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[新Vol.27] 弘前大学

地域との関わりの中で学生が成長する大学を目指す

2020/09/07  タグ:  

弘前大学基礎DATA

本部所在地 青森県弘前市
設置形態 国立
学部 人文社会科学部/教育学部/医学部/理工学部/農業生命科学部
学生数 5916名(2020年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、地域志向教育に積極的な弘前大学の取組みについて、福田眞作学長にお話をうかがった。

1.「地域志向大学宣言」に基づく大学改革

1949年の開学以来、青森県弘前市にキャンパスを置く弘前大学は、県庁所在地ではない都市名を冠する珍しい国立総合大学だ。青森にあった医学校や師範学校が戦後、空襲被害のなかった弘前市に移転、旧制弘前高校などとの統合で新制大学となったのが弘前大学、という設立経緯だ。
2020年4月に就任した福田眞作学長は、「歴史と名称に表れている通り、本学は弘前という地域と共にあります」と言い、こう続ける。「2014年に当時の学長・佐藤 敬は『地域志向大学改革宣言』を行い、地域を志向した大学改革を推進していくことを内外にはっきりと表明しました。
その一方で、本学で育成される人材や地域の課題解決に向けた教育研究によって得られる成果は、決して地域限定ではなく、世界に通用するものです。それを示す『世界に発信し、地域と共に創造する』というスローガンも、本学は掲げています」。

将来の地域創生人財と期待される学生の特徴を福田学長は、「偏差値とか成績がどうというより、とても素直な学生が多いという印象です」と言い、人間力の向上を育成の課題として挙げる。「環境の中で色々な問題を見て聞いて考える機会を持つ、それが恐らく人間力の向上につながっていくのではないかと思っています」。

2.「オール青森」で取り組むCOC+事業

弘前大学は第3期中期目標・中期計画(2016年度~2021年度)において4つの戦略を策定した。そのうち、地域の中で「学ぶと働くをつなぐ」観点で大きいのが、COC/COC+を活用した戦略4と、地域の強みである「アグリ・ライフ・グリーン」の発展を目指す戦略1だ。

戦略4のCOC+ 事業は、2014 年度採択のCOCに続き、2015年度「オール青森で取り組む『地域創生人財』育成・定着事業」として採択された。
今、地域の大学が改革を進めるにあたって、常に直面する課題の一つが地域の人口減少だ。とりわけ、弘前大学のある青森県は、人口減少数が全国2位、若年者の人口減少数が全国6位など深刻という。しかしこれは一大学だけで取り組めるものではないため、COC/COC+の枠組みを利用して、県内の大学、高専、自治体、企業による『オール青森』ネットワークを形成して、青森の将来を担う人材の育成と県内就職率の向上に取り組んだのだ。
人材の育成という点では、地元企業・地域共育型インターンシップ、女子学生のキャリア支援プログラム、学生発起業実行プログラムが開発され、実行された。
県内就職率の向上に向けては、県内を青森、弘前、八戸、むつの4ブロックに分けて取り組み、県内企業説明会の開催、中長期の共育型インターンシップの実施、コメディカルの学生対象のホスピタルカフェ(病院と学生との交流会)の実施などが行われた。
さらに県内企業の採用力の向上を目指すワークショップ「採用力向上セミナー」も実施した。

