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[新Vol.12] 東海大学

大規模校でも学生一人ひとりと向き合う人材育成

2018/03/07  タグ:  

東海大学基礎DATA

本部所在地 東京都渋谷区
設置形態 私立
学部 文学部/政治経済学部/法学部/教養学部/体育学部/理学部/情報理工学部/工学部/観光学部/情報通信学部/海洋学部/医学部/健康科学部/経営学部/基盤工学部/農学部/国際文化学部/生物学部
学生数 28675名(2017年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、2006年度からチャレンジセンターという組織で社会的実践力の育成に取り組み、今それを全学に拡大させようとしている東海大学で、山田清志学長にお話をうかがった。

1.小さくても強い大学の集合体を志向

東海大学の特徴はまず、全国8つのキャンパス、医学部を含む18学部に約2万8000人の学部学生を擁する規模感だろう。全国に14校しかない在籍学生数2万人以上の大学の1つだ。そして山田清志学長は、「にもかかわらず『小さくて強い大学の集合体』を志向しているのが特色」と言う。
「根っこのところは、創立者・松前重義氏が掲げた建学の精神。大きく2つあって、1つは世界平和に貢献する人材、もう1つは科学技術立国を支える人材です」。その育成というミッションのために、「せっかくここまで規模感のある大学だけれど、あえて規模感に逆らうようなことをやってきた」と言うのだ。
「大きいからといって必ずしも安泰ではありません。大きいからこそ、恐竜のように絶滅してしまう可能性もある。環境の変化に対応して、小さいセグメントでやっていかなければならないと思います」。

2.プロジェクトを支援するチャレンジセンター

東海大学の「学ぶと働くをつなぐ」試みは、2006年4月に発足したチャレンジセンターが、その先鞭をつけた。自ら考える力・集い力・挑み力・成し遂げ力の4 つの力を、現代社会を生き抜き、社会に貢献するために必要な社会的実践力とし、その獲得を目的に、「学生主体の多様なプロジェクト」と「ワークを多く含んだアクティブラーニング型授業」を展開してきた。

学生自身が企画・立案するプロジェクト活動は、それぞれ配置されるプロジェクトコーディネーター(職員)、プロジェクトアドバイザー(教員)の支援を受けながら、大学外の社会で活動する。活動内容は、例えば「地域活性」のプロジェクトなら、キャンパス周辺の緑化活動や定期的な清掃、夏祭りや地元商店街のイベントのサポート、農作業の手伝い、除雪というふうに、地域のニーズに応じて企画されている。各プロジェクトは「アグリビジネス分野におけるブランド化の実現」といった達成目標とともに、「地域創生の軸となるビジネスへ挑む力と創造性を集めた集い力を学ぶ」といった学びのテーマを掲げることで、どのような実践力が身につくかを明確化している。
メンバー集めからPBLがスタートするのも「チャレンジプロジェクト」の特徴だ。複数の学部・学科に横断する50人以上(湘南以外のキャンパスは30人以上。「ユニークプロジェクト」は10人以上)という条件は、東海大学の規模感(学生数)ならではと言えるかもしれない。

チャレンジセンターは、採択までのプロセス、活動の環境整備、コーディネーターへの研修会(SD)の実施といったプロジェクト活動の支援を行う。同時に、プロジェクト活動の「実践」に「理論」を連動させる狙いで、アクティブラーニングの手法を取り入れた「チャレンジセンター科目(社会的実践力科目、ジャーナリズム実践教育科目)」を開講している。

3.To-CollaboプログラムでPA型教育を推進

2016年度実績では、全国のキャンパスで44件のプロジェクトに1865人が参加し、「社会的実践力科目」を4630人が履修した。相当な数ではあるが、プロジェクト活動の参加率は6.5%、社会的実践力科目でも約16%にすぎない。そこで次の段階として、これらの取組を全学的なものにしていくのが、「To-Collabo(Tokai university Community linking laboratory)(トコラボ)プログラム」だ。
2013年度に文部科学省「地(知)の拠点整備事業(COC事業)」に採択されたこの事業の下、「パブリック・アチーブメント(Public Achievement: PA)型教育」を取り入れた全学的なカリキュラム改革と組織改革が進められている。

