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[Vol.11]京都造形芸術大学における就業力育成の取り組み

芸術系ならではのワークショップ授業

2013/05/16  タグ:  

京都造形芸術大学基礎DATA

本部所在地 京都府京都市
設置形態 私立
学部 芸術学部
学生数 3135名(2012年5月1日現在)

京都造形芸術大学の取り組みのあらましについてはこちら

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、産業界との連携や地元自治体との協働によって学生の就業力を高めることに成功している取り組み事例などを、積極的に紹介していく。

第11回の今回は、「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」を掲げる京都造形芸術大学の、アーティスト養成とは異なる方向性で「藝術立国」への寄与を追求する就業力育成について、大野木啓人副学長にうかがった。

0.京都造形芸術大学の就業力の現状:課題認識

大野木啓人副学長は大学教員になる以前、「25年ほど企業に勤めながら、大学の教育は間違ってるのではないか、考えていました」と言う。「今の社会が欲するものをどうやって作っていくかということに対して、卒業生が全く使い物にならない状況があるからです」。そんな状況を改善したい、学生を本当にちゃんとした社会人として送り出す人材育成をしたいという思いを持って大学教育に携わり始めたという。

新設された空間演出デザイン学科の学科長に就任した大野木教授は、2000年度、空間演出デザイン学科の1期生 70人全員で鳥取の浜村海岸に行き、チームごとに丸1日かけて10~15m四方の砂の造形物を作るワークショップ型の授業を5月に実施した。
同学科の1期生はさらに、1年生の3月から2年生の4月にかけて、京都市文化課による「二条城ライトアップ」に取り組んだ。企画、制作から会期中の運営までのすべてを手がけたのだ。このプロジェクトは今も毎年、京都造形芸術大学の学生の手で行われている。

大野木教授をはじめとする同学科の教員は、浜村海岸と二条城の2つの試行によって、ワークショップを組み込んだ教育法の有効性を確信し、継続していこうという信念を固めた。

1.全学でワークショップ型学習を展開

2002~2003年には学内で「空間演出デザイン学科は他の学科に比べて元気がある。その取り組みを全学の取り組みに変えていってはどうか」という判断が早くも出てきた。また、大野木教授が2005年度に学部長になったことで、現在全学で展開されている「リアルワーク」や「グループワークショップ」への道筋がついた。
リアルワークを2005年度、ワークショップ型初年次教育を2007年度に全学でスタートし、2008年度にはいずれも文部科学省の「質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)」に採択された。

京都造形芸術大学「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」教育課程概要
http://www1.kyoto-art.ac.jp/gp/

「頭と手を動かすワークショップ型初年次教育」は、1年生全員を学科横断のクラスに編成して「ベーシックワークショップ」「グループワークショップ」を行うもの。ベーシックワークショップは通称『マンデイ』と呼ばれており、前期の月曜日、朝から夕方まで、800人以上の1年生が一斉に受講する。夏休みの2週間はねぶたを共同制作する「グループワークショップ」にあてられる。
これだけ大胆なカリキュラム改革には、当然犠牲も伴った。「月曜日まるまる1日を『マンデイ』に取られるわけですから、そのぶんの専門の講義科目を中心に他の科目がなくなってしまいました」。科目の削減について、大学として果たしてそれでいいのかという不安もあった。「しかし結局は、多くの科目の単位を取ったとしても、学生のモチベーションが上がってない限り全部抜けているはずで、無駄なことだと思います。それより、コラボレーションや体力を使うことに加えて、社会で必要とされる教養をリアルに学べるワークショップのほうがずっといい」。

もう1つのGP、「リアルワークによるキャリア教育」は、「二条城ライトアップ」のような産官学連携のリアルワークをプロジェクトとしてプログラム化する取組だ。2011年度の場合、延べ556人の学生が選択しており(複数のプロジェクトにかかわる学生もいる)、このうちの約4割は1年生。1学年約800人の4分の1が受講している計算となる
「こうした取り組みの成果として、2012年3月の就職決定率(就職決定者÷就職希望者)は、3年前の66%から81%に大幅にアップしました」

