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[Vol.17]和歌山大学における就業力育成の取り組み

学生の自主・自律を育成

2014/06/09  タグ:  

和歌山大学基礎DATA

本部所在地 和歌山県和歌山市
設置形態 国立
学部 教育学部、経済学部、システム工学部、観光学部
学生数 4105名(2013年5月1日現在)
就職率 88.5%(2012年度)

和歌山大学の取り組みのあらましについて

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、産業界との連携や地元自治体との協働によって学生の就業力を高めることに成功している取り組み事例などを、積極的に紹介していく。
今回は、「生涯あなたの人生を応援します」をスローガンとして掲げる、和歌山大学の山本健慈学長と鰺坂恒夫教授(学長補佐キャリア支援・男女共同参画担当/システム工学部教授)に、学生の人生の支援という観点での取組についてお話をうかがった。

0.和歌山大学の就業力の現状:課題認識

「教育というのは、ヒトを人間として育てること」――山本健慈学長は、教育学という自らのバックグラウンドから、そんな問題意識を持っているという。「人間としての基本的な形成がなされないまま専門教育が行われ、人間としての判断力を持たないまま専門家になるというのは、ある意味で危険なことであるし、学生本人の本当の意味での将来の幸せに通じないと思っているんです。」山本学長がこう言いながら想起するのは、およそ20年前のオウムの事件。エリート大学生がカルトにはまったことで多くの大学人が衝撃を受け、大学のあり方を自問した事件だった。
これは「就業力以前の基本的な問題意識」だが、その上での和歌山大学の就業力への認識は、大学のためでも企業のためでもなく、学生のための就業力であり、「学生が自らの幸福を実現する主体になる」ことが基本、というものだ。
「自分の幸せを実現する主体になるということは、自己認識をしっかりするということ。自分の個性を自覚して、自分の個性をどう生かすことが幸せなのか、その方法を自ら獲得できるということが一番重要です」(山本学長)

1. 教養教育・専門教育+協働教育

和歌山大学の教育改革の具体的な取り組みの一つは、基本的な人間としての形成を支援する教養教育の重視だ。それを一元的に担う「教養の森」センターが、2012年度に設立された。
キャリア支援を担当する鯵坂恒夫学長補佐(システム工学部教授)は「教養の森」センターについてこう語る。「大学は『象牙の塔』と批判されることがありますが、社会の中で象牙の塔のようなことができるのは大学しかない。大学には、『教養の森』のようなちょっと象牙の塔っぽいところがあってしかるべきです。一方で、産業界ニーズに対応した教育が必要なのもわかります。どっちも捨てたらあかんと思っています」


キャリア教育体系
http://www.wakayama-u.ac.jp/career/careeredu/concept.php

そこで和歌山大学は、「人間となるための教養教育」「専門家になるための専門教育」に加えて、社会性を意識した「協働教育」を第3極と位置づけた。
「産業界が学生に期待する力のひとつに、協力する力・チームでの力があります。コミュニケーション力が弱いと言われることとも関連しますが、今の学生はチームの経験が少なく、協働作業が苦手とか拒否するとかの傾向があります。中には、中高の段階でのいじめなどで苦い、痛い経験を持っている学生もいます。そのあたりも踏まえて、自発的でかつ協働的な経験を積み上げさせようということです」(山本学長)
「社会を毎日動かしているアクティビティというのは、営業チームにせよ設計チームにせよ、基本的にチームでやっている。リーダーシップということがよく言われますが、リーダーばっかりおったのではチームのワークはうまくいかないので、フォロワーシップということも体験していかないといけない。それが協働教育であろうと」(鯵坂教授)

