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[Vol.23]九州工業大学における就業力育成の取り組み

技術開発の変化速度に対応する工学系教育改革

2015/05/20  タグ:  

九州工業大学基礎DATA

本部所在地 福岡県北九州市
設置形態 国立
学部 工学部/情報工学部
学生数 4245名(2014年5月1日現在)
就職率 99.3%(2014年度)

九州工業大学の取り組みのあらましについてはこちら

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、産業界との連携や地元自治体との協働によって学生の就業力を高めることに成功している取り組み事例などを、積極的に紹介していく。
今回は九州工業大学で、独自に作成した「エンジニアのためのグローバル・コンピテンシー(GCE : Global Competency for Engineer)」を軸とする技術者養成の取り組みについて、松永守央学長と尾家祐二副学長にお話をうかがった。

0.九州工業大学の就業力の現状:課題認識

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九州工業大学では、就職率・就職先共に学生の希望に近い形でできている現状だと松永守央学長(写真左)は言う。
「ただ、将来に向かって一番の不安要素としてあるのが、本学の卒業生の主な進路である技術開発分野における、変化のスピードです。以前ですと卒業して10年から15年は同じ仕事を続けることができましたが、今は3年とか、もっと短い期間とかでどんどん仕事が変わっていく。そういうことに対応できる能力とはどんなものか、そのためにどんな教育をするか。根本的に教育のあり方から見直そうということになったわけです」

1. グローバルと創造性を柱とした教育改革

改革に当たり確認された教育コンセプトは、「創造する個」及び「グローバル人材」の育成だ。工学技術者もしくは研究者に求められるクリエイティブネスや探究心を「創造する個」という言葉で表現。グローバル化社会に対応した人材像として「GCE」を掲げ、「多様な文化の受容」から「デザイン力」までの5つを、必要な能力として示した。さらに、この5つを習得するために、グローバル教養教育、Study Abroad、Work Abroad、など5つの柱を立てている。

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http://www.ltc.kyutech.ac.jp/wordpress/img/GCE-brochure-j-20141204.pdf

「全般的なコンセプトとしては、インタラクティブ、相互作用が引き起こされるような、学習のありようなり環境なりを増やせば、自ずと学ぶだろうということです。様々なインタラクティブが生じるような学習の内容と環境を、一つの体系に統合、パッケージ化しています」(尾家祐二副学長)
そのパッケージは、コンピテンシー(Competency)、それを修得するための教育プログラム(Circuit Program)、それを育む環境であるラーニングコンプレックス(Learning Complex)からなり、「3つのC」と名づけられている。
教育プログラムの構築に当たっては、「大学だけの力で『創造する個』や『グローバル人材』を育てられる時代ではない」(松永学長)ということが強く意識された。
工学系の教育では必須となる産業界との協働・連携については例えば、北九州市立大学、早稲田大学との3大学連携大学院でインテリジェントカー・ロボティクスというコースを開設した。
「自動車メーカーの方々にプログラム、カリキュラムにコミットして頂き、学生の指導まで関わって頂いています。こういう教育は企業の方の協力がないとできないものですが、大学にもメリットがありますし、企業にも、彼らが欲しい人材を育てるというメリットがきちっとある。そういうプログラムを増やすことは、学長からも指示を受けています」(尾家副学長)

グローバル人材の育成についても、海外との関係をどうするかを本気で考えた。
「特に若者が海外に出たがらないといわれるなかでどうすればいいか、様々な議論を経て、2013年4月に海外教育研究拠点MSSCをマレーシアに開設するなど、いくつかのプロジェクトを実行していきました。その成果として、2014年度は120名程度の学生がマレーシアへ、400名を超す学生が海外に行きました」(松永学長)

そのほかカリキュラム全体を通じて、PBLやチーム学習を増やす方向性を持っている。そのための環境として、ミライズ(MILAiS)と呼ぶインタラクティブ教室を2011年から運用開始。授業内でチームディスカッションなどがしやすい設計の教室群で、当初は飯塚キャンパス1箇所のみだったが、戸畑キャンパスにも整備を進めている。
複合的学習環境=ラーニングコンプレックスとしてはこのほか、附属図書館に2011年、附属図書館分館に2013年に整備したラーニングコモンズ、学習だけでなく、発表の場、交流の場としても活用できる空間として2014年には飯塚キャンパスに「ラーニングアゴラ棟」を開設。工学系ならではの環境として、ものづくりのための「デザイン工房」も飯塚キャンパスを皮切りに戸畑キャンパスにも「未来型インタラクティブ教育棟」内に設置されるという。