2.芸術系大学としての困難

就業力向上の取り組みに当たっては、芸術系特有の困難があった。まず学生が就職しようと思って大学に入学していない。教員のほうも就業力を高めよう、就職させようという意識を持っていなかった。
「まず教員にそういう意識を持たせるのも時間がかかることでしたね。考え方として『就職だけが人生じゃない』とかいう先生がいると、それが学生のなかにぽろぽろとどうしても伝わってしまうのです。全学挙げて社会性のある大学を目指そうとしているのにそれではまずいと、一丸となって行く意思を統一する意味で、この1月には就業力宣言を強く打ち出しています」

教育の目的を「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」に集約した新5か年計画のもと、2007年度の改組以降、就職率を上げることが大学の存続にかかわる大きな問題として意識させられるようになってきたという底流もある。
「どんなに入試広報活動にエネルギーをかけて学生を集めても、育たなかったら、うちの大学は生き残っていけないだろう。いい社会人をちゃんとつくって、長い目で見たときに社会的に評価を受ける方向にみんなして動いていこうという目標を置いたのです。
もちろん、そんな話をしたからといって、教員全員が『よし、協力してそれでいこうや』ってなかなかなるものじゃない。それぞれ専門があって、自分らは自分らでいいと思うことを独自にやりましょうという、それぞれ勝手な動きが当然出てきて当たり前だと思います」
初めはそういう動きも許容しながら、いろんなワークショップの成果を見せていって、だんだんに多くの教員を巻き込んでいったという。特に、1年生全員が参加する『マンデイ』の効果は大きかった。学生の雰囲気が目に見えて変わり、教員が効果を実感できたからだ。

3.「授業」と「学生」、2つの評価

今後の方向性として意識しているのは、2つの意味での「評価」だという。1つは授業の評価だ。表面的な報告書ではなく、その授業がなぜ良いのか、なぜ効果が高いのかという深い分析や論理的な裏付けまで踏み込むことが大事だと大野木副学長は言う。
もう1つは学生の成績評価だ。プロジェクト系のPBL型授業で、評価に悩む大学は多い。極端な言い方をすると、プロジェクトの目的を達成すればメンバー全員が評価Aという付け方をすることもある。
「仮にプロジェクトが失敗でもみんなが評価Cではなく、その中で頑張ったやつ、頑張り切れなかったやつをきちっと評価する形を今とっています。これをするかしないかで、身に付くか身に付かないかが全然違うと思います」

4.芸術系大学と就業力の大きな可能性

芸術系というと「アーティスト養成」をイメージしがちだが、京都造形芸術大学は違うと大野木副学長は言う。
「一部のトップアーティストを育てるのも大事ですが、本学はそこを目指しているわけではありません。
理事長の『藝術立国』という大きな理念の中には、次の時代の正しい人間の生き方の方法論は、芸術を理解し学ぶことで感じ取れて、それをもとに自分なりの力で世の中を切り開くことができる、そういう人間をつくれるのは芸術しかないという強い思いがあります。
そこから出てくる本学の大きな使命は、絵を描けるとかデザインができるとかいう人材育成ではなく、どんな仕事に就こうが人間としてまっとうなものの判断ができる人材、まっとうな方向をちゃんと示せる人材づくりです。一般大学ではなかなかできないことだけれど、芸術というわかりやすい切り口があるからつくっていける。こういう形で芸術を学んだ学生は、例えば経営的な動きにせよ政治にせよ、何が正しいかを即座に判断できる強みを持つんです」

さらに大野木副学長は、「他者を認める」という芸術の特性を強調する。
「芸術は、人のものをすばらしいと言うとか、あなたはこういう考え方ができているとか、他者を非常に尊重できる方法論があるし、人が作ったものに感動したり、自分の作ったもので人を感動させたりという、他者を認める運動です。これだけ閉塞感のある社会をどうやって救うのかというときに、人間ってすばらしいという確認をとりながら、共に楽しくいい社会づくりを一緒になってやろうという発想が根本になかったら絶対無理だろう。その発想ができるのがうちの学生たちで、どんなところに行っても、社会をつくる大事な人材になっていく。僕はそういう信念を持っています」

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