協働教育は、インターンシップ、PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニングおよびプロブレム・ベースド・ラーニング)、就業力、キャリアデザインなどを含んでいる。2001年度に始まった通称「クリエ」こと学生自主創造科学センターを、本年度から協働教育センターとして改組した。
「原型は95年に設置されたシステム工学部で始まった『自主演習』です。レクチャーによる学習ではなく、自分たちの興味関心に基づいてテーマを設定し、フォローしてくれる先生も自分で見つけ出して、それを大学で支援するという仕組みで、結構面白い学生が育ってきている実績があるんです。この伝統にチームの教育をプラスしたのが、協働教育センターへの改組です。
主体的・能動的に、非常にいきいきと学んでいる学生の一群があるということが、和歌山大学の一番いいところだと外部評価からは常に言われてきて、見学者も絶えません。いくつかの国立・私立大学がうちを参考に自主学習を支援する仕組みを作っていると聞いています」(山本学長)

2.専門職員という第3極

教職協働について鯵坂教授は、「専門教育と教養教育の第3極として協働教育がありますが、人材面でも、教員と事務職員からなる大学という組織に、専門職員という第3極が欲しい」と言う。
山本学長も、「将来の大学の人的構成を考えると、事務系の職員も専門性の持てるキャリアパスを作ろうという話もあるし、第3の領域の、新しい専門職のカテゴリーを自立させていく方向に向かうのではとも思います」と言う。その一方で、「うちの職員は非常に水準が高い」と現状を評価する。学生に向かう姿勢、「生涯あなたの人生を応援する」というスローガンを現場で体現している度合いにおいては、教員よりもむしろ職員が一歩先んじているというのだ。
「就職の問題で、学生はかなり自立的なのに親が妨害しているとします。そこで学生が親と戦えないとしたら、親も含めて就職支援しなくちゃいけない。そんな事例がかなりあります。そのときに職員たちは、たんに厄介な親というのではなく、親のそれまでの人生、ライフヒストリーにも思いを馳せながら、『親も含めて対応しないと、学生の面倒が見られないね』というような議論をごく自然にしている。一人ひとりの学生を、親も含めてどう受け止めて、具体的に支援したらいいのか、最前線で非常によく考えていると思います」(山本学長)

3.『教育活動宣言』の公表

今後の課題は、2つの意味での教員の人材開発であるという。1つは教育技術という意味、もう1つは意識改革という意味だ。
教育技術の面では、アクティブラーニングの指導力を高めることが、重要かつ難しい問題だと鯵坂教授は言う。「すごく属人性のある問題なので、グループワークの指導や学生に対するファシリテーションのうまい人と組む、いわば教員のOJTをするのが効果的でしょう」。
ところが、一大学ではそういう「うまい人」の数が非常に少ないという問題がある。「でも、たくさんの大学が寄ればちょっと数が増えるでしょう。ですから『産業界ニーズ』事業のように複数の大学が寄る機会を利用して、アクティブラーニングの指導力を高めることをやりたいと考えています」(鯵坂教授)

意識改革のレベルでは、教員が「一人の大学人として、一人ひとりの学生に伴走していく意識を持てるか」を、山本学長は問う。
「正規の教員280人が280人、教育的に機能すれば、和歌山大学は非常に高いレベルの教育機関になると思うのです。
こういうプログラムを作るとこういう就業力のついた学生が作れますよみたいなのは、世間にはわかりやすい話ですけれど、嘘っぽい、ですよね。あんまり嘘の絵は描きたくない。それよりも、和歌山大学の教職員はこういう姿勢で学生たちと付き合いますという、学生に対する教育活動に関する誓いの文章を『教育活動宣言』として公表しようと思っているんです」
「教育活動宣言」は入学式で学生に対して誓い、全教職員がクレド(信条)として名刺大のカードにして持ち歩く構想という。


入学式(2014年4月5日)で公表された「教育活動宣言」
http://www.wakayama-u.ac.jp/file/20140405welcome.pdf

「学生一人ひとりにはそれなりに人生にストーリーがあるわけで、そのストーリーを理解してやって受け止めてやって、彼らが自分で幸福を追求する主体になるために何が一番いい応援になるかということを考えれば、それだけでもずいぶん若者はエンパワメントされると思うんですよ。極論すればそれだけでもいい。細かいカリキュラムなんか要らないんじゃないかと。私が学長として和歌山大学に残したいのは、そういうマインドを持つ、教職員のかたまり。それを経営の理念として貫いていけば、役に立つ大学として評価されていくのではないかとも思っています」(山本学長)

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