2. ルーブリックの積極活用

九州工業大学のこの教育改革では、ルーブリックを積極的に取り入れている。コンピテンシーの各要素に対して、各授業やPBL、海外派遣プログラムやインターンシップまで多くの教育プログラムにルーブリックが作成され、それに沿って、学生が自己評価したり、チームでの学習やプロジェクトではメンバー同士で評価したりと活用している。
「学生を評価する際に教員が使うこともありますが、本学では、学生が自己評価を深化させるツールとしての機能にも着目しています」(尾家副学長)
各種ルーブリックは、教育改革の成果を示すデータにもなっているという。

「学生にとってのプラスの効果はルーブリックで検証できていますが、そこには出ない成果として、学生達がアクティブに、元気になっているという実感があります。例えばマレーシアでの海外インターンシップ。消極的な本学の学生がどれだけ行きたがるかと心配していたのですが、12名の募集に対して20名以上の応募がありました。手を上げるという段階で、学生の気質が変わってきていることを感じます」(松永学長)
「考えが変わる、態度が変わる、行動が変わる。そういう学習効果が見えてきています。1年生の夏休みに、海外で現地の学生さんと一緒に学ぶプログラムがあります。正直言って本学の学生の英語レベルはそれほど高くないのですが、そんな学生でもよい刺激を受けて帰ってきて、その後自ら別のところに応募して、また海外に行ったりしています」(尾家副学長)
海外体験以外でも、学生が自律性を高めている事例が様々に見られるようになってきているという。

3. 改革を推進する意思決定の仕組み

現在、教育改革の中心になっているのは2014年度に設置された「教育高度化推進機構」だ。その設置前は、「教育企画室」(2010年度設置)が文字どおり企画を担当、「学習教育センター」(2011年度設置)がその企画の実施部隊として機能してきた。
「企画に対してトップダウン的に学長からの指示が直接反映されること、実施がスムーズにいくことを考慮して、従来の2つの組織が機構の中に入る形で再編しました。学外と結びつけるために、企業の人事部の方による『産学連携教育審議会』という外部組織も設置しました」(尾家副学長)
この機構では、3部局長、教育企画室長、学習教育センター長、尾家副学長の計6名からなる「機構運営会議」が、学長からの諮問を受け、答申を上げる。特徴的なのは、各部局長が入っている会議なので、ここで決めた答申に学長からGOが出れば、各部局の教授会で再び議論することはなく、すぐに実施となることだ。
「ただし現場では、すぐにできることもあればできないこともあるので、これは今年度4月から、案件ごとに2、3年の期間をかけて検討するなどのスケジュールも立てていきます」(尾家副学長)

教育に対して熱心な教員が多かったため、改革の実行はさほど困難ではなかったと学長は言う。
「3つあるどのキャンパスでも、私が思った以上にすんなり受け入れてくれたなあというのはありますね。もちろん当然、全員がすぐに一つにまとまるということではないですよ」(松永学長)

4. 課題は質保証と変化への対応

今後の課題について尾家副学長は、教育の現場レベルで「質の保証の仕掛けを検討する必要があると思っています」と話す。
「産学連携教育審議会で、大学の教育の質保証が話題になりました。学生の自己評価と教員のつけた成績が乖離しているようなことはないか。企業人事の人から見た評価とのギャップはないか。また、学生個人レベルの成長だけでなく、学科全体、学部全体、あるいは全学で、例えばグローバル・コンピテンシーがどういうふうに育っているのか。そういった質保証のための情報収集を、今後しようとしているのです」(尾家副学長)

松永学長が感じているのは、工学系特有の、さらにはより普遍的に大学としての課題だ。
「時代が変わっていくなかでもやっていける技術者を作るという目標を立ててはいますけれども、時代のその変化を大学が的確に捉えられるか、今は自信がありません。さらに難しいのは、技術が3年で変わっていくとすると、入学した学生が卒業する時点で変わっているわけで、現状把握だけでなく未来予測の能力も求められる。これはもう、大学だけではとても考えられない。大学全体の教育を議論する場として、企業の人事部の方による産学連携教育審議会を作りましたけれど、本当はそれぞれの専門性ごとにそういう外部組織が要るだろうと思っています。
それと、これから大学は、卒業生や企業から寄付をもらわないとやっていけなくなります。そうすると卒業生が振り返って『あの大学を卒業してよかったなあ』という大学にならない限り、お金は集まってこないんですよね。そうすると新しい教育にも対応できない。意欲の高い学生が入ってこなくなれば、われわれの育て甲斐もない。人のサイクルが滞ります。ここの人とお金のサイクルを本気で考えることが、大学の課題だし悩みだと思います」(松永学長)

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