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学ぶと働くをつなぐ授業拝見[Clip Number 008] 弘前大学×地域企業多数

弘前大学人文社会科学部社会経営課程企業戦略コース3年次必修科目「ビジネス戦略実習I・II」

2019/08/29  タグ: ,  

弘前大学人文社会科学部の「ビジネス戦略実習I・II」は、5~6人の「学生カンパニー」ごとに地域企業からの「発注」に約8か月かけて答えを出す、課題解決型授業だ。アイデアを出すことにとどまらず、その実現に向けて「外注先」「販売ルート」などを開拓し、現実の市場で仮説を検証し、ときには失敗を経験し、企画を修正する。そんなビジネスの「PDCA」を体験することが意図されている。

学生カンパニー1社に地域企業1社が連携

弘前大学人文社会科学部の「ビジネス戦略実習I・II」は、複数の地元企業・団体・自治体の協力を得て行われるPBL型授業だ。2014年度に選択科目「ビジネスシミュレーション実習」としてスタートし、改善を加えながら継続、2018年度からは同学部社会経営課程企業戦略コースの3年次必修科目として開講している。2019年度は、ゼミ単位を基本とする10グループに分かれて53人が履修している。

この授業では、グループは「学生カンパニー」とされ、リーダーは「社長」の肩書を与えられる。以後「グループ」ではなく自ら決めたカンパニー名で活動し、4~5人の「社員」も全員が営業・広報・会計などの役職を担う。


学生カンパニーは企画運営会社の設定なので、必要に応じ製造やデザインは対価を支払って外注する

学生カンパニーはまず、1社ごとに指定された連携地域企業を訪問、発注=課題提示を受ける。例えば連携企業が「ファミリー層のカフェ来店増加」という課題を提示。学生カンパニーは「現在1週間に3・4組のファミリー層来店を、1日1組(週に7・8組)に増やす」を具体的な目標に設定、企画として「お子様ランチメニュー開発」を提案する、といった具合に進む。企画が発注元に承認されれば実施、その成果を検証して12月の最終企画提案(最終報告)へと進む。


「ビジネス戦略実習I・II」シラバス

7月26日の中間報告会では、試作品を持参、企画段階でつまづいているなど、進捗さまざまな学生カンパニーが、「学生カンパニーの紹介」「連携企業の紹介」「提示された課題」「設定した目標」「これまでの活動」「今後のスケジュール」のプレゼンテーションを行った。


中間報告会


津軽塗ウォールライトの試作品

各報告からは、学生カンパニーが自社の課題(企画の弱みや進行の遅れ)を自ら発見できていることがよく分かった。教員や連携企業からは「ターゲットと施策がずれているのでは」「競合商品についての調査が不十分」といった厳しい指摘も出たが、応答は「わが社ではこの施策が有効と考えました」「今後さらに調査を進めます」など落ち着いており、行き届いた指導の成果が垣間見えた。
また、1つの企業がクラスの全チームに同じ課題を提供するのではなく、学生カンパニー1社に地域企業1社が連携しているため、企業と学生との距離は非常に近い。各報告の「連携企業の紹介」では、学生が連携企業に抱く敬意が印象に残った。その敬意は、地域社会の一員である連携企業にとって切実な課題の解決に、自分たちも貢献したい、という意欲を高めているように思えた。

アイデアコンテストに終わらせない

2014年度からこの授業に中心的に携わる森樹男教授は、いちばんのポイントを「PDCA を回す」ことだという。「課題に対する仮説を立てるだけの『アイデアコンテスト』にはしない。科目の立ち上げ当初から一貫して気を付けている点です。調査・検討を行って立てた仮説を市場で検証し、最終提案にまとめるところまでPDCAを回してこそ、大きな学習効果が得られると考えています」。
そのために重要なことの1つが、スタート前の「適切な課題設定」だ。「各教員から連携企業には、すぐに結論が出るものではなく、PDCAを回す必要があるものをと依頼します。具体的すぎて学生が考える余地がないなどのあまり適切ではない課題は、再考をお願いすることもありえます」(森教授)。「適切な課題」が出れば、学生は「適切な目標」を設定しやすくなり、PDCAを回し始めることができる。

他の留意点はと尋ねると、森教授は「学生カンパニーにしている点」を挙げた。
PDCAを回さなければ独立採算の「会社」は立ち行かない。カンパニー名と肩書の入った名刺を作り、発注元や外注先で名刺交換をする。社長をはじめとする社内役割の設定で、それぞれの役割に責任を持ちつつ協働する形ができる。連携企業は「発注元」として、教員を介さず学生カンパニーに接する。教員は(課題設定時を除いて)連携企業と学生の間には入らず、学生カンパニーに対する「出資者」という立場をとる。カンパニーによっては発注元以外の外注先との関係性も生まれる。
こうした「学生カンパニー」のディテールすべてが、ビジネスのリアリティを学生に感じさせ、「本気度」を上げる。

グループでPDCAを回して課題発見力、協働力が向上


2018年度「ビジネス戦略実習I・II」履修生は、①1年次11月、②3年次5月、③3年次11月の3回、PROGを受検している。この授業の成果が表れる②→③の伸長は、大分類はすべて伸長予測を上回って伸びており、中分類では、協働力、統率力、感情制御力、課題発見力の伸長が大きい。
このうち協働力、統率力、課題発見力には、課題は選ぶ余地なく与えられるものの目標は自ら設定すること、グループワークでPDCAを回したことが効いているようだ。
感情制御力の伸長については、森教授は「学生同士で活動を計画し、調整し、自分たちのペースで行っていること。初回から何度も発注元企業と打ち合わせを繰り返し、課題を形にしていくこと。連携してくださっている企業さんが学生の状況を踏まえながら課題の負荷を調整してくれていること」などが影響しているのではと推測する。また、活動を通じて連携企業や地元地域との距離感が縮まるにつれ、「この課題を解決するのはわが社しかない」という大きなプレッシャーがかかり、ストレスマネジメントなどの力が引き上げられていくとも考えられる。

①→②の伸長はこの授業以外の教育成果だが、ほぼすべての大分類・中分類のスコアが①→②→③と継続的に伸長しており、2年次・3年次のカリキュラム全体がコンピテンシーを伸長させていることが分かる。
2019年度からは、4年次の「プロジェクトマネジメント実習I・II」(選択必修科目)に、「ビジネス戦略実習」全体のマネジメント(報告会、オープンキャンパスなど)や、各学生カンパニーのマネジメント(メンター役)を組み込み、科目間の有機的な接続をさらに強めている。カリキュラム全体としてのコンピテンシー育成が期待できそうだ。

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