3.アグリ・ライフ・グリーン分野の人材育成

戦略1「アグリ・ライフ・グリーン分野における地域の特性・資源を活かしたイノベーション創出・人材育成」は、総合大学ならではの理系、人文社会系の知を結集した「オール弘前大学」での取組だ。アグリ=食、ライフ=健康、グリーン=再生可能エネルギーの3分野を活かして、地域活性化に向けたイノベーションの創出と人材育成を目指すもので、3つの取組を展開している。
取組1「地域の特性・資源の活用に向けた理工系人材の育成」は理工学部の体制整備が中心で、グリーン分野の中心となる自然エネルギー学科、ライフ分野を担う機械科学科医用システムコースの新設などの改組を、2016年度に行っている。
取組2は、「食に関する地域イノベーション創出に貢献できる人材の育成」で、アグリ分野に当たる農学生命科学部の体制整備が中心になっている。「食」「国際化」というキーワードで、理工学部と同じ2016年度に、生物資源学科を食料資源学科に、園芸農学科を国際園芸農学科に改組した。国際園芸農学科に他学科生も履修できる新科目「海外研修入門」を開講するなど、学部全体で国際分野を充実させた。
取組3は、「国際競争力のある青森ブランド食産業の創出に向けた“青森型地方創生サイクル”の確立」。「『食』は青森県の大きな強みですが、青森ブランドの食を戦略的に国内及び海外に届けるには、生産から加工、流通までを通じて様々な課題もあります。そこに各学部・研究科など弘前大学の『知』を結集して、Farm-to-Tableの流れを作り、青森地域創生サイクルとして構築していくのがこの取組です」(福田学長)。

4.戦略の成果として県内就職志望率が向上

COC+事業についての成果として、外部委員にも評価されたのが、県内就職志望率の向上だ。「2015年度は39.1%でしたが、それが数値目標とした『50%以上』まで上がっています」。その成功の要因を学長に尋ねると、地域性に関連づけたこんな答えが返ってきた。
「入学者の出身地は北海道が3割くらい、青森県が4割くらい、東北各県と北海道を合わせて9割近くになります。もともとある北海道人、東北人としての地域への愛着を、地域志向カリキュラムの取組を通じて刺激することができたということが大きいのではないかと」。ただ、実際の県内就職率の向上につながっていない課題はあると言う。

「アグリ・ライフ・グリーン」事業の成果については、取組1の理工学部、取組2の農学生命科学部の改組が2019年度に完成年度を迎え、2020年春に新学部の第1期の卒業生を送り出した。取組2の「国際化」をキーワードとした「海外研修入門」も、2017年から3カ年開講し、次のステップとして、海外インターンシップの実施に向けた試行もしているという。「ただし残念ながら、今年度は新型コロナウイルスの影響で、海外研修入門と海外インターンシップを中止せざるを得ませんでした」(福田学長)。
取組3に関しては、地域イノベーションの創出件数、「食」「エネルギー」関連共同研究・受託研究の実施件数、新品種・新商品の開発件数、学生の県内就職志望率と、4つの評価指標を設けているが、いずれも達成状況は良好で、文科省からも高い評価を受けているという。

5.大学と地域で人材を育成

福田学長は、医学部附属病院長として学長特別補佐を務めた時期に、当時の佐藤学長の取組を通じて、改めて弘前大学が「地域と共にある大学」だと感じたという。
「大学生活というのは、勉強だけでなく、地域との関わりの中で人間を成長させていくものだと思います。本学の学生達は、地域の県民・市民と接して、人間としての温かさとか思いやりとかを身につけていける。そういう地域だと思うのです。大学だけでなく、地域が人材を育成しているのではないかと考えています」。
大学と地域とで育てた人材が青森の地域課題を解決する。それが今後も弘前大学の「学ぶと働くをつなぐ」方向性の主軸であることは変わらない。しかし福田学長はまた、「青森県地域の課題を解決するためだけでなく、大学で学んだ後に出身地域に帰り、地元に貢献できる人材の育成が、地方大学に求められているものではないかと思いますので、そういった取組もしていきたいと考えているところです」とも言う。

もう一つ背景にあるのは、東北地区の人口減少が、他地域に比べると急速に進むという危機感だ。「本学が継続して役目を果たしていくためには、北海道と青森で入学者の約7割という現状を変え、もっと多くの地域から来て頂ける大学になっていく必要がある」。
まずは青森県を元気にする人材育成。でも、どこから来ても、ここで学べば、地元に帰ってその地域を元気にすることに貢献できる。そういう人材育成を、将来的には行っていきたいということになるのだろう。

「弘前大学は2004年の法人化以降、急速に進化した大学ではないかと思います。その中で、『地域を元気にする大学』ということは当初から打ち出しています。そういう魅力ある大学なのですが、未だ知名度があまり高くない。東京に行くと、弘前大学の名前さえ知らない高校生がいるということなので、その点に関しては広報を、もっと努力していかなければいけないと思っています」。

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