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就職問題を複眼的・立体的に理解するための必読本

2012/05/21  タグ:  

『これが論点! 就職問題』

児美川 孝一郎 (編著)
日本図書センター
2012/4/20

ISBN:978-4284305952

『これが論点! 就職問題』の帯には、「学生がダメなのか 企業がわかっていないのか」と大きな文字で書かれている。編者の児美川孝一郎氏は就職問題のどこが問題なのかと、氾濫する若者の就職本の視座を整理している。まずはその構成を見れば、この本の内容が想像できる。

第1部 「就職問題」のどこが問題か?
第2部 学生の就活はどうなっているか?
第3部 就職の困難は、誰を直撃しているか?
第4部 「就職問題」の原因はどこにあるのか?
第5部 「就職問題」にどう対応するか?
付論 学生たちは何を求めているのか?

今、大学で就業力育成に関わる人であれば、現在の学生がかかわる就職問題をフラットに全体像を探るのに最適な書籍である。編者の主張は控えめに、他の19名の論考を紹介している。就職問題を複眼的・立体的に理解するための必読本と言えよう。

巻頭におかれた編著者による「編集のねらいと方針」「各論考の読み方ガイド」に沿って、構成をもう少し詳しく紹介しておく。

第1部 「就職問題」のどこが問題か?

「就職問題」のどこが問題か 児美川孝一郎……(1)

若者の就職問題の「広がりと奥深さ」を示す総論として、この本のために大幅加筆・修正した編著者自身の論考。

第2部 学生の就活はどうなっているか?

就活に追い詰められる学生たち 川村遼平……(2)
賢明な就職活動に向けて 上西充子……(3)

就活の実態を捉えるにあたり、(2)は企業側の問題に重点を置いて、学生たちが肉体的・精神的、経済的にいかに追い詰められているかを描く。一方(3)は、活動の「質」よりも「量」を追求しがちな就活スタイルや、業界や企業についての認識の甘さなど、学生側の問題を指摘する。

第3部 就職の困難は、誰を直撃しているか?

不況下の新卒就職の現状と対応 小杉礼子……(4)
学卒未就職という不条理 居神浩……(5)
就職活動システムの現代的機能 今野晴貴……(6)

就職の困難に直撃された層として、(4)は高卒・大卒の、(5)は大卒の未就職者を取り上げて論じる。(6)は、個々の学生が就活に「失敗」すればするほど市場全体としては人材配置に「成功」するという就職活動システムの機能を、逃れ難い「罠」として描き出す。

第4部 「就職問題」の原因はどこにあるのか?

企業は新卒採用者を大幅減 焦る学生の「就活」奮闘記 石渡嶺司……(7)
日本型雇用がダメなのか 大学生がダメなのか 海老原嗣生+城繁幸……(8)
若者の就職難の原因は安定・大手志向なのか 根底にある「人の使い捨て経営」と非正規化 竹信三恵子……(9)
終身雇用が若者の就職難を招く 八代尚宏……(10)
「就職氷河期再来」の虚像を剥ぐ 常見陽平……(11)

(7)は「就職問題」の原因として、学生の意識や姿勢の問題を直視すべきと提起する。
(8)は、就職問題を論じるためにいかに広範囲の社会問題を視野に入れる必要があるかがわかる対論。
(9)~(11)は、(7)とは対照的に企業側、もしくは社会全体の構造的な原因が大きいと見る。(9)は、若者の安定・大手志向が就職難を呼び起こしているとしても、若者を「そうさせている」のは労働者を使い捨てる企業の存在や非正規雇用の急拡大であると指摘する。(10)は終身雇用の制度、(11)は大学と学生の変容、ネット中心の就職活動への移行、企業の求める人材の高度化などに着目している。

第5部 「就職問題」にどう対応するか?

“適職という幻想”を捨て去る 仕事はただの糧と腹をくくれ 宮台真司……(12)
四大卒も中小企業を目指せばいい 海老原嗣生……(13)
大学「全入時代」の新卒者 就職市場のミスマッチ解消を 太田聰一……(14)
「新卒一括採用」という遺物 城 繁幸……(15)
新卒一括採用はもう限界 二七歳まで採用延期しては 山田昌弘……(16)
就活の早期化、長期化で学生、大学、企業をだめにする負のスパイラル転換を
 辻太一朗
……(17)
大卒就職をめぐる最近の論点 大島真夫……(18)
「ロスジェネ問題」の延長線では氷河期の歪みは解決しない 赤木智弘……(19)
教育の職業的意義を問う 本田由紀……(20)
職務を定めた無期雇用契約を 濱口桂一郎……(21)

(12)~(14)は、雇用(求人)と学生(求職)の希望の齟齬が就職難の主な原因と捉え、その「ミスマッチ」を解消・縮小する対策をさまざまに考えたものといえる。
(15)~(17)はそれとは異なり、現実に合わない制度自体の変革が問題解決につながるとの立場から具体的な提案を行っている。
(18)は、「若年失業の抑止」という従来の新卒採用の慣行がもつメリットを、近年の「活動開始後倒し」や「卒後3年新卒化」が失わせるおそれがあることを指摘している。
(19)~(21)は、現状をすぐさまどうするかではなく、中長期的な対応についての論考。(21)は新卒(大卒)の就職問題を直接に論じてはいないが、教育システムと雇用システムの接続に関する提案として読むことができる。

付論 学生たちは何を求めているのか?

就活生からの就活改革・第一次提言 就活シンポジウム実行委員会……(22)

実際に就職活動を経験した学生たちによる就活改革の提言。

『これが論点! 就職問題』児美川 孝一郎 (編著)日本図書センター (2012/4/20)

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