライフ

キャリア開発関連授業の充実と同時に重視するのが、「いかに豊かなキャンパスライフを送らせるか」だと立石学長は言う。
「各大学が就業力強化に取り組んでいると思いますが、『知育・体育・徳育』の3つのバランスという観点からすると『知育』に偏って、つまり、知識を与えることによって就業力がアップするような、狭い取り組みが多いのではないかと感じております。
学生たちは4年間のキャンパスライフを通じて、人間的な豊かさを培っていくわけですから、大学における行事、課外活動、ボランティア活動などを含めて、学生たちの積極性、主体性を培うべきだと思っております」
この観点では、約3800人の学生定員の中に600人近い留学生がいるキャンパス環境は、東京外語大の強みといえる。9割以上の学生が在学中に半年ないし1年留学したいと希望し、実際に約6割が留学を経験するということもそうだ。
「社会に出ると重要な要素になってくる社会関係資本、単純に言えば人と人との付き合いが、留学を含む4年間で自然と作られていくのではないでしょうか」

学生が豊かなキャンパスライフを味わう最大のイベントが、「外語祭」だ。大学の学園祭は2~3日の日程が一般的だが、外語祭は5日間にわたる。2年生による言語ごとの「語劇」を27の言語すべてで上演するために、どうしても必要な日数という。
「外語祭」は2012年の「学園祭グランプリ」(「レッツエンジョイ東京」主催)で優勝。2013年は、3位に入賞したほか、国際貢献サークル「W-Win」が特別賞を受賞した。指定のメニュー1食につき20円が開発途上国の学校給食事業に寄付される「Table For Two」を1年生が出店する各国料理店で展開したことが受賞理由だ。
「こういうボランティアやフェアトレードなど、外国と関わる活動を一所懸命やる学生たちが大勢いる。私はうちの学生たちのそういうところは非常に好きですね」
また、トラブルや事故防止のために飲酒を禁止する学園祭もある中、外語祭では「アルコールパスポート(アルパス)」が「名物」の一つとなっている。入口でもらう「アルパス」に、酒類を飲む(買う)たびにスタンプを押し、スタンプ欄が埋まったらそれ以上は買えないシステムだ。
「2008年から学生たちが自主的に始めたものです。こういう、お互いに議論しあい、今年も頑張ろうとかいう中で、自主性や積極性が育成されていくのではないでしょうか」

3. 課題はトップリーダーの育成

外国部学部1学部のみだった東京外語大は、2012年度に言語文化学部と国際社会学部の2学部体制となった。語学のイメージが強い看板を、言語文化と産業界・実業界で国際的に活躍する人材の輩出という本来の理念が伝わるものにかけかえたのだという。
2学部再編に伴い強化されたことの一つが、学べる言語・地域の充実だ。言語はベンガル語を新たに加えて27言語、地域は、オセアニア、中央アジア、アフリカを含め14地域となった。もう一つの改革は、各地域言語の学習の一方で、英語力(グローバルイングリッシュ)を強化すること。歴史、文化、社会に関する英語による授業も充実させた。

これらの改革は、全体のレベルの底上げの面が強いが、その一方で、「グローバルリーダー養成プログラム」(仮称)を検討中だという。
「近年は、トップリーダーの養成がうちの弱さになっている。今までどおり広く社会で活躍する人材を育成すると同時に、トップとして活躍できる人材に集中して、手厚いプログラムを用意していくことも必要だと思っております」
また、国家公務員、外交官、国連などの国際機関により多くの人材を出せる大学にしていきたいとも言う。

4. 伝統ある大学の資産を活かす

東京外語大ならではのグローバル人材像を打ち出すうえで立石学長がキーワードとしてあげるのが「コンフリクト=摩擦」だ。
「グローバルなものとローカルなものが、色々摩擦を起こしている。それが21世紀だと思うのですね。グローバルスタンダードがあり、ローカルなものがあり、それらがコンフリクトを起こしている中で、様々に仲介をしていく人材が必要とされているわけです」
そこで国際社会学部で2014年度から始める予定なのが、「『コンフリクト耐性』を育てる地域研究教育システムの開発と、国際職業人教育機能の高度化」というプログラムだ。内戦をはじめ色々な問題を抱える地域へ、地域研究のスタディツアーとして、安全を確保しつつ学生を送り出すコンセプトだ。
「アメリカの提携校への缶詰留学で留学率100%とかにするのではなく、例えばベトナム、イラン、アフリカなどへ送りたいと。高度な専門職業人の養成として、まさに今求められている人材ではないかと思っておりますので、多少文科省から予算もいただけることになりました。ただ、外部予算の切れた後はどうするか。この事業に限ったことではありませんが、財政力のある大規模な大学ではないので、その点は非常に難しいですね」

そこで資金調達策の一つとして、「東京外国語大学建学150周年基金」を立ち上げた。2014年度から10年間で10億円を集める計画だ。留学生と日本人学生の「IJ共学」を支援する設備の建設・運営、海外留学の奨学金、留学生の受け入れ奨学金などに充てる。
「単にお金集めではなくて、10年間の活動の中で、各界・各地域で活躍するOBのネットワークを強化したいということがあります。基金の呼びかけと同時に、寄付講義の講師、留学や海外インターンシップのサポートなど、様々な形で母校とのつながりを持つことを卒業生に働きかけたいのです。
例えば東京外語会は、世界約60カ所に支部があります。そうした地域へ留学した学生が現地の外語会で卒業生に相談できるような仕組みを、強化しつつあります。さらに言えば、各国の卒業生も組織化したい。日本語を勉強して母国に戻り、そこで活躍している方たちも多いのです」

学内には「外語祭」が象徴する豊かなキャンパスライフ、学外には卒業生のネットワーク。いずれも歴史ある大学ならではの資産といえる。この資産が現代社会の要請にもっと活かせるという確信と活かしたいという希望を、立石学長は「夢は大きいのです」と表現している。

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