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[新Vol.18] 愛知東邦大学

学ぶ姿勢作りから自己実現までをサポートする「東邦STEP」

2019/03/11  タグ:  

愛知東邦大学基礎DATA

本部所在地 愛知県名古屋市
設置形態 私立
学部 経営学部/人間健康学部/教育学部
学生数 1335名(2018年5月1日現在)

大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングなど座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働など、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。
このシリーズでは、「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目し、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく(リクルート「カレッジマネジメント」誌との共同企画)。各大学が活動の方向性を模索する中、さまざまな取組事例を積極的に紹介していきたい。
今回は、自校の学生の現状を踏まえた「東邦STEP」が成果を上げ始めている愛知東邦大学で、榊直樹学長と松井慶太氏(入試広報課 課長補佐)にお話をうかがった。

1.課題は教育の“育”の部分

愛知東邦大学が4年制大学としてのスタートを切ったのは2001年(当時の名称は東邦学園大学)。経営学部地域ビジネス学科の単科で開学した。現在は3学部4学科で定員350名の規模になっている。
開学当初こそ当時の定員200人を超す学生を集めたが、榊直樹学長が常務理事として来た2006年頃には、人数の減少に加えて質的な低下も目立っていた。榊学長の目には「学ぶ意欲があるだろうか、というような学生」と映り、「将来への強い希望や意欲を持っている人たちばかりではない」との実感を抱いたという。
「18年間、あるいは小学校からの12年間、経済的に難しい状況や、それに伴う家庭環境から、自分が生きていく目標・価値・生きがい等を感じたり考えたりできてこなかった。それを基本に立ち返ってやろう、と。全体としてやはり教育の“育”、育むのほうに力を入れていかなければならない。これは相当エネルギーがいることですし、学生一人ひとりを人間として敬意を持って丁寧に見る姿勢、心根がないとできないと思ってきました」(榊学長)。
学園の創設者を曽祖父に持つ榊学長は、人材育成の方針を「学生個々がいかに自信や強みを身につける4年間にできるか」だと語る。

2.就職合宿~東邦STEP

こうした危機感の中のさまざまな取組の1つが、3年生の2月に1泊2日で行う「就職合宿」だ。企業の人事担当者を招いての模擬面接を通じて自分の強みを発見し、それを伝えるトレーニングをすると同時に、他の学生を見て「自分の物差し」を持つことを目的としている。希望者のみ・有料だったものを、2009年度の文部科学省「大学生の就業力育成支援事業」採択を機に、全学化・無料化した。

さらに、就職合宿までの3年あまりをどう過ごすかという観点で2015年度に始まったのが「東邦STEP」公務員コースだ。
東邦STEP運営委員会の副委員長である松井慶太氏(入試広報課 課長補佐)は、「実は自分も本学が母校ですが、しっかり努力した高校生活を過ごしていれば、ここに入学していなかったと思います」と苦笑まじりに語る。「東邦STEPは、学生がかつての私のように、いろいろな意味で『事足りない』、という前提に立っています」。

目標に対して逆算して行動できない。やらされないとできないし、しかもメニューを消化するだけという姿勢。基本的に頑張る気がない。これでは卒業後も社会で活躍するのは難しいのではないか。こうした学生に対する課題認識が東邦STEPの出発点となった。
社会で活躍する人材のベーシックスキルとして、『目標に向かって努力しようとする姿勢』『目標に向かって行動できる習慣』という2つのコンピテンシーを設定。それを身につけるプロセスを松井氏は、「うたい文句は『勉強の部活』」とし、野球部の「部活」を例に説明する。
「野球部は『目標』が甲子園で、その『勝負』は最後の公式戦です。最後の公式戦のために『能力確認』として練習試合が組まれ、『日々の活動』として練習がある。
これを勉強に応用すると、『目標』は公務員・教員採用試験の合格。『勝負』は採用試験で、甲子園への公式戦と同じく一回勝負です。練習試合にあたるのが資格挑戦。1年次9月にFP3級、1月に2級やその後の定期的な模試に挑戦させるのが『確認』で、『行動』は採用試験対策講座や講座外活動です」。
部活のたとえをさらに続けると、東邦STEP顧問の松井氏は監督、採用試験対策に知見を持つ専門学校TACの講師はコーチにあたる。