PA型教育は、米国ミネソタ州を中心に1990年から実践されている教育活動であり、山田学長は「象牙の塔にこもらないで、世の中と関わりを持つことによって、市民性、社会性を高めていくこと」と説明する。教育方法としてはアクティブラーニングを導入し、各学部各学科の専門教育にさまざまな形で展開されてきた。

チャレンジセンターの取組を包括する形で進んできたCOC事業は2017年度で終了するが、地域連携を前提とした授業改革は継続していく。一例として、2018年度のカリキュラム改定では、チャレンジセンター科目のエッセンスを反映する形の発展教養科目「シティズンシップ」「ボランティア」「地域理解」「国際理解」(通称トコラボ4 科目)が全学必修となる。

4.全学的取組の基盤となる独自のFD活動

チャレンジセンターにせよTo-Collaboプログラムにせよ、大規模大学での実施には困難が伴う取組だ。それでも改革が進んでいる背景には、教職員の協力的な風土があると言う。「こういう取組に関心を払っていただける先生が、他の大規模大学に比べ多くいらっしゃるということじゃないかと思います」(山田学長)。仕組みや制度ではなく、全体として息づく建学の精神が支えているということなのだろう。
その源泉の1つともなり象徴ともなっているのが、夏休みに1泊2日の合宿形式で行われる「新任教員フォローアップ研修会」だ。

「かつては助手だけの研修でしたが、6年ほど前から、教授で入ろうが助教で入ろうが、原則全員受けていただくことになりました。学者になって功成り名遂げて来る人、生まれたての教員、企業から来る人、年代もいろいろです。
欠席すると次の年に案内がくる。それも欠席すると3年目も案内が来ます。さすがに3年経って“新任”研修は恥ずかしいですよね、早めに済ませましょう、と」。
このようにはっきりとマネジメントしている大学はなかなかないだろう。
研修会の柱の1つは、学園の背景を理解することだと言う。
「講話があったり校歌を歌ったり、それから『東海大学の強みは何か』といったグループワークをします。反発する部分もあるでしょうけれど、そういう話をあまり聞かないで学者になったような人は、素直に吸収していただける」。

もう1つ重要なポイントは、授業をどういうふうにやっていくか。いわばFDだ。模擬授業を見た後、各自専門科目の導入部分のさわりで15分の授業を実施、グループワークで良いところを指摘し合う。
「それが、どの授業もすごくいいんですよ」と、山田学長の言葉に力がこもる。「大目に見てくれそうな同僚だけでなく、学長とか副学長とか教学部長とかの前で、父兄参観日の発表みたいなものですから、先生達も気合いを入れて作るんですね」。

全国のキャンパスから60人前後が集まるこの研修会には、学内の異業種交流の意味もある。
「他学部・他キャンパスの先生とは、こういう機会でもないと、知り合うことがありません。ある意味同期でもありますし、横のつながりを作ってもらう意義も大きいと思います」。そのため、できるだけ1グループに1分野の教員は1人だけというような工夫がされている。「1日目、最初のうち雰囲気は重いんですね。でも、模擬授業を見たりして、夕食後の懇親会をはさみ一晩経つと、翌朝はもう所属の枠を越え、親近感を持って参加しています」。
この研修が高い成果を上げているため、昨年からは「教員5年次フォローアップ研修会」も始まった。

5.卒業生の「人生の質」を支える大学に

今後の方向性について山田学長は、2017年に迎えた建学75周年を機に、卒業生たちのその後の人生に大学はどのようなベネフィットを提供できるのかを再考したいと言う。
「言い換えると、人びとの暮らしや社会のQOL(Quality of Life)向上に寄与すると同時に、自分自身のQOLも高めるということ」。QOLは医療分野で健康保全の意味で用いられることの多い語だが、東海大学におけるQOLとは、「人生の質」「社会的に見た生活の質」を指す。だから「生活の質」という一般的な訳語ではない訳を使うことも考えていると山田学長は言う。
「Lifeは人生とも訳せるので、人生の質と言ってもいい。人生を豊かに全うできたという満足感かもしれない。そういうことを感じてもらうには4年間は短すぎますから、東海大学のおかげだという気持ちが卒業生の人生の節目節目に出てくるような、そういうシステムを大学の中で作っていきたいと思っています」。

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