採用試験対策の予備校との違いはまず、上位概念として2つのコンピテンシーがあること。もう1つは、1年次から3年間にわたって取り組むことだ。まず1年次で学ぶ「姿勢」を、2年次で意識的に頑張らなくても自然に取り組める「習慣」を作る。そのため、1年次の9月には、講座外活動として1泊2日の合宿形式でのチームビルディングも実施している。「誰かに言われてやるのではなく、自分で課して、自分でできた、そういう好循環に持っていく」との意図だと、榊学長は語る。
東邦STEPのもう1つの特色が、課外活動にもかかわらず、「放課後」ではなく正課の時間内に行うことだ。一部の職員ではなく、教職員が全学的に取り組む象徴として「月曜から金曜までの、1限から5限」は重要なポイントなのだ。各学部はもちろんのこと、教務課、学生・キャリア支援課、学術情報課など東邦STEP運営への協力は多岐にわたる。

3.教職協働の効果を高める役割分担

時間割の調整は最大の教職協働といえるが、その一方で東邦STEPは、企画・運営ともに職員が主体で、教員が具体的に学生を指導することはほとんどない。
「プログラムを一緒にやることだけが教職協働ではない」と松井氏は言う。「教員養成でいえば、学部ではいい教員を育てることに注力し、採用試験対策は東邦STEPで預かる。相乗効果で学生により大きな変化を与えられるのが本当の連携だと思います」。
ここには職員と教員の、お互いへの期待と信頼がある。榊学長は学長・理事長の立場での思いを「レベルも手法も、いわゆる一流企業を目指すような学生が多い大学とは違った、我々なりのやり方がある。それには教員だけではダメで、職員の力が必要だと思いました。職員の志の高さは、本学の大きな力になっています」と話す。

教職の関係は良好とはいえ、東邦STEP導入時には困難もあった。予備校が関わることや正課活動との混在への懸念には、時間をかけて丁寧な説明を重ねたという。それでも学部の反対が一部覆せず、教員コースの開設は2017年度となった。
榊学長は、東邦STEPに対する教員の評価の高まりを、具体例をあげて説明する。
「東邦STEPの受講生たちが真摯で非常にいい手本なので、他の学生から見える場所で勉強させたい、そのために特別にガラス張りの部屋を作ってほしいと言った教員がいます。また、東邦STEPとの関わりの少ない教員が1年生に東邦STEPを勧めたという例も聞いています」(榊学長)。

4.成果と課題

甲子園が目標の野球部の場合、甲子園に出たかどうかは成果指標から外せない。これを「勉強の部活」に置き換えると、成果指標は採用試験合格者数になる。東邦STEP1期生の現4年生6名のうち公務員採用は消防の1名。この数字だけでは、成果は小さく見える。しかし、東邦STEPの意義等が受講生以外にも広まってプラスの影響があり、各分野合計で全学から15名の公務員採用試験合格者を出した。2001 年の開学以来最多という成果を目の当たりにして、全学的に意識が高まっていると榊学長は言う。
東邦STEPの受講者数も順調に伸びている。2018年度は入学者402名の約17%にあたる69名で、「入学者の20%」としてきた目標に近づいてきた。この間の実績が何もない中で受講者数が伸びている現実は、示している方向性への共感といえる。

現在の課題は「完走率」だ。松井氏は「1年生は合宿も含めて講座外活動がしっかり組めているが、2年生、3年生はやや手薄」と分析する。しかし実は、離脱理由で一番多いのは「目標が見つかって、公務員(教員)を目指さなくなった」というものだ。
「初めの目標は公務員・教員採用試験合格でも、その上位概念にあたるコンピテンシーを強化していくと、自立して違う目標を見つける学生が増えてくるのです」(松井氏)。
これは防ぐべき脱落ではなく、むしろ成果といえる。だから松井氏は「もちろんそうした学生の背中も押します」と言う。

5.目標を自分で決め、努力する学生を

愛知東邦大学は2018 年度、「オンリーワンを、一人に、ひとつ。」というコンセプトフレーズを打ち出した。榊学長は「本学の4年間で自信や強みを身につけることに我々教職員が向き合っていく誓いとして掲げた最も大事なスタンス」と言い、その意図を次のように語る。
「これからの時代、偏差値とか学歴とか、そんな一つの物差しや過去形に頼っていては、刻々変化する社会で活躍できない。充実した生活を送るには、小目標も大目標も自分の意思で設定し、それに向けて努力する姿勢を持ち、行動を習慣化して、目標を達成していく生き方に変えていかなければなりません